第五話 ㉙ ~激戦の予算会議~ 放課後 悠斗視点 その④
第五話 ㉙
「さて、皆さん。『裏の予算会議』を始めましょう」
俺はそう言うと、まだ全然納得をしていないであろう部長の方々に視線を放った。
そう。ここまでは『表の予算会議』
そして、今から始めるのが『裏の予算会議』だ。
「裏の予算会議だと?どういう意味だ、桐崎悠斗生徒会副会長」
俺の言葉に、須藤さんが当然のように反応する。
ありがとうございます。その言葉を待っていました。
「はい。今までは新聞部のカメラが回っており、この中の様子は動画で配信されてました」
俺はそう言うと、怜音先輩に視線を向ける。
「ですが、今は配信が終了し、この中の様子は一般の生徒には確認することが出来ない状態にあります」
そして、俺はここでニヤリと笑みを浮かべ言い放つ。
「カメラの前では言えなかった事が言えるようになる。そういう時間がお互いにとって必要だったのでは?と考えています」
俺のその言葉に、須藤さんは笑みを浮かべる。
「なるほどな。随分と猫を被ったような語りだと思っていたが、カメラを意識してのことか」
「ええ。そうです。それに、こちらとしても色々な理由もあり、動画として配信する必要がありましたので」
「……色々な理由?」
須藤さんの質問に俺は答える。
「ええ。『皆さんを悪役に仕立て上げ、うちの生徒会長を悲劇のヒロインとして祭り上げる。そうすることで全校生徒からの支援をいただく』そういうプランでしたので」
俺のその言葉に、各部の部長が驚き、声を失う。
俺はそれを見て、手をパン!!と叩く。
「さて。これが『俺』の隠していた本音です。本音を隠して皆さんと話をするのは失礼かと思ったので話させていただきました」
もちろん、この言葉は極秘でお願いしますね?
と俺は人差し指を立て、唇に当てながら笑顔でそう言った。
須藤さんが小さく「……ペテン師め」と言ったのが聞こえた。
「では、裏の予算会議の初めとして、恐らくですが皆さんが飲み込んでいた言葉があると思います」
俺はそう言うと、まだ少し落ち着きのない面々に話を始める。
『あんな動画でコメントが流れたからって、生徒会に十分な金が支援されるとは思えない』
「そう考える人は少なくないのではないですか?」
俺がそう言うと、全ての部長が首を縦に振る。
そして、もうひとつ
『出来高をクリア出来る部活と出来ない部活で格差が生まれ、予算に大きな開きが出来て不平等だ』
「そう考える中小の部活の部長も居ると思います」
さらにそう続けると、中小の部活の部長たちが首を縦に振る。
「はい。そう考える部長さんは少なくないと思っていました。しかし『カメラの手前』あんまりごねると、あれだけ蒼井生徒会長贔屓に傾いている全校生徒に叩かれてしまう。だから黙って仕方なく頷いた。そういう事だと理解してます」
「そこまでわかってる貴様のことだ。なにか案があるんだろ?」
と、須藤さんが俺に聞いてくる。
俺はその視線をしっかりと受け止め、首を縦に振る。
「当然です。しかし、俺が考えていることには、須藤さん、館山さん、堀内さんの理解と協力が必要不可欠です」
と、俺は運動部のトップ3に視線を向ける。
3人は俺の視線をしっかりと受け止め、代表して須藤さんが答える。
「何を協力して欲しいんだ?まさか貴様のペテンに口裏を合わせろとでも言うのか?」
「いえ、違います。皆さんの部活は容易に出来高条件をクリアすることが予想出来ます。ですので、出来高金額に上限を設けたいと考えています」
「……だろうな」
俺のその言葉に、須藤さんがそう答える。
「出来高の上限は『前年の予算金額への到達』とさせて頂きたい。そう考えています。ですので、野球部なら基本予算三十万円なので、出来高二十万円が上限です」
「なるほどな。悪くない金額だ」
須藤さんの言葉に、残りの二人も頷く。
「はい。それに、皆さんの部活にはエースと呼ばれる人気のある生徒が居ます。部活の人気に加え、特定の個人による支援も見込めます。前年以上の予算額を手にするのは難しくありません」
「貴様の友人の武藤のことを言っているのか?」
「ええ、そうです。あいつはああ見えて女性人気もありますからね。それに、皆さんの部活なら、ある効果も見込めるかもしれませんね?」
「……本当に貴様は持って回した言い方を好むやつだな」
須藤さんの言葉に、俺は笑いながら言う。
「可愛い女の子が応援に来てくれるかも知れませんよ?部活での活躍を知った女の子が、新聞を読んで試合の日程を知り、応援に来てくれる。青春じゃないですか」
俺のその言葉に須藤さんでは無く、館山さんと堀内さんが笑う。
「おい、須藤。お前、この間『……彼女が欲しい』とか言ってただろ?」
と笑いながら言うのは、サッカー部の館山さん。
「ただでさえ、お前は顔で誤解を受けやすいんだ。少しは笑顔で受け答えすれば女子ウケするぞ?」
と冗談ぽく言うのは、バスケ部の堀内さん。
「お、お前たちに言われたくない!!彼女持ちだからって偉そうに……」
そんなやり取りをする3人に俺は言う。
「皆さんが出来高の上限に賛成していただけると、生徒会の予算にも余裕が生まれます。それはひいては中小の部活のためにもなります。ご理解とご協力をいただけませんか?」
その言葉に3人は同意を示した。
「……ふぅ。出来高上限には賛成だ」
「俺も賛成だ。うちにはイケメンエースストライカーの星が居るからな。そいつに金集めをさせるか」
「俺も賛成だ。うちにはイケメンエースなんて居ないが、何とかなるだろう」
なんて言う堀内さん。
……いや、貴方がバスケ部で一番人気の人ですからね?
