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蒼井side ② 生徒会長の一日 その⑥ ~帰り道の公園で、二人を見つけて~

 蒼井side ②





「そろそろいい時間だから帰ろうかな」


 僕は暗くなった外を眺めてそう言った。


 ゲームをしたあとは、他愛ない話をしながら二人と時間を過ごした。

 途中。二人の母親に挨拶をして、夕飯に誘われたが、遠慮することにした。

 たまに、やっかいになることはあるけど、今日は家に用意があるのを知っていた。


 時刻は八時前。

 門限に厳しくない家だけど、そろそろ帰った方が良いだろう。

 明日は予算会議もある。

 まかり間違っても、寝坊なんかしたら笑えない。


「そうだね。なんだか話をしてると時間が経つのが早いね」


 と、琴音が名残惜しそうに呟く。


「まぁ、明日になればまた会えるよ」

「じゃあね、空。また明日」

「うん。お邪魔しました」


 僕はそう言って立ち上がり、二人の部屋から出る。


「見送りは?」

「あはは。別にいいよ」


 僕は階段を降りて玄関に向かう。

 居間に居た二人の母親に挨拶をして、家を出た。


 外に止めてあった自転車の鍵を外し、漕ぎ始める。


 朝は春の陽気を感じる暖かさだったが、夜は少し肌寒い。


「もう少し、暖かい格好をしてくれば良かったかな?」


 なんて事を考えながら自転車を漕いでいると、


「……あれ」


 いつもはただ通り過ぎるだけの夜の公園。


 そこのベンチに二人の人影が見える。


「……桐崎くんと藤崎さん」


 僕は思わず自転車を止めてしまう。




 そして、その事をすぐに後悔することになる。



 公園の外から、二人の様子を覗き見る。


 決して褒められるような行為ではなく、むしろ非難されるような悪行。


 だが、僕は何故かその光景から目が離せなかった。


 二人は何か楽しそうに話している。


 胸がズキン……と痛くなる。


 会話の内容までは聞き取れなかったが、楽しそうな雰囲気はつたわってくる。


 ……羨ましい。


 そんな感情が産まれてくる。


 そして、ふたりの会話が止む。


 そして、目と目を合わせて少しだけ空気に緊張感が満ちていく。




 キスをする。




 そういう雰囲気だった。



 何故、僕はこんなことをしているのだろうか……


 胸が痛い……痛い……痛い……痛い……



 身体が冷えていくのは、こんな格好をしているからだろうか、


 心が冷えきっていく。


 見たくも無いシーンのはずなのに、目が離せない。




 そして、


 ふたりは、


 僕の見ている前で、


 キスをした。








 僕はなぜこんな場面を見てしまっているのだろうか……





 ふらふらとおぼつかない足取りで僕は自転車に跨る。


 そして、逃げるようにしてその場から立ち去った。






 どうやって家に辿り着いたのか覚えていない。


 だけど、僕は気が付いたら家に帰っていて、買った洋服は部屋の隅に放り投げ、ベッドの上で寝転んでいた。


 お気に入りの服。彼が褒めてくれた服。それがシワになるのもいとわずに、僕はベッドでうつ伏せになり、枕に顔を埋める。


 気が付けば時刻は二十三時を回っていた。




 好きじゃない。


 まだ、好きじゃない。


 彼には彼女が居る。


 そんな人を好きになるなんてありえない。




『……私たちの親友が、無謀な恋愛に身を投じないかどうか。それだけが心配だよ』



 怜音の言葉が頭に過ぎる。


 無謀な恋愛をするつもりなんかない。


『どこのだれともわからないような男の一番になるよりも、一番大好きなひとの二番目の方が、はるかに幸せでは無いですか?』



 違う。違う。違う。


 僕は……黒瀬さんとは……違う……っ!!








 明日は予算会議だと言うのに、僕はそれとは全く違う理由で、寝ることが出来なかった。





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