第四話 ③ ~三回目のデート・待ち合わせ場所に春の妖精が降り立った~
第四話 ③
時刻は九時半。
待ち合わせにはまだ三十分ほど時間があった。
少し早く来すぎてしまった気もするが、彼女を待たせてしまった前回よりは良いだろう。
俺はそう考えると駅の入り口で待つことにした。
ポケットからスマホを取りだし、電子書籍を読む。
異世界転生チートハーレムものを最近は読み始めた。
この手のものは少し敬遠していたが、読んでみるとなかなか面白かった。
読まず嫌いは良くないな。
なんて思いながら読んでいると、
「君。ちょっといいかな?」
「……はい?」
スーツを着た背の高い男性が俺に話しかけてくる。
「……なんですか?政治とかの話ですか?」
そういうのは他の人に聞いて貰えませんか?
と、俺がスーツの男性に言うと。
「いや、違うんだ。君、モデルとか興味無いかい?」
スーツの男性が名刺を出してくる。
男性から受け取った名刺を読むと、『佐々木哲人』と言う名前と、俺がよく使っているファッション雑誌の名前が書いてあった。
「……なるほど。この雑誌にはお世話になってます」
「そうだと思ったんだ。ファッションの系統が、うちの雑誌に似通っていたからね」
「……読者モデルと言うやつですか?」
俺がそう言うと、佐々木さんは首を縦に振る。
「きちんと給料も出るし、人気が出ればプロのモデルとしての道もある」
君さえ良ければ。と思うんだ。
「……そうですか」
俺は少しだけ思案し、男性に言う。
「名刺はありがたくいただきます。ですが、今日はこれからデートなんです」
「そうなのかい。それは申し訳ないことをした」
すまない。
と、佐々木さんは、年下の俺に頭を下げる。
その姿勢に好感を覚えた。
年齢関係無く、しっかりと謝罪出来る大人には信頼が置ける。
「えぇ。ですので、こちらから改めて連絡をさせてください」
やるにしても、やらないにしても、きちんと連絡をする。それは約束します。
俺はそう答えた。
「わかった。じゃあ君からのいい返事を期待してるよ」
と、言う佐々木さんに俺は言う。
「自分の名前は桐崎悠斗と言います」
「名前を教えてくれてありがとう。それじゃあ桐崎くん。デートを楽しんでくれ」
邪魔した人間のセリフじゃないが、許してくれ。
そう言って佐々木さんは、俺の元を去っていった。
「……はぁ、疲れた」
なんだか、今日はデート前に色々ありすぎじゃないか?
そんなことを考えていると、
「ねぇねぇ悠斗、話しかけても平気?」
と、後ろから愛しの彼女の声が聞こえてくる。
「ごめんね、朱里。ちょっといろいろあって……」
そう言いながら声の方へ振り向くと、
「……春の妖精がいる」
白いシャツにニットベストをあわせ、ロングスカートを履いている。朱里が居た。
足もだいぶ良くなったようで、もう松葉杖の世話にはならないようだ。
まぁ、それでもあまり無理はさせたくないよな。
「あはは、何それ……」
俺の言葉に少しだけ困ったように彼女が笑う。
「それで、なんかスーツの男性と話してたけど何かあったの?」
と、朱里が聞いてきたので
「あぁ。俺がいつも使ってるファッション雑誌の人でね。その人から読者モデルをやらないかって言われたんだ」
「えぇ!!??それってすごいことだよね!!」
俺の言葉に、朱里が驚く。
「うーん。でもあまりやろうとは思わないんだよね」
「え!?なんで??」
首を傾げる彼女に言う。
「え?だってこれ以上仕事を増やしたら朱里とデート出来ないじゃん。それに、俺のオシャレは全部朱里の為でありたいって思ってるから」
「あ、あぅ……」
俺の言葉に朱里が顔を真っ赤にする。
「だから、名刺は貰ったけど、また後日に断りの電話をしようと思ってるんだ」
「そうなんだ。……ちょっともったいないなと思ったけど、考えてみたらこれ以上悠斗がモテても困るし」
「あはは。どんだけモテたとしても、俺は朱里一筋だよ」
「えへへ。ありがとう悠斗!!」
朱里はそう言うと、ニコリと笑う。
「まだケーキバイキングには早いから、少し腹ごなしを兼ねてカラオケでも行こうと思ってるんだけど、どうかな?」
「うん!!悠斗の歌声って聞いたことないから楽しみ」
そう言う朱里に俺は苦笑いを浮かべる。
「あはは……そんな上手いもんじゃないから、期待しないでね……」
音痴じゃないとは思う。
健とか石崎とかと行くことがあるけど、点数出すやつでも悪くないし。
とりあえず恥だけはかかないようにしよう。
俺はそう考えながら、カラオケチェーン店へと二人で向かった。




