第四話 ⑬ ~帰り道。彼女をしっかりと家まで送りました~
第四話 ⑬
「すごかったね、悠斗!!」
「うん。とてもかっこよかったよね」
ライブ会場を後にした俺たちは、帰りの道で感想に花を咲かせていた。
出待ち。をしているファンも居たが、もう夜も遅いので、俺たちはそのまま帰宅することにした。
電車に乗り、朱里の家の最寄り駅で降り、通学で使用してる自転車を使って彼女を家まで送り届ける。
時刻はもう二十時を回っていた。
バイトをしている俺からしてみれば、まだまだ夜はこれからな時間だが、彼女とのデートでこの時間まで一緒に居たのは初めてだった。
「こんな時間まで外で悠斗と一緒に居るのは初めてだね!!なんだかちょっとドキドキする」
「あはは。そうだね、俺も少しいつもとは違う感じがしてて、なんかちょっと落ち着かない気分かな」
こんな時間まで一緒にいると、どうしてもお泊まりの時を思い出してしまう。
そんなことを考えていると、朱里も同じように思っていたのだろうか。顔を少し赤くしていた。
「あはは。あの時は少し理性が飛んでたと言うかなんというか……」
「理性が飛んでたのは俺も一緒だと思うんだけど……」
抱きしめた朱里は柔らかかったなぁ……
なんて思っていると、
「こ、この話はここまでにしようか!!」
と、朱里が手を振って話題を終わりにしようとする。
「そ、そうだね。そうしようか」
そうこうしてると、朱里の家の最寄りの公園へと到着する。
「あのさ、悠斗。お願いがあるんだけど……」
「うん。俺ももう少し話していたいなと思ってたから、朱里さえ良ければベンチで少し話そうか」
「うん!!」
俺と朱里は公園の入口に自転車を停めて、ベンチへと歩く。
「……ちょっと前はここで喧嘩したよね」
「そうだね……でも、あれがあったから今があるって思えるようにしたいんだよね」
俺の言葉に、朱里は小さく首を縦に振る。
「そうだね。私もそう思うよ」
俺たちはそのまま、ベンチへと腰を下ろす。
そして、朱里は少しだけ意を決して、話し始める。
「あはは……悠斗は知らないと思うけど、あの時にさ、後ろを見ちゃダメ!!って言ったでしょ?」
「え?う、うん。言ったね」
「あの時さ、何故か知らないけど詩織ちゃんが居たんだ……」
「……う、うそ」
言葉を失う俺に、朱里続ける。
「ううん。ほんと。なんで居たのかはわかんないけどね。多分なんかしらの方法で知ってたんじゃないかな……」
盗聴器
という言葉が頭によぎった。
だが、もう過ぎた話だろう。
詩織さんからも、そういうことはもうしない。と、約束している。
「あはは。一回目のキスはお父さんに覗かれて失敗。その次は詩織ちゃんに覗かれて。今回も誰かに覗かれてたりして?」
そんな事ないよねー。
なんてことを冗談のように言う朱里。
「あはは。それってなんて言うか知ってる?」
「うん。知ってるよ」
「「フラグ。だよね」」
俺たちは、夜なのに声を上げて笑う。
「俺は誰かに覗かれてても構わないよ?」
「……悠斗は良くても、私は少し恥ずかしい」
朱里はそう言うと、スっと視線を落とす。
「通学路の真ん中でするのは、ちょっと恥ずかしい。嬉しいのもあるけど、やっぱりこう言うのは大切にしたい」
「うん。わかった」
俺はその言葉に首を縦に振る。
「ねぇ、悠斗。今なら誰も見てないと思うんだよね」
と、朱里は俺の目を見て言う。
「そうだね」
俺はその目を見つめながら答える。
「したい?」
「したい」
即答する俺に、朱里は笑う。
「悠斗のえっち」
「……男はみんなえっちだから」
その言葉に、朱里は少しだけ照れくさそうに言う。
「でもね、えっちな悠斗も私は好きだよ?」
求められてるってわかるから。
そう言うと、朱里は目を閉じる。
「悠斗がしたいえっちなことは、全部私がさせてあげるから、他の女の子に行ったらダメだからね?」
「……朱里。今自分がとんでもないこと言ってるってわかってるのかな」
「わかってるよ?でも、そのくらい、私は悠斗が好き……」
唇を重ね合わせる。
夜の静けさに包まれた公園で、俺たちはキスをした。
そのキスは今までしたどのキスよりも甘く、
二人を結びつけていた。




