第五話 ② ~激戦の予算会議~ 深夜 蒼井視点
第五話 ②
蒼井視点
『月曜日の朝。七時半に生徒会室に集合をよろしくお願いします。予算会議に向けた最終ミーティングをしたいと思っています。その時に、自分が追加で考えたプランの説明もしたいと思っています。朝早い時間ですが、よろしくお願いします。』
日曜日の夜。桐崎くんからのメッセージで、僕は枕から顔を上げた。
生徒会のグループに投じられたメッセージを見て、僕はすぐに了承のメッセージを送った。
きっと、彼は怜音が発行した新聞の影響力を考えて、追加のプランを考えていたのだろう。
正直な話。あんなキスをしたあとに、こんなことを考えられるなんて、彼は一体どんな思考回路をしているのだろうか。と、疑問にすら思った。
時刻は二十三時半。
目を閉じれば二人のキスシーンがまぶたの裏に映し出される。
どれだけ早い時間を指定されていたとしても、遅刻することは無いだろうな。
今日は寝れる気がしなかった。
僕はもう既に寝ている両親を起こさないようにしながら、脱衣場へと向かう。
服を脱ぎ捨て、裸になった僕は、熱めのシャワーを頭から浴びる。
そして、頭と身体をしっかりと洗い、身を清める。
今日一日分の汗と汚れを落とし、少しぬるくなった浴槽へと身を沈める。
シャワーで温かくなった身体から、少しずつ熱が逃げていく。
顔にパシャリとお湯を掛け、考え事をする。
「彼の言う、プランとは一体なんなんだろうな……」
正直な話。僕にはどうしたらいいかさっぱりわからない。
勉強も出来る。要領も良い方だ。見た目だって悪くない。
凡そ人としての能力は高い水準にあると自負している。
だけど、どうしても無力感を感じてしまう。
この予算会議の件に関して、自分がなにかの役にたっているような気持ちがまるでない。
結局のところ。僕がしたのは、各部の部長に頭を下げてきただけだ。
それだって、桐崎くんに言われたからやっただけの事。
黒瀬さんは、たったひと晩で予算の枠組みを作ってきた。
琴音は予算会議のレジュメを作ってきてくれた。
「僕も……何かをしたい……」
桐崎くんにこんなことを言えば、『蒼井さんだってすごく役に立ってますよ』とか言ってくれると思う。
でも違うんだ。そうじゃない。
僕は。僕自身が。何かを為したと胸を張って言える事をしたいんだ。
そうしないと、彼の横に立てない気がするから……
「そうか……僕は、桐崎くんに認めてもらいたいんだ」
その言葉が、ストン……と胸の内に落ちてきた。
年下なのに頼りがいのある彼。
いつだって冷静で、ユーモアのある彼。
他人のために全力で頑張れる彼。
そんな彼に、『蒼井空』の存在を認めさせたい。
今の彼の中の僕は、きっと『いっこ年上のちょっと美人な女生徒会長』としか思ってないはずだ。
悔しい。悔しい。悔しい。
僕は彼に対してかなり大きな感情を持っているのに、彼は僕に対してはそこまで大きな感情を抱いていない。
このままでは、僕だけが彼に片思いをしてるだけじゃないか!!
「惚れさせてやる……」
そうだ。決めた。
僕は湯船から立ち上がり、決意する。
黒瀬さんは一番大好き人の隣に『行く』ことを決意した。
僕は違う。
桐崎くんがこっちに『来る』んだ。
全てを捨ててでも、僕の隣に来たいと、思わせてやる!!
『そうですね。当日は蒼井生徒会長の真骨頂を期待してます!!』
そんなこと。微塵も思っていないような軽いセリフだと感じていた。当たり前だ。彼は私を軽く見てるんだから。
しっかり僕を見てろよ、桐崎悠斗!!
当日は蒼井空の本気を……真骨頂を!!見せてやるんだ!!




