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第五話 ㉝ ~激戦の予算会議~ エピローグ 悠斗視点

 第五話 ㉝

 ~エピローグ~






「…………つ、疲れた」



 予算会議を終え、会議室の掃除をしたあと、詩織さんから抱擁をされて、頭を撫でて、蒼井さんと三輪先輩からは白い目で見られて、気まずくなってカバンを掴んで生徒会室を飛び出してきた。


 そろそろ朱里の部活も終わる頃だろうと、体育館へと足を運んでいたが、想像以上に心と身体が疲弊していたようで、少しだけ壁に手を付きながら歩いていた。


 とりあえず、予算会議自体は穏便に済んだとは思っている。

 ただ、本当に大変なのはこれからで、依然として問題は山積みだ。


 そもそも、支援金がきっちりと生徒会に入るかもわからないし、卒業生がお金を寄付してくれるかも未定。


 部員が増えるとか、生徒数が増えるとか、正直なところ可能性の話だけをしたレベルなわけで、須藤さんが俺を「ペテン師だ」と言うのも当然だな。と思った。


 そして、懸念事項としては……


「明日から俺に人が殺到しそうだ……」


 蒼井さんや詩織さん、三輪先輩の為とはいえ、質問相談の窓口を自分にしたから、男女問わず人が来ることが予想出来る。


 出来高のこと、追加予算申請についても、下手したらそれ以外のことでも色々と聞かれるだろう。


 今日はバイトを休ませてもらった代わりに、明日はシフトが入っている。


 とりあえず、明日を乗りきって、バイトをしながら今後のことを考えないと。


 場合によっては、店長と話して、シフトを減らす相談とかした方がいいかなぁ……


 夏休みの『ある計画』のためには、あまり減らしたくないんだけどなぁ……



『体育館』



 そんなことを考えていると、目的地へとたどり着いた。



 中からはまだ声が少し聞こえてきているので、人は居るだろう。ちょうど良いタイミングだったのかもしれないな。


 すると、中から二人の男女が手を繋いで現れた。



「……あ、ペテン師くんじゃないか」

「……堀内さん、その呼び方は辞めてくれませんか?」


 半眼で睨む俺を、堀内さんは楽しそうに笑っていた。


「朱里の彼氏の桐崎くんだよね!!こうして会ったのは初めてかな?」

「そうですね。初めまして。堺さん」


 俺は男子バスケの部長の堀内さんと、女子バスケの部長の堺さんに頭を下げる。


 そう。二人は交際をしている関係だ。


 男子バスケの一番人気の堀内さんと、女子バスケの一番人気の朱里に、それぞれパートナーが居る。とは言っても、それ以外にも眉目秀麗揃いのバスケ部だ。たくさんの支援金が入るのは目に見えてるとは思うけど。


