第五話 ㉒ ~激戦の予算会議~ 放課後 聖女様視点 その②
第五話 ㉒
聖女様視点
「皆さん。本日は大変お忙しい中、お集まりいただきありがとうございます。定刻となりましたので、第四十九回、学園予算会議を始めます」
蒼井生徒会長の口上を皮切りに、私たちの戦いが始まりました。
私は予算会議資料のデータをノートパソコンに映します。
「それでは、皆さんお手元の資料の最初のページをご確認ください」
蒼井さんがそう言うと、皆さんが紙をめくります。
プロジェクターにも同様のデータが映っています。
計算にミスはありません。
「まず最初に予算総額を確認ください。今年の収入の部分になります。生徒会費の他に、文化祭収益、卒業生支援金予定額などを足した金額が約八百万円です。前年度までは繰越金が百万円程ありましたが、今年はゼロです」
蒼井さんのその言葉に、各部の部長は苦い顔をしました。
恐らく、予算の減額を予想しているのでしょうね。
悠斗くんを見ると、その様子を見てニヤリと笑っていました。
……ふむ。何かあるのでしょうか。
そして、蒼井さんの話が続きます。
「先程の校内放送でも話したように、我々生徒会にはこの百万円分の予算が足りていません。その事を念頭に、話をしたいと思います」
蒼井さんのその言葉に、一部の部長が声を上げます。
予算は減るのか!!
そんなことされたら活動出来ないぞ!!
何とかするんじゃなかったのか!?
はぁ……
私はため息をつきました。
質問や意見は発言者の言葉が終わってから。
自身の発言は挙手をしてから。
その程度のルールも守れないお猿さんですね。
パン!!!!
と手を叩く音がしました。
私の教室で良く聞く音でした。
ふふふ……なるほど、そういう事ですか。
「皆さんお静かに。蒼井生徒会長がまだ話している途中です」
私が音の先を見ると、悠斗くんが立ち上がって注意喚起を始めました。
「質問などは会長の話が終わってから。そして、発言者は挙手をしてからにしてください。資料の最初に書いてあります」
悠斗くんに一括され、騒いでいたお猿さんたちは静かになりました。
「ご協力ありがとうございます。それでは蒼井生徒会長、続きをお願いします」
悠斗くんはその様子に、満足そうに笑みを浮かべながら、座りました。
私は悠斗くんに
「……狙ってましたね?」
と言いました。
彼は、
「まぁね。こうなることは予想出来たから」
と、笑みを浮かべて答えました。
動画のコメントには、彼を賞賛するコメントが並んでいました。
ふふふ……相変わらず、空気を操るのがお上手ですね。
「それでは、続けます。確かに前年より予算総額は百万円ほど少なくなっています。ですが、それをそのまま皆さんの予算に反映させて減額する。という訳ではございません。それが次のページです」
その言葉で、お猿さんを含めた部長たちが紙をめくります。
そして、そこに書いてある内容に、驚いたようです。
ふふふ……『出来高制』と『部活動支援金』の内容が書かれてますからね。驚くのも無理は無いかと。
そして、蒼井さんは説明に入りました。
「では、今年より導入する『出来高制』と『部活動支援金』この二つの説明に入ります。ちなみに、この二つの案が、昼の放送で桐崎生徒会副会長の話していた『腹案』になります」
ふふふ……実際には『腹案の一部』ですが。
これは彼の腹案の氷山の一角に過ぎません。
その事には誰も気が付くことは出来ないでしょうけど。
「まずは、出来高制の説明になります。これはコメントでも流れてますが、プロ野球選手などに良く使われている給与方式を、予算に応用した形になります」
「各部の基本予算として、部員一名につき一万円の予算になります。野球部なら部員が三十人居るので三十万円が基本予算になります」
ふむ。この時点で野球部の予算は二十万円の削減です。
しかし、野球部の部長……たしか須藤さんでしたか。
その方は微動だにしてません。
……なかなか理性的な方ですね。
突然鳴き声を上げるお猿さんたちとは違うようです。
蒼井さんもその様子に異様さを感じたようですが、言葉を続けました。
「このままでは、ただ予算を減額しただけになります。しかし、ここからが出来高制の話になります。一例ではありますが、野球部の場合。試合を行う事に千円を支給します。そして、勝つことで五千円の追加支給に変わります」
その言葉に、一部の部長たちがざわつきました。
「つまり、出来高制とは『部活動の成績に応じた予算の追加を行う制度』になります」
……ふむ。とりあえず、出来高制についての理解は得られたようですね。
動画のコメントにも、その様な文言が並んでいます。
まずまず順調ですね。
そして、蒼井さんは次の説明に入りました。
「それでは、次に『部活動支援金』について説明します。これは文字の通り皆さんを支援するお金を生徒の皆さんに募金してもらう制度です」
「出来高制を達成するために皆さんは部活動を頑張ると思います。そして、その様子は新聞部によって学園にどんどん波及してもらう予定です。そうした皆さんの活躍を支えたいと思う生徒は少なくないと思います」
「そうした生徒たちの『善意の募金』を生徒会室の前に設置した募金箱で集めます。その際に、部活動名と募金者名、金額を記入すれば横領の防止にもなります。そうして集めたお金を皆さんの部費にプラスして行く制度になります」
「そして、募金の先にはそれは僕ら生徒会も含まれます。新聞部には、毎日生徒会がどう活動してるかを、コラムにしてもらう予定です。また文芸部なども、新聞の一部に小説などを書いても良いと思います」
多少の空気のざわつきはありましたが、ここまではきちんと話を聞いているようでした。
なにぶん初めての試みですからね。理解しようと努力しているのでしょう。
そして、蒼井さんは説明のまとめに入りました。
「出来高制で部活動のモチベーションを高め、新聞部の広報で学園全体にその活動を周知させ、それを募金という形で支援する。このサイクルを回すことで予算を運用したいと考えています」
彼女は説明を終え、周りを見渡しました。
「ご理解いただけたでしょうか」
皆さん沈黙しています。しかしその中で一人だけ挙手をする人物が居ました。
……ふむ。予想通りともいえますね。
「……野球部の須藤部長。何かありますか?」
須藤さんは蒼井さんを鋭く睨みつけて言い放ちました。
「くだらない妄想話はそのくらいでいいか?」
隣の悠斗くんは、少しだけ、苦い表情をしていました。




