第四話 ⑫ ~ライブのコンパスメンバーは別人のようにカッコよかった~
第四話 ⑫
「さて、少年よ。そろそろいい時間だな」
俺の差し入れのケーキを美味しそうに食べた司さんが、そう切り出した。
時刻は十八時十五分前。
そろそろライブ会場へと向かった方が良いだろう。
「そうですね。ライブ前の忙しい時間にありがとうございます。それでは、皆さんのパフォーマンスに期待してます!!」
「あぁ、少年の期待をいい意味で裏切れるように頑張るとしよう」
と、司はニヤリと笑って俺を送り出してくれた。
楽屋を後にした俺たちは、一度外に出てから入口の受付へと向かう。
俺は財布から二枚のチケットを出して、一枚を朱里に渡す。
「ありがとう、悠斗。すごい楽しみだね!!」
「あぁ、俺もワクワクしてきたよ」
「チケットを拝見します」
「はい。お願いします」
俺たちはチケットを受付の人へと見せる。
「なるほど。あなたが司さんの言っていた……」
と、受付の方が俺の顔を見て呟く。
「そう言えば、コンパスのライブは男子禁制でしたが……大丈夫ですか?」
俺は少しだけ不安になって聞いていた。
「えぇ。司さんからあなたのことは伺っています」
「あの、すみません。なんで男子禁制なんですか?」
と、朱里が受付の人に聞いていた。
それは俺も気になってはいた。ただ、本人には少し聞きづらかったことだった。
「あぁ。そうですね。コンパスはガールズバンドなので、やはり最初は『変な目で見られること』が多かったんですよ」
「……なるほど」
何となくわかる気がする。
「メンバーは皆さん見た目も良いですからね。客を装って変な男に言い寄られることも少なくなかったようで。司さんが、それならいっそ男子禁制にしよう。と決めたんです」
「司さんが……」
「えぇ。ですので、その司さんがあなたにチケットを渡した。その事のすごさを私は今感じています」
あなた。相当凄いですよ?
受付の人はそう言うと、にこやかに笑っていた。
「ただのバイト先の手のかかる後輩ですよ」
と、俺はため息混じりに言った。
「ふふふ。そういうあなただからこそ、司さんも呼んだのかもしれませんね」
受付の人はそう言うと、中に向かって手を差し出した。
「このまま真っ直ぐ行けば会場です。コンパスのライブがここで見れる機会はもう少ないと思います。どうか楽しんでください」
「ありがとうございます」
「ありがとうございます」
俺と朱里は揃って頭を下げる。
手を繋ぎながら通路を歩く。
「少し暗いから足元気をつけて」
「うん。ありがとう、悠斗」
少し思案した朱里が口を開く。
「あれだけ明るかったあの人たちでも、嫌な思いとかしてきたんだよね」
「そうだね。順風満帆に見えたけど、やっぱり大変なこととかもあったんだろうね」
「私も頑張らないといけないな」
「俺も負けないように頑張らないとな」
いい意味で刺激を貰った俺たちは、ライブ会場へと到着する。
そこにはやはり、女性しか居なかった。
その大半がこちらを見て驚愕の表情を浮かべる。
……やっぱり、こうなるよな。
少しだけ居心地の悪さを感じていると、ライブが開演する。
スモークが焚かれ、スポットライトの中からコンパスのメンバーが登場する。
そうなると、先程までこっちを見ていた女性客も、ステージに釘付けになる。
そして、ライブ衣装に身を包んだ司さんが、センターマイクの前に立って、挨拶をする。
『やぁ、皆んな!!今日もコンパスのライブに来てくれてありがとう!!』
わああああ!!!!
「す、すごい人気だね、司さん」
「そうだね。なんかあの人がバイト先の先輩だなんて信じらんないな」
俺たちはその熱気に圧倒される。
『今日は皆んなも驚いたと思うが男性が一人。このライブに来てる!!』
ザワ……
「……っ!!」
会場の女性の視線が全て俺に向く。
し、心臓に悪いっ!!
『少年は私の客なんだ!!彼は正規の手段でここに来た。だからみんなも歓迎して欲しい!!』
司さんの言葉に、会場の女性が少しだけ沈黙する。
そして、
パチパチパチパチパチパチ!!!!
と拍手が贈られた。
『ありがとう皆んな!!そんなみんなをーー!!!!』
愛してるーー!!!!
コールアンドレスポンスだったのか。
そして、盛り上がった会場の熱気に包まれ、コンパスのライブが始まった。
ひと言で言えば、『すごい』としか言えなかった。
素人目で見ても完成度の高いパフォーマンス。
司さんの歌はもちろん。他のメンバーの演奏も圧巻だった。
ライブ前に言っていたこだわりの衣装は、歌や踊りに合わせて光を乱反射させていたかっこよかった。
カラオケで歌っていた朱里さんが『可愛い』に特化した歌だったのに対して、司さんの歌は『カッコイイ』に特化した歌だった。
気がついたら俺たちは二人で手を叩いていた。
そして、トークを挟んだりしながら一時間半ほどのライブを行ったコンパスは、ラストの曲に入った。
その曲は今までのアップテンポの曲と違い、バラードの曲調だった。
こんな歌も司さんは歌えるんだな……
今日一日で色んな姿の司さんを見れたと思う。
きっと、あの人はこれからもっともっと上に行く人なんだろうな。そんな人と知り合いになれた。
あの人の後輩として恥じない人間にならないとダメだな。
……まったく。俺の周りにはすごい人が多すぎるな。
自分磨きをもっともっとして行かないと。周りに置いていかれてしまう。
そして、大成功を持って、コンパスのライブは無事に終了した。
ちなみに、後日知ったことだが、司さんがコールアンドレスポンスをやるのは今回が初めてだったようで、それを見れなかった佐藤さんはすごく悔しがってたって話で。
俺が来たから、やってくれたのかな?




