第五話 ㉕ ~激戦の予算会議~ 放課後 蒼井視点 その④
第五話 ㉕
蒼井視点
「生徒会副会長の桐崎悠斗です。ここから先は、蒼井空生徒会長に代わり、自分が質疑応答を担当します」
僕からマイクを受け取った桐崎くんは、毅然とした表情でそう言った。
あとは俺に任せてください。
彼のその言葉を信じ、僕は桐崎くんの一挙手一投足を見逃すまいと、視線を向けた。
「まずは、蒼井生徒会長の話していた、出来高制と部活動支援金についてですが、これは自分の案で間違いありません。そして、この案の理解については、蒼井生徒会長より自分の方が深いと判断し、この場に立つことを決めました」
あはは……さっきはちょっと情けない姿を見せてしまっていたからね……
「そして、まずは、皆さまに話しておくことがございます」
桐崎くんはそう言うと各部の部長の視線を集める。
へぇ……さっき手を叩いた時もそうだけど、彼は人の視線を集めるのが上手いな。
「自分が提案した部活動支援金以外の方法で集金を行う。これは、自分が生徒会に入会した時に、蒼井生徒会長から話をされました」
……え?何か言ったっけ??
昔の発言を思い出そうと、僕は頭を捻る。
でも、僕が思い出す前に、桐崎くんは言った。
「前年の繰越金が無く、百万円程の金額が足りない。その話の後に、蒼井生徒会長は自分に向かってこう言いました」
このままだと、足りないお金は、僕が夜の街で稼ぐことになるだろうね。と。
は……はぁああああああああ!!!!!!?????
ま、待って!!どうして今ここでそれ!!??
確かに僕はそんなことを言ったよ!!
でも、今ここで言うことなのかい!!??
各部の部長が僕を見てる。
恥ずかしさで顔が赤くなる。
野球部の須藤くんですら驚いた目で見ている。
もちろん、動画のコメント欄も荒れに荒れている。
嘘じゃないけど、そんな言い方で暴露される発言じゃ……
「皆さんお静かにお願いします。驚きたい気持ちは良く分かります。自分もその言葉を聞いた時に、驚きました。まさか、蒼井生徒会長はそこまで思い詰めていたのかと」
き、桐崎くん……そんな言い方しなくても……
ぼ、僕はただの冗談で……
でも、桐崎くんはどんどん話を進めていく。
「蒼井生徒会長は真面目で優しい人柄です。人員不足とは言え、年下の自分に躊躇いもなく頭を下げる心の広さ。そして、予算会議の案内も、紙の張り出しが慣例でしたが、皆さまに直接頭を下げて連絡をしています。これは会長の意思で行っていることです」
各部の部長に頭を下げたのは確かに僕の意思だけど、それを指示したのは君じゃないか!!
「この会議資料もそうです。会長と三輪先輩の二人で仕上げたものです。そして、この資料においても、皆さまに手渡しをしています。会長の気配り、心配りには頭が下がります」
そ、そうか。自分は『ペテン師』のイメージがあるが、僕には『真面目で誠実』というイメージがある。それを押し出して行くつもりなんだ……
「見目麗しい我らの会長です。夜の街にひとたび出れば、『ヨルノソラ』として金銭を稼ぐのは容易いことかもしれません。……しかし、そんな心優しい蒼井生徒会長を、欲望にまみれた夜の街に送り出す訳には行きません」
よ、ヨルノソラああああああ!!!!!!?????
もう彼の発言で僕の頭はいっぱいいっぱいだった。
「自分には、蒼井生徒会長の言葉が、その場限りの冗談には聞こえませんでした。なので、考えました。どうしたらこの心優しい会長を守れるのかを!!」
あ、あはは……もうつっこむ気力も無いよ……
「それがこの部活動支援金の制度です」
あぁ……そう繋げるのか……
「理想の生徒会長には、二種類の人物像があると思います。ひとつは、『圧倒的なカリスマで皆を引っ張る人柄』そして、もうひとつは『優しい心を持ちみんなに支えられる人柄』だと思います。そして、蒼井生徒会長は後者の人柄だと思います」
は、恥ずかしいことをペラペラと……
「どうか皆さん、お願いします!!学園の生徒の為に、身体を捧げる覚悟すら決めている。そんな、心優しい蒼井生徒会長を、皆さんの手で!!支えてくれませんか!!よろしくお願いします!!」
彼はそう言うと、怜音の回すカメラの前で頭を下げる。
そして、少しすると、動画にひとつのコメントが流れた。
『俺、生徒会に募金するよ』
と。




