第三話 ④ ~自分にとんでもない二つ名があったことを初めて知りました~
第三話 ④
詩織さんの予算の確認を終え、午前の授業も特に問題なくこなした。
多少寝不足の影響もあり、あくびが出てしまうこともあったが、居眠りなどすることもなかった。
中間テストで詩織さんと点数を競うのだ。
居眠りなんかしてられない。
そして、四時間目が終わるチャイムが鳴った。
「よし。なんとか午前の授業はこなせたな」
俺はグッと身体を伸ばして眠気を飛ばす。
午後の授業は体育と音楽だから特に問題は無いだろう。
特に六時間目の音楽は、先生が演奏するピアノを聴いてるだけ。みたいな時もある。
『寝たい奴は寝てればいい』
と言って、眠りに誘うピアノを弾く時もある。
今日がそれなら、ぐっすり寝れそうだ。
「おい、悠斗。飯行こうぜ!!」
俺がぼーっとしてると、健が食事に誘ってきた。
「あぁ、そうだな。今日は雫の弁当も無いし、早めに行かないと食べたいのが無くなるかもしれないな」
俺はそう言うと、席から立ち上がる。
「よし。じゃあ朱里に佐藤さん、詩織さん。今日も一緒にご飯を……」
と、言った時だった。
ガラリ
と教室の扉が勢い良く開かれる。
「桐崎悠斗は居るかな!!??」
髪の長い女性が俺の名前を呼んでいた。
ん?なんか。どっかで見たことのある顔な気がするけど……
「はい。俺が桐崎悠斗です。なにかご用ですか?」
と、俺がその女性の前に歩いて行く。
「おぉ、居た居た!!こうして近くで見るのは初めてだけど、なるほどね。『女たらしのハーレム王』の気配をビンビン感じるね!!」
「……はい?」
女たらしのハーレム王??
一体なんの事だ??
「自己紹介が遅れたね!!私は新聞部で部長をしてる、三輪怜音だよ!!君が所属してる生徒会の書記の琴音は私の妹だよ!!」
なるほど、三輪先輩のお姉さんだったのか。
だから何となく見た事のある顔だったんだな。
って!!違う!!そうじゃない!!
「あの!!三輪先輩!!さっき言ってた女たらしのハーレム王ってなんですか!?」
「んーあーそうか。君は知らないんだね」
と、三輪先輩はうんうんと頷いている。
「よし。詳しい話は食堂でしよう!!さぁ!!みんな行くよ!!」
そう言うと、彼女は俺たちを先導するように歩き出した。
い、勢いのある先輩だ。
妹の琴音先輩とは全然違う……
俺たちは先導する怜音先輩について行く。
そして、食堂へと向かう途中で、朱里が俺に聞いてきた。
「……悠斗。女たらしのハーレム王なの?」
「……いや、初めて聞いたよ」
「私はいーんちょーが影でそう呼ばれてるのは知ってたよ?」
「「えぇ!!??」」
佐藤さんの言葉に俺と朱里が驚く。
「誰が呼び出したかは知らないけど、たくさんの女の子を惚れさせておきながら、当人は知らん顔してる。みたいな所が所以らしいよ?」
「…………身に覚えが無さすぎる」
「まー、いーんちょーは無自覚で女の子を惚れさせる天才だからね」
天然ジゴロってやつよ。
「悠斗くんは誰に対してもかなり親身になってくれますからね。女の子は特にそうされると、好きになってしまいやすいと思いますよ?」
「え?黒瀬さん。それって自分のこと?」
「ふふふ。さぁ、どうでしょうかね」
佐藤さんの言葉に、詩織さんは意味深に微笑む。
「お、女の子に優しくするって……普通じゃないのか?」
俺は困ったように言う。
すると、予想外のところから返事が来た。
「悠斗の場合は優しさがわざとらしく感じないんだよ」
「健?」
「見返りを求めてくるような優しさじゃなくて、本当に親切心でやってきてるだろ?そう言うのってなんて言うか心地よく感じるんだよな」
「そうそう。女の子ってそう言う『見返りを求めてこない優しさ』ってわかるんだよね。いーんちょーの優しさってこっちに好かれたいとかそういう打算みたいなのを感じないんだよね」
そう言う優しさって女の子には効くんだよね。
「それでいていーんちょーは、頭良いし、背高いし、清潔感あるし、チャラチャラしてなくてかっこいいし。ほら、前に言ったよね?影でかなり人気あるよって」
「…………ぐ」
「それでいて当人はそんな女心は知る由もない。なるほど、惚れさせるだけ惚れさせて、決定的な関係にはしない。女たらしのハーレム王とはよく言ったもんだね!!」
と、佐藤さんがケラケラと笑っていた。
そんな会話をしていると、食堂へとたどり着いた。
俺たちがいつも使ってる丸テーブルはやはり空いている。
「さて、皆!!いつも君たちが使っているテーブルは空いているね!!昼ごはんを買ったらそこに集合だ!!」
怜音先輩は俺たちに振り返ってそう言い放った。
「わかりました。とりあえず自分が不名誉な二つ名で呼ばれてる理由はわかりました。ですが、その出処がわからないので、詳しい話は聞かせてくださいね?」
俺は怜音先輩にそう言い返した。
「オッケー!!じゃあその話と、君がしたい放課後のこととかも色々話そうか!!」
じゃあまた後で!!
先輩はそう言うと、券売機へと向かって行った。
「じゃあ、俺達も買ってこようか。朱里は座って待っててくれ」
「うん。今日もお願いね、悠斗」
俺は朱里からお金を受け取ると券売機へと向かう。
はぁ……なんだか、前途多難な気がしてきた。
俺は初めて知った自分の不名誉な二つ名に、大きなため息を吐いた。




