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第二話 ⑪ ~ラブコメラノベの偉大なる先輩たちは、自身の性欲に打ち勝ってきたんだよな。尊敬します~

 第二話 ⑪





 チュン……チュン……



「ふぅ。もう朝か……一睡も出来なかったけど、俺は手を出さないで我慢できたぞ……まったく、無防備な顔で寝やがって……」


 俺は自室で、『まだ真っ暗な外』を見ながらそう呟いた。


「ねぇ、悠斗。まだ夜だよ?」


 車の中に予備があったというパジャマ(なんであるんだよ……)に着替え、ベッドの上に座っている朱里が、少し困ったような声で俺にそう話しかけてきた。


「……だよねぇ」


 チュン……チュン……


 なんて幻聴が聞こえるくらいには、俺は追い込まれていた。


 自室の下では、三人の大人が楽しそうに飲んでる。

 隣の部屋では雫が音楽を聴きながら勉強をしてる。


 そして、俺の部屋には……朱里が居る。


 いや、春休みの昼に、雫と一緒に俺の部屋に居た。


 ということはあったが、こんな夜中に、二人きりで、一緒に寝る。


 そんなことは無かった。


「なぁ、朱里。その俺は……」

「俺は床で寝るから、朱里はベッドで寝てくれ。なんて言われても断るからね?」

「うぐ……」


 ジトーっと睨みつけてくる朱里。


「もー悠斗?ラブコメラノベの主人公はみんな同じこといってるよ?そして断られてるんだよ。ほら、一緒に寝るよ?」


 明日も早いんだし。


「あ、朱里は……その、平気なのか?」


 なんだか落ち着いてる気がする。焦ってるのは俺だけ?みたいな。


「平気だよ。だって悠斗だもん。私が嫌がることはしないって信じてるし」

「まぁ……」

「それに、好きな人と一緒に寝られるとか、幸せだよね。悠斗は違うの?」

「いや、違わないけど……」

「それにね、悠斗。聞いてほしいんだけどさ」


 と、朱里は息を吸って、吐く。


「もし、本当に、悠斗が、いろいろと我慢出来なくて、そういうことになったとしても、私は嬉しいよ?」

「……っ!!」





「好きな人に求められて、嫌な女の子はいないよ」





「……それでも、俺は朱里との初めては、もう少しこだわりたい」


 俺は絞り出すようにそう言った。


「初めてのキスは0点だったから、こっちの初めては100点にしたい」

「ふふふ。そっか。じゃあ、期待してようかな?」


 朱里はそう言うと、俺のベッドに寝転ぶ。


「えへへ。悠斗の匂いがする。悠斗には悪いけど、良く寝れそうな気がする」


 可愛い……


 この世にこんな可愛い女の子が存在しても良いのだろうか?


 学園の二大美少女?何言ってんだ。世界で一番の美少女じゃないか!!


「ほら、悠斗。おいで」


 朱里はそう言うと、掛け布団を持ち上げて俺を誘う。


「あ、はい」


 俺は花の蜜に誘われるように、フラフラとそこに足を運ぶ。


 そして。朱里の腕に包まれるように、布団の中に入る。


「お邪魔します」


「ふふふ。なにそれ面白い」


 背中を向けるようにしてベッドに入った俺を、朱里は後ろから抱きしめる。


「悠斗の背中。大きいね」

「ねぇ!!朱里!!誘ってるよね!?」


 俺は思わず叫んでしまう。


「えへへ。誘ってる」

「…………」


 プツン……


 と、何かが切れた気がした。


 俺はくるりと身体を回転させて、彼女の身体を抱きしめる。


「……電気。消すよ」

「……うん」


 パチ、パチ


 真っ暗だと寝れない俺は、玉電をつけていつも寝ている。


 オレンジ色の光に、朱里の顔が染る。


「キスしたい」


 俺のその言葉に、朱里が頷く。


「いいよ」


 唇を重ね合う。


 暖かい。


 強く、強く、彼女を抱きしめる。


「……悠斗、好き」

「うん。俺も好きだよ……朱里」



 舌を入れ、唾液を絡め合う。


 誰も見ていない、二人だけ空間に、隠微な音が響く。










 そうして、夜が明ける。









 チュン……チュン……



「ふぅ。もう朝か……一睡も出来なかったけど、俺は手を出さないで我慢できたぞ……まったく、無防備な顔で寝やがって……」


 そう、俺は手を出さなかった!!


 キスはした!!でも我慢した!!


 長男だから!!


 俺の隣にはすやすやと寝息をたてる可愛らしい朱里。


 自身の宣言通り、良く寝てる。


 キスをして、愛を囁いて、理性が崩壊しかけた時に、朱里の寝息が聞こえてきた。


 そしたら、もう無理だった……



 寝てる女の子に手を出すなんて最低なことは出来ない……


 ただ、寝ることすら出来ず、俺はずっと我慢の数時間を過ごしたのだった……



「……偉大なるラブコメラノベの先輩たち……俺も、あなた達のように、頑張りました……っ!!」


 朝焼けに染る外を見ながら、俺はそう呟いた。

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