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蒼井side ② 生徒会長の一日 その④ ~黒瀬さんの恋愛に対しての考え方~

 蒼井side ②





「ねぇねぇ空。本屋さんに寄りたいんだけどいいかな?」


 やっかいなナンパから助けてくれた二人はこれから一緒にご飯を食べるようだった。


 武藤くんは荷物持ちを買って出てくれていたけど、流石にそれは申し訳ないし、せっかくの『二人きりのデート』を邪魔するのは忍び無さすぎる。


 持っていた荷物は500円のロッカーを三人で借りて、その中に入れて置いた。


 筆記用具を買いたいと言っていた怜音は文房具屋さんに。

 本を買いたいと言っていた琴音は本屋さんに。


 僕はどっちにも予定はなかったけど、どちらかと言えば琴音の方が心配だったので、琴音の本屋に付き合うことにした。


 本屋さんに到着すると、琴音は目当ての少女漫画のコーナーに向かって行った。


 僕はなんとなく店内をふらふら歩く。


 すると、見覚えのある後ろ姿を見つける。


 とんでもない美少女が私服姿でライトノベルコーナーと書かれた区域に立っている。


「やぁ、黒瀬さん。奇遇だね」


 僕はその美少女。黒瀬詩織さんに声をかける。


「……蒼井さんですね。こんにちは」


 黒瀬さんは僕の声に振り返り、軽く会釈をする。


「黒瀬さんはこういう本も読むのかな?」


 僕はライトノベルコーナーに置かれた、可愛らしいイラストの本たちを指さす。


「そうですね。最近、悠斗くんにオススメを借りて読み始めたら面白さに気が付きました」

「……へぇ。桐崎くんに」


 その言葉に少し、胸がモヤッとする。


「最近ではこうして自分で買って読んだりするまでになりました。ふふふ。ミステリー小説しか読んでいなかった私が、彼の色に染められてしまっていますね」


 とても嬉しそうにそんなことを言う黒瀬さん。


 言葉だけ取れば恋する乙女で愛らしいが、彼女の想い人には恋人が居る。


 その事について、彼女はなんとも思わないのだろうか……


「黒瀬さん。君は桐崎くんに恋人が居ることについてはなにか思うことは無いのかい?」

「……?どう言う意味でしょうか?」

「いや。桐崎くんには恋人が居るんだから、君がどれだけ強く彼を想っていても無駄だとは思わないのかい?」


 少しだけイライラしていたのだろうか。

 言葉に少し険が混じってしまった。


 そんな僕の言葉など意にも介さず、黒瀬さんは言う。


「高校生のカップルがそのまま結婚する確率がどれだけなのか、蒼井さんは知ってますか?」

「……いや。知らない。五割くらいかな?」


 そんな僕の言葉を、黒瀬さんは微笑みで返す。


「一割です。実に九割のカップルが『何もしなくても』別れています」

「……へぇ」


 黒瀬さんは僕が初めて見るような、笑みを浮かべる。


「この数字を聞いても、蒼井さんは『無駄』と言われますか?」

「……いや。失言だったね。すまない」


 僕は黒瀬さんに謝罪する。


「ふふふ。ですが、あの二人ならそのまま結婚する一割の可能性が非常に高いと思っています」

「……そうだね。僕もそう思ってるよ」


 だとするならば、彼女の想いの原動力はどこから来てるのだろうか。


 そんな僕の考えをわかっていたのか、黒瀬さんは一冊のライトノベルを手に取る。



『私は愛人でも構わないから』



「この本を読んで、感銘を受けました。主人公には彼女が居ます。ですが、もう一人のヒロインが、主人公に愛人でも構わないから。と関係を迫るところから物語が始まります」

「……倫理的にはどうなんだい」


 そんな僕の言葉を黒瀬さんが笑う。


「愛する人の傍に居たい。純愛ではないですか」


 それに、


 と黒瀬さんは続ける。


「どんな形でもいい。好きな人の隣に居たい。そういう気持ちは、私には良く分かりますから」

「その気持ちが、自分に向いていなくても。かい?」

「ふふふ。悠斗くんが私に対して、それなりに大きな感情を持っているのはわかっていますよ。完全に負け戦だと思ってる訳では無いです」

「……それでも、彼が一番好きなのは、藤崎さんだろう?」

「ええ、ですが二番目ではダメなんですか?」


 黒瀬さんのその言葉に私は一瞬、言葉を失った。


「悠斗くんは優しい人ですから。きっと私のことを拒否しません。私が彼から離れさえしなければ、二番目の女の子として可愛がってくれると思ってます」


「二番目の……女の子」


「彼がどこまで許してくれるかはわかりませんが、どこのだれともわからないような男の一番になるよりも、一番大好きなひとの二番目の方が、はるかに幸せでは無いですか?」


「そういう考え方もあるのか」


「戸籍の上での夫婦関係は朱里さんに渡しても良いと思っています。ですが、私が求める悠斗くんの関係は、そんな紙切れで表現出来るようなものでは無いと思いますので」


 そこまで言ったところで、黒瀬さんは僕に向かって笑いかける。


「おっと。私としたことが、少し話し過ぎてしまいました」


 これからライバルになるかもしれない女性なのに。


 なんて言葉が聞こえてきた。


「明日の予算会議ではご期待に応えられるように、微力を尽くして頑張ります」


 黒瀬さんはそう言うと、お辞儀をして、先程話していたライトノベルの最新刊を手にして僕の前から去っていった。



「あれ、空。こんなところで立っててどうしたの?」


 ライトノベルコーナーで立ちつくしていた僕に、琴音が近づいてくる。


「いや、さっきまで黒瀬さんと話をしててね」

「へぇ……黒瀬さんってミステリー小説を読んでるって聞いてたけど、ライトノベルも読んでるんだ」

「桐崎くんにオススメを借りてて、そこから自分で買うようになったらしいね」


 と僕がそう言うと、琴音は軽く表情を歪ませる。


「……なるほど。ハーレム王の仕業と」

「あはは。本人的にも満更ではないみたいだから、別にいいんじゃないかな?」


 そんな他愛のない会話を琴音としながらも、僕の心には先程の黒瀬さんの言葉が残っていた。





「どうでもいい男の一番より、本当に好きな人の二番目」



 もしそれが許されるなら、と。少しだけ羨ましいと思ってしまう自分が居た。 





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