第四話 ② ~三回目のデート・待ち合わせ場所へ向かう際に意外な人物に会いました~
第四話 ②
「とまぁ、こんな感じで雫と同じことを佐藤さんにも言われてね」
「佐藤さんって、朱里ちゃんの友達だよね?そっかぁ、同じ趣味だったんだね!!」
てか、受験勉強中に聴いてる曲も、コンパスの曲だもん。
そう言う雫は少しだけ胸を張る。
「聴いてるとやる気が出てくるからね」
「じゃあ、司さんに今度会った時にでも、妹が受験勉強をしながら聞いてます。って伝えておくよ」
「わぁ!!ありがとうおにぃ!!」
なんかすげぇ喜ばれてる。
サインかなんかでも貰ってこようかな。
いや、司さんはそういうミーハーなことは嫌いそうだし、信頼関係に響きそうだから辞めておこう。
俺はそう結論付けると、中断していた身だしなみを整える作業を再開する。
そして、キッチリと髪型と服装を整え、持ち物も確認する。
財布の中にはライブのチケットが二枚あることを確認する。
忘れました。なんて言ったら入れて貰えないだろうし。
「ねぇねぇおにぃ!!」
待ち合わせ場所に向かおうと、玄関の前に行くと、雫が後ろから着いてきた。
「お願いがあるんだけど!!」
その言葉に何となくの予想を立てた俺が先に言う。
「……司さんのサインとかなら、あんまりいい顔しないと思うけど?」
「あぁ……やっぱりそうだよね」
雫はコンパスのCDが入ってると思われるケースを手にしながら、少し肩を落とす。
その姿を見た俺は決断する。
司さんと多少気まずくなろうとも、俺の大切な雫を悲しませるなんて論外だ。
「そのCDケースにサインを貰えばいいのか?」
俺は雫が持っているCDケースを手に取る。
「え?いいの!?」
雫が驚いたように確認する。
「一応聞いてみて、ダメだったら諦めるよ。それでもいい?」
「うん!!おにぃ!!本当にありがとう!!」
本当に好きなんだなぁ……
俺はそう思いながら、受け取ったCDケースをカバンにしまい込む。
「じゃあ、行ってくるね」
「行ってらっしゃい、おにぃ!!」
玄関の扉を開けて外に出る。
今日は快晴。いい天気だ。
俺は玄関の扉を閉めると、愛車のポチに乗って駅へと向かった。
愛車を駅前の駐輪場に停め、盗難対策をしっかりとして駅へと向かう。
時刻は八時半。
時刻表を確認すると、それほど待たずに電車に乗れそうだ。
電車で一時間ほど揺られた場所に十時集合なので、少し早めに着けそうだ。
そんなことを考えながら、suicaを押し当てて構内へと向かう。
残金は5000円程をキープしている。
そして、程なくしてやってきた電車に乗り込んだ。
日曜日とは言え、この時間の電車はそれほど人は乗っていなかった。
電車で一時間。決して短くない時間なので、電子書籍でも読みながら時間を潰そうか。そう思っていた時だった。
「おや……もしかして桐崎くんかい?」
そう言って俺に話しかけてきたのは、
「蒼井さんですか?」
私服姿の蒼井さんだった。
白色の帽子を手にし、薄水色のワンピースに、淡いピンクのサンダルを履いている。
春の陽気に合わせたとても涼しげな格好をしていた。
「そうだよ。こうして休日に会うのは初めてだね?」
「そうですね。蒼井さんの格好、とても良くお似合いです」
俺の言葉を受けた彼女は少しだけ頬を染める。
「あはは……桐崎くんもかなりオシャレでかっこいいね。あれかな、これからデートと言うやつかい?」
「はい。そうです。これから一時間ほど電車に揺られてケーキバイキングに行く予定です」
「そうなのか。僕は学校の最寄り駅に行って、そこで少し買い物をしようかと思ってるんだ」
ここで会ったのも何かの縁だ。もし良ければ三十分程話をしないかい?
と、蒼井さんから提案があった。
「はい。蒼井さんほど綺麗な女性の誘いを断るようなことは男として出来ませんよ」
俺は微笑みながらそう言う。
「き、君は誰に対してもそんなことを言うのかい……っ!?」
「……?いえ、そんなことは無いですよ」
思ったことしか言ってないので、誰にでも。という訳では無いです。
俺のその言葉に、
「……これが女たらしのハーレム王たる所以か……」
「……え?何か言いました?」
疑問を投げかける俺に、蒼井さんは苦笑いを浮かべる。
「いや、何でもないよ」
「……そうですか」
少し納得がいかなかったけど、まあいいか。
そして、俺たちは蒼井さんの最寄り駅に着くまでの三十分間を他愛ない話をしながら過ごしていった。
会話をしていると、電車のアナウンスが蒼井さんの駅の名前を告げる。
「おや、もう着いてしまったね」
「はい。名残惜しいですが、ここまでですね」
俺はそう言うと、蒼井さんに頭を下げる。
「楽しい時間をありがとうございます。明日の予算会議でも、蒼井さんのお役に立てるように頑張ります」
「あはは。そんなかしこまらなくてもいいよ。ただ、君には期待してるよ」
電車から降りながら、蒼井さんは言う。
「僕も楽しかったよ、桐崎くん。じゃあまた学校で」
「はい。では、失礼します」
そう言うと、電車の扉が閉まった。
俺を乗せた電車が走り始めると、蒼井さんは階段へと歩いて行った。
ふぅ……少し緊張したけど、何とか普通に話せたな。
俺は額に浮かんだ汗を、ハンカチで拭った。
朱里や詩織さんとは系統の違う美しさを持った蒼井さん。
年上でしかもあんなとんでもない美少女とサシで話す機会なんてほとんど無かったので緊張した。
制服ではなく、私服だったのもダメージがでかい。
俺はデートの最寄り駅までの残り時間を、空いていた椅子にどかっと座って過ごしていった。




