第二話 ⑩ ~両家の親が顔を合わせて食事をする。結婚前みたいな感じがしました~
第二話 ⑩
ピンポーン
朱里たちと別れてから二時間ほどたった頃。
自宅のチャイムが鳴る。
時刻は二十一時
夕飯を食べるには少し遅めの時間だが、雫が準備をする時間を考えればちょうど良い時間だ。
つい三十分ほど前に、彼女お手製のカレーが作り終わっていた。
俺も自分の部屋と居間を掃除してある。
親父は珍しく少しオシャレをして、IT系の仕事をしてる関係上。伸びっぱなしになりやすい無精髭などはしっかりと剃り、清潔感のある姿になっていた。
藤崎家を迎え入れる準備はしっかりと出来たはずだ。
俺は玄関へと向かい、扉を開ける。
「こんばんは。お待ちしておりました」
俺は玄関の前に居た三人に声を掛ける。
「こんばんは、悠斗くん。いきなり押しかけちゃってごめんね」
と、遥さんが手を合わせる。
「いえ、こうして皆さんを自宅に呼べて嬉しいです」
俺は笑顔でそう返すと、
「立ち話もなんですから、どうぞ入ってください」
三人を家に迎え入れる。
「お邪魔するよ。桐崎くん」
「はい。勇さんも、どうか我が家だと思ってくつろいでください」
と、勇さんに笑顔で返す。
「こんばんは、悠斗。なんだかこうして悠斗の家に来るの久しぶりだからワクワクしてるよ」
「そうだね。春休みに朱里が雫と遊んでる時以来かな?雫も楽しみにしてるから、いっぱい話してあげて欲しいかな」
「うん!!私も雫ちゃんと会うの楽しみなんだー」
と、彼女も楽しそうに家に上がる。
「では、案内しますね。と言っても、そこの廊下の突き当りですけどね」
「あら、カレーのいい匂いがするわね」
遥さんがそう言って頬を緩ませる。
「はい。今日は妹特製のカレーを振る舞わせてもらいます。手前味噌ですが、うちの妹のカレーはとても美味しいので期待しててください」
俺は今の扉を開ける。
「テーブルに椅子を用意してあります。そちらに座ってください」
「ふふふ。ありがとう桐崎くん。流石は君の自宅だな。随分と綺麗にしてるじゃないか」
勇さんが感心したようにいうので、
「恐縮です。その、一生懸命掃除したのでゴミ一つないですが、普段はもう少し汚れてます。皆さんがいらっしゃるので慌てて掃除したので、端っこの方とかはあまり見ないでやってください」
「私が春休みに来た時も綺麗だったよ?」
と、言う朱里に
「あはは……いや、汚い家に彼女を呼べないから、あの時だって頑張ってたんだよね……」
俺は苦笑いを浮かべる。
「そうなんだ。頑張ってたんだね、悠斗。偉いぞー」
なんて会話をしてると、奥から親父が歩いてくる。
「皆さん。ようこそおいで下さいました。悠斗の父の、桐崎進です」
自己紹介をして親父が頭を下げる。
「初めまして。朱里の父の藤崎勇です」
「初めまして。朱里の母の藤崎遥です」
「何度か自宅にはお邪魔させてもらってます。悠斗と交際をしています藤崎朱里です」
と三人は一礼する。
「勇さん、遥さん、朱里さん。いつも悠斗がお世話になってます。朱里さんには雫もお世話になってるね。ありがとう」
「いえ、私の方こそいつも悠斗には……」
「はいはい。みんな席に座ってよー。もう私はお腹すいたよー」
と、キッチンから雫の声が聞こえてくる。
「あはは。確かにもういい時間だね」
「可愛らしい妹さんね」
「雫ちゃんを待たせると可哀想だし、早く座ろうか」
と言って三人は椅子に座る。
「皆さん初めまして!!朱里ちゃんは久しぶり!!悠斗の妹の雫といいます!!こちらが我が家自慢のカレーです!!」
と、雫はお皿に盛り付けたカレーライスを配っていく。
「あら、本当にいい匂い。こんなの間近で嗅いでたらお腹すいちゃうわね」
と、遥さんが笑う。
「福神漬けとらっきょうはこっちの小鉢に入ってます。好きなだけ使ってください。あと、おかわりは自由です!!」
おにぃはカレーはいつもおかわりするので、多めにご飯は炊いてますし、カレーもたくさん作ってます。
と雫がウィンクを飛ばす。
「それじゃあみんなに配られたと思います」
皆にカレーがいったのを確認する。
「では、いただきます!!」
いただきまーす!!