俺はその言葉を飲み込んで、話を続ける。
「さて。次はどちらかと言えば中小の部活の部長の皆さんに関わりのある話になります」
俺はそう言うと、一枚の紙を取り出して目の前に出した。
『部活動予算申請用紙』
俺が取り出した紙にはそう書かれている。
「これは、部活動の活動費が足りなくなってしまった時に、追加のお金を申請する紙になります。このようなものが何故今まで無かったのか、不思議で仕方ありませんが、俺と黒瀬さんで作りました」
俺の言葉に、詩織さんが部長の人達に頭を下げる。
「この、部活動予算申請用紙は、基本はどの部活でも使えます。ですが、活動費が足りなくなった時に追加の申請をするので、利用機会としては、中小の部活の部長さんに関わりのある話しかと思います。そして、この申請用紙につきましては、紙媒体とデータ媒体の二つ用意しています。紙は生徒会室にあります。データ媒体はExcelデータとして生徒会ホームページにアップしておきます。ダウンロードして使ってください。そして必要事項を打ち込んで、ホームページに申請フォルダを用意してますので、データ媒体での提出はそこにアップロードしてください。紙の場合はお手数ですが『俺に』渡してください。あとは質問事項の窓口も『俺に』お願いします。でないと、これを口実に、生徒会の綺麗どころとお近付きになろう。なんて人がいないとも限りませんので」
俺の言葉に男の部長たちは、少しだけ気まずそうに視線を逸らした。考えてる事はお見通しだぞ?
「これに関しては生徒会にお金がある。という前提が必要です。出来高をクリア出来ず、活動費が無くなったときに、『いつ使うのか』『何に使うのか』『いくら必要なのか』少なくともこの三つは書いてください」
「『お菓子を買うからお金ください』ではダメです。『来週の日曜日、他校の生徒をもてなすので、お菓子代として二千円必要です』これならお金が出せます。そして、こうした時に速やかにお金を渡すために、生徒会にはある程度お金を集める必要があります」
俺はそう言うと、ニヤリと笑う。
「皆さんを悪役にしてまで、お金を集めようと画作した理由はここにあります。もし、皆さんのうちの誰かが、俺の話をばらしてしまったら……あぁ、何と言うことでしょう……生徒会にお金が入らなくなってしまい、この追加の活動費の支払いが出来ません」
俺のその言葉に、部長たちは唾を飲む。
「極秘でお願いします。と言ったのはこういう理由からです」
そして、俺はこの申請用紙を、須藤さんたち3人に見せる。
「ちなみに、皆さんの部活がいっぱい活躍した時、この予算の申請用紙を使い『高額な備品の購入』を学校側に申請できるようにすることも検討してます。具体的には、甲子園に行ったから百万円クラスのバッティングマシーンを買ってくれ。そういう申請も通るかも知れません」
俺のその言葉に、須藤さんがニヤリと笑う。
「なるほどな。中小だけでなく、俺たちにもメリットがある訳だ」
「もちろんです。今年こそは甲子園に行ってくださいね」
俺はここまで話したあと、最後にひとつ。付け加える。
「ちなみに、こうして生徒会にお金が足りなくなった原因は誰にあるかわかりますか?」
俺のその言葉に部長たちは首を傾げる。
俺はそんな部長たちに言った。
「卒業した先輩たちのせいです」
部長たちが言葉を失った。
俺は続ける。
「前年度繰越金を食い潰す勢いで予算の増額をしたからですよね?生徒会の制止も振り切り、好き放題使ってきたんだと思います。ですので、俺は新聞部の三輪部長にお願いして、卒業生に『いっぱい寄付してください』とお願いをするように、依頼をかけました」
もちろん。現生徒会長が、足りない予算に責任を感じて身体を売る覚悟を決めてます。という言葉を添えて。
俺のその言葉に、部長たちが苦笑いを浮かべた。
「ですので、生徒会には前年以上のOB支援金が来ると思ってます」
と、俺はにこやかに宣言した。
「さて、これで、皆さんが抱えていた不平や不満にお応えすることが出来たかと思っています」
俺はそう言って、周りを見渡す。
先程とは違う雰囲気がそこにあった。
「何かご質問や言っておきたいことはありますか?」
俺のその言葉に、須藤さんが手を挙げた。
「須藤部長。何かありますか?」
俺がそう言うと、須藤さんは言った。
「桐崎生徒会副会長。貴殿の案は俺たちのような大きな部活だけでなく、中小の部活に対してもしっかりと対応した素晴らしい案だと感心した」
「あ、ありがとうございます」
予想外の賞賛に、俺は戸惑う。そして、そんな俺に須藤さんはニヤリと笑って言い放った。
「だが、やはり貴様は新聞に載っていたように、とんでもない『ペテン師』だったな!!」
その言葉に、部長全員が笑った。
「…………褒め言葉として、受け取っておきます」
俺は苦虫をかみ潰したような気分になりながら、そう答えた。
こうして、俺たち生徒会が主催した予算会議は『表』と『裏』両方が無事に終わることが出来た。