「桐崎くんは朱里を迎えに来た感じかな?」


 と言う堺さんに、俺は「はい、そうです」と言って首を縦に振る。


「ならそろそろ着替え終わって出てくると思うから、もう少し待っててね」

「了解です。待つのは苦では無いので平気です」


 そう言う俺に、堺さんが続けた。


「そうそう。今回の予算会議で、桐崎くんに目を付けた女の子は少なくないわよ?」


 何かを探るかのような目で、彼女は俺を見てくる。

 俺はその視線から目を逸らさずに答える。


「そうですね。それは理解してます」

「へぇ……そうなんだ」


 少しだけ訝しげな目で見る堺さんに、俺は言う。


「学園の二大美少女。なんて言われている藤崎朱里の彼氏として、ある程度以上には異性から人気が無いとダメだと思ったので、今回は自分の本気を出しました」


「なるほどね。君がそう思ってるってことは、きっと朱里もわかってるだろうし。意外と君は自己評価が低い……いや、厳しいと言った方が良いかな。そういう男の子だからね」


「ははは。よくご存知で」


 もしかしたら朱里から、少なくない相談を受けてるのかもしれない。

 そんなことを考えていると、


「あ、悠斗!!待っててくれたんだね」


「いーんちょーおつかれー」


 二人の後ろから朱里と佐藤さんが歩いてくる。


「あはは。桐崎くんの彼女も来た事だし、私達も行こうかな」

「そうだな。あんまり二人の時間を邪魔するのも悪いからな」


 そう言うと、堀内さんと堺さんは仲良く手を繋いだまま帰って行った。


「あーゆーの見るとさ、彼氏っていいなって思うよね」

「ゆーこちゃんなら、もうすぐ出来るでしょ?」


 朱里のその言葉に、佐藤さんは顔を赤くする。


「あ、あいつはそう言うの、まだそんなに考えてないかも……とか……」

「いや、そんなことないと思うよ?昼休みのゆーこちゃんとのやり取りを見てると、秒読みって感じがするよ」


 昼休み。俺が知らないところで何かあったのかな?


 そんなことを考えていると、佐藤さんが顔を赤くしたまま、俺に朱里を押し付けてきた。


「わ、私のことはもう良いでしょ!!ほら、早く二人で帰りなよ!!」

「ほほー。ゆーこちゃん。この後は武藤くんと二人で帰るつもりかな?」

「ううーー!!!!もー!!!!朱里、それ以上は許さないよ!!」

「あはは!!ゆーこちゃんが可愛い!!」


 朱里はそう言うと、俺の腕を取って歩き出す。


「悠斗、行こ!!これ以上からかうと、ゆーこちゃんに怒られちゃう」

「いや、もうかなり怒って……」




 そんなやり取りをしながら、俺たち二人は帰路へと着いた。






 帰り道。俺たちは自転車を漕ぎながら話をしていた。



「お疲れ様、悠斗。家に帰ったらさっそく悠斗の勇姿を見ようかなと思うよ!!」

「あはは。ありがとう朱里。そう言ってくれると嬉しいよ」


 そう言う俺に、朱里は少しだけ唇をとがらせながら、


「でもさ、悠斗が一番カッコイイのは配信されてなかった部分だよね?」


 そこを見れなかったのはちょっとなぁ……


 と言っている朱里に、俺はサプライズを披露する。


「実は、それを見れる。って言ったら朱里は喜ぶかな?」

「……え!?うそ!!見れるの!!??」


 驚いた朱里に、俺は言う。


「新聞部の怜音先輩にお願いしててね。配信はしてないけど、裏の予算会議はカメラを回していたんだよね」


 その映像データはコピーしてもらってある。


 怜音先輩としても裏の予算会議動画を撮りたかった。と言うのもあるし、俺もこうして朱里に見せたかった。


 互いの利益が重なった結果だった。


「ただ、わかってるとは思うけど……」

「うん!!絶対に誰にも話さないよ!!」


 見たことも言わない!!胸の内に留めておくよ!!


