第一話 ⑧ ~あ……ありのまま、今起こったことを話すぜ……~
第一話 ⑧
「……どうしてこうなった?」
昼休みを終えた五時間目。
英語の授業でそれは起きた。
「教科書を忘れてしまったので、悠斗くんのを見せて貰えますか?」
と言う詩織さんの言葉から全ては始まった。
十中八九ワザとだと思うが、仕方がなく机をくっつけて教科書をシェアする。
あの時と同じように、必然的に距離が縮まった。
「ふふふ、照れてしまいます……」
「まぁ、俺も少し恥ずかしさはあるかな」
頬を赤く染める詩織さん。
こうして見ると、本当に可愛い女の子だなとは思う。
そんな女の子から好意を寄せられている。と言うのは、ありがたいとは思うが、俺には朱里さんが居る。
その好意には応えられないことは、幾ばくかの心苦しさみたいなものはあった。
授業の内容をボーッと追っていると、詩織さんに袖を引っ張られる。
あ、教科書めくってとかかな?
と思って隣を見ると、
「……悠斗くんは、脚がお好きと聞きまして」
と、詩織さんがニンマリと笑みを浮かべながら、俺にだけ見えるように、軽くスカートをたくし上げている。
チラリと白くて柔らかそうな太ももと、ニーソックスが顔を見せる。
し、詩織さん……長めのスカートだからわからなかったけど、ニーソックスだったのかっ!!
思わず授業そっちのけでガン見してしまう俺。
え?俺が脚好きってどこで知った?
思わず詩織さんを見ると、彼女は自分の唇に人差し指をあてる。
「禁則〇項です♪」
……そいつはまだ貸してないライトノベルですよ?
と、詩織さんとやり取りをしてると、机の上にメモが飛んできた。
「……何だ?」
メモを開くと
『詩織ちゃんの脚ガン見し過ぎ!!悠斗のえっち!!』
「……っ!!??」
慌てて隣を見ると、
「むぅ……」
と頬を膨らませた朱里が居た。
そして、俺と目があった彼女は、軽く頬を染めながら下を指さした。
それに従い、下に視線を落とすと、
短めのスカートを少し捲ることで現れる、バスケで鍛えられたスラッとした美しい脚が、おれのめのまえにあった。
思わずガン見する俺。
ふ、二人の美少女が俺に生脚を見せてきてる!!
な、何を言ってるかわからないと思うが、俺にもわけがわからない……っ!!
朱里の生脚をガン見してると、彼女は満足したようにニンマリと笑っている。
そして、口だけで
『悠斗のえっち』
と言っていた。
真っ赤になる俺。
また隣の詩織さんから袖を引っ張られる。
隣を見れると、彼女はジトっとした目で俺を見ていた。
……ぐ。その目で見られると辛い……
そして小さく彼女は俺に耳打ちしてくる。
悠斗くんが見たいなら、この先も良いですよ……?
こ、この先!!!???
ど、どこまで!!!???
い、いや……そんな、ダメだって!!
かなり狼狽する俺。
昼休みに山野先生に切った啖呵なんて頭から消えていた。
や、やばい。誰から知ったかわからないが……いや、俺が脚フェチだって知ってるのは、健だけだぞ!!
俺は犯人を特定すると、健の様子を見る。
……あいつ!!呑気に寝てやがる!!
俺は憎しみを込めて先生に進言する。
「垣根先生!!大変わかりやすい英語の授業に感銘を受けていますが!!そんな中で寝ている不届きな生徒が居ますが如何しましょう!!」
と言って俺は健を指さす。
「んお!!??」
俺の声で起きる健
「んー武藤。私の授業で寝るとは良い度胸だ」
と先生は健に向かって笑いかける。
「ゆ、悠斗!!売りやがったな!!」
と、恨みがましく言う健。
先に売ったのはお前だろうが!!
「寝ていた武藤は宿題の単語書き取りを二倍」
「んがー!!!!」
と項垂れる健。
ははは!!ざまーみろ!!
「そして、」
ん?先生が続けて言う。
「黒瀬、藤崎、桐崎の三名も宿題の書き取りを二倍だ」
「「「え!!??」」」
俺たちは三人で声を揃える。
「そういうイチャつきは私の見えないところでやりなさい」
私が女性だからまだいいかも知らないが、そういう行為は全部見えてるからな?
と、言われたら何も言えなかった。
俺たちは肩をすくめながら、残りの授業を粛々と過ごして行った。
両隣からの生脚を見せつけてくる行為は、その後の六時間目でも無かったのは、俺の精神的にも良かったと思った。
いやーでも、眼福だった。