俺のいただきますの音頭に皆が続いた。
そして、俺はまずは最初の一杯は福神漬けやらっきょうは使わない主義なので、カレーとご飯を軽く混ぜて口に入れる。
「はぁ……うまい」
雫のカレーは市販のルーを三種類ほど使い、どのルーをどのくらいの配分で使うか。に拘っている。
自分で配合したスパイスカレーと作らないのか?
聞くと
「企業努力の末に作られたルーを、素人が越えられるわけないじゃん」
と言われた。
「プロが作ったルーを、カスタマイズするのが一番だよ」
とのこと。
「あら、本当に美味しいわ。ねぇ、雫ちゃん。これってどうやって作ってるの?」
と言う遥さんに、雫はドヤ顔で三つの市販のルーの箱を見せる。
「この三つのルーを独自の配合で作ってます!!どう配合するかは桐崎家の秘密です♪」
「そう。なら朱里。あなたが悠斗くんの家に嫁いだら配合を教えてもらうのよ?」
「お、お母さん!?」
驚く朱里。俺や親父、勇さんがカレーを吹き出しそうになる。
「朱里ちゃんがおにぃのお嫁さんになったら、その時は教えますね!!」
桐崎家の人になるんで。
「も、もう少し先の話かなぁ……」
なんて言いながら、朱里は顔を赤らめてカレーを食べる。
き、来てくれるのは確定なんだね。
ありがとうございます。
そんな話をしながら、俺たちは雫特製のカレーに舌鼓を打った。
そして、お腹も脹れた頃に、うちの親父がやらかした。
「どうでしょう、勇さん。ビールでも?」
「おい。親父、何言ってやがる」
とんでもない事を言い出した親父を俺がたしなめる。
「ふふふ。桐崎くん。そんなに怒らなくても大丈夫だよ?進さん。自分は明日は休日ですので、お付き合い出来ますよ」
「おぉ!!実は私も明日は休みでして。おい、悠斗!!」
「はぁ……わかったよ」
俺はひとつため息を吐くと、冷蔵庫に瓶ビールと、冷凍庫の中で冷やしてあるビールグラスを取りに行く。
「なるほど。進さん。グラスも冷やしてあるとは」
「ビールは冷たくないと美味くないですからね」
俺は二人の前にグラスを置く。
「私も飲みたいけど、運転手が居なくなってしまうわ」
と、遥さんが残念そうに呟く。
そんな遥さんに、親父がさらにやらかす。
「部屋に空きはあるんで、今日は泊まっていってはどうですか?」
「はぁ!?何言ってんだよ親父!!俺や朱里は明日は学校だぞ!?」
「いえ、悠斗くん。それは良いアイディアよ」
「……遥さん?」
俺はそう言って振り向くと、彼女はすごく笑顔だった。
「朱里も泊まっていけばいいのよ」
「「えぇー!?」」
驚く俺と朱里
「もうお風呂は済ませてるし、あなたの制服の予備が車にはあるわ。このまま悠斗くんと一晩過ごして、一緒に学校に行けば良いじゃない?」
とんでもない事を言う遥さん。
俺は一番理性的な勇さんに聞く。
「い、勇さん……」
「桐崎くん」
「は、はい!!」
真剣な表情の勇さん。そりゃそうだ。大切な一人娘をこんな性欲に塗れた男と一晩なんて……
「私のことは、『お義父さん』と呼びなさい」
「勇さん!!まだ飲んでないですよね!?」
酔っ払ってませんか!?
「悠斗。どうせ結婚したら毎日毎晩一緒に過ごすんだ。今から練習しておいたらどうだ」
「そうよ、悠斗くん。結婚するんだから良いじゃない」
「我々に言ったでは無いか。遊びで付き合ってるつもりは無いと。そんな君なら朱里を任せられる」
に、逃げ場がない……
「そ、そうだ!!まだ朱里の意見を……っ!!」
俺は朱里に向かって視線を向ける。
「ゆ……悠斗を、信じてるから……」
と、言って俯く彼女。
「……おにぃ。これの出番だね?」
雫がそう言って俺に箱を手渡してくる。
0.01mm
いつだかのデートの前に俺が投げた箱だった。
「おにぃ、私はイヤホンして寝るから!!」
「…………」
俺の理性が試される一晩が始まった瞬間だった。