「それなら安心かな」

「えへへ。詩織ちゃんだけが悠斗の勇姿を見てたんだと思って、悔しい思いをしなくて済むよ」



 そんな会話をしていると、朱里の家の前の公園へと到着した。




「……ねぇ、朱里」


 俺は、少しだけ声のトーンを落として話しかける。


「……え、なに悠斗?」

「……大事な話があるから、公園で時間を貰えるかな?」


 俺の真面目なトーンに、朱里は神妙な表情で「うん。いいよ」と言って、首を縦に振った。


「ありがとう」

「ううん。私も悠斗の話、気になるし」

「あはは。悪い話じゃないから安心してよ」


 俺はそう言うと、ベンチに座る。

 そして、その隣に朱里も座る。


「まず最初に聞きたいんだけどさ。今日の朝、詩織さんとなにかあった?」


 俺のその言葉に、朱里は少しだけ気まずそうに笑う。


「あはは。詳しい内容は秘密。でも、詩織ちゃんには悠斗に何をしても構わない。とは言った」

「な、なんで……」


 戸惑う俺の唇を、朱里の人差し指が抑える。


「私は思うんだ。悠斗の一番は私。それは、詩織ちゃんが何をしても変わらない事実。そして、詩織ちゃんは、何をしても悠斗にとっては二番目の女の子」

「…………二番目の女の子。という言い方にちょっと引っ掛かりがあるけど」

「ねぇ、悠斗。正直に答えてね?私が居なかったら、詩織ちゃんと付き合ってたでしょ?」


 …………。



 俺は、その言葉の重さに気が付いた。


 そうか、俺はこんなにも、彼女のことが


「そうだね。そのくらいには、俺は詩織さんが好きだよ」

「うん。わかってる。だけどね、私が居る限りはそれは絶対に起こりえない現実」


 だったら、詩織ちゃんがしっかり諦めるためにも、なんでも好きなことをやらせてあげよう。


「そう考えたんだよね」

「……そうか」


 ……俺はいったいどれほどの苦悩を彼女に与えてしまったのだろうか……


 そして、俺は彼女にその答えへとたどり着かせてしまったことを後悔する。


 だけど、朱里は強い目で俺の瞳を見据えて、続けた。


「あのね、悠斗……私はね、自分が悠斗の一番だってわかってる。だから、二番目とか三番目の女の子がいくら増えても構わないって思ってる……思うようになった……いや、思わざるを得なくなった……かな」


 そう言うと、朱里は少しだけ遠くを見る。

 そして、俺の目をジッと見つめて、言う。



「…………その代わり、約束してね?」



「約束?」

「うん。……約束」


 そう言うと、朱里は俺の喉元に、人差し指を押し付けた。

 少し、息が苦しくなる。


「絶対に私を一番から下ろさない。それを約束して。二番目とか三番目とか四番目とかいくら作っても構わない。手を繋いだり、抱き合ったり、デートしたり、キスしたり……えっちなことをしたりしても、私は悠斗を許せる。……でもね、私を悠斗の一番から下ろしたら、その時は……私は悠斗を……………………ね?」


 昏く、淀んだ瞳で朱里は俺に言った。普段の彼女が決して見せることの無いその瞳に、俺は心臓を鷲掴みにされたかのような気持ちになる。


 だけど、これは彼女の……本気だ。


「…………はい。わかりました」


 骨身にしみた朱里の言葉。


 そう言うと、朱里はニコッと笑った。


「さて、悠斗!!君の話は何かな?」


 先程までの空気をかき消すように、朱里は明るくそう言った。


「あはは。実は朱里の両親にも許可を貰いたいことなんだけど……」

「……許可?」


 俺は少しだけ息を整えて言う。





「夏休み。二人で泊まりの旅行がしたい」





「…………え?」


 キョトンとする朱里に俺は言う。


「旅行の代金は俺が出すよ。二泊三日くらいで温泉地とかに行きたいな。と考えててね」


「え?え?え?」


「最近はソシャゲも引退してるから、ガチャの金とか使ってなくて、結構貯まってきてるんだよね。だからお金の心配はいらないかな」


「とりあえずパンフレットとか今集めててさ、定番の熱海とかだと高いからさ、少し穴場で良いとこないかなぁ……って思っててさ」


「結構学割とか馬鹿にならないみたいでさ、そう言うのとかも含めて色々と候補を出してから朱里と相談しようかなぁとか思ってたけど」


「結局はまだ何も話してないのに勝手に話を進めてても……」


「あ、あのさ!!」


「え?何かな?」


 びっくりしている朱里が俺に言う。


「ほ、本気?」

「うん」


 俺は即答する。


「え……うそ、ちょっと……え??」


 困惑する朱里。そして、少しした後


「ね、ねぇ……悠斗」

「なに?」

「と、泊まりってことはさ……」


 そ、そういうことを……


「うん。したいと思ってる」

「そ、そんな胸を張って!?」


 俺は戸惑う朱里を抱きしめる。


 朱里の身体が、ビクッと震える。


 少しだけ緊張してるのか、いつもより身体が固くなっていた。


 そんな朱里の耳元で、俺は言う。




「100点満点の初めてを二人でしたい」


 そう。最初のキスは0点だったから、こっちの初めては100点にしたい。

 それはお泊まりの時に話していたことだった。




 そう言う俺に、腕の中の朱里は少しだけ思案して、




 両腕で身体を強く抱きしめて、耳まで真っ赤に染めて、俺の胸に顔を埋めて、





「…………うん。いいよ」





 と、答えてくれた。









 第二章 第五話 ~激戦の予算会議~




 〜完〜


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