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番外編:ケモナーのちょっと怖い話!

ホラー要素を含むので苦手な方はブラウザバックをお勧めします

「一人で旅行に行く!?」


霞が奏にそう告げると、彼女とても驚き、大きな声をあげる。


「うん、実は安い宿見つけて一泊二日で行ってくるんだ! もちろんお父さんとお母さんの許可は取ってるよ?」


霞が行くのは長野県のとあるホテルだ。何故か格安で部屋が借りられるので行ってみることにした。昼は観光スポットを一人で巡り、夜は宿で寝て、そして翌日の朝から昼にかけて帰ってくる予定である。


「そうだ、奏も来る?」


どうせなら、と思い奏も誘ってみるが、彼女から帰ってきたのはあまり色の良くない返事だった。


「ごめん、その日は予定あってさ、お土産話楽しみにしてるよ!」


「そっか、それじゃお土産話楽しみにしててね!」


霞が旅行に行くのは今週末である。今日はもう金曜日。すでに明日の旅行に思考が偏っている彼女の耳に先生の授業が入ってくる筈もなく……彼女は無事先生に怒られることになった。



「すごいなぁ……」


この日は朝からとんでもないハードスケジュールでした。ホテルにチェックインだけ済ませると、すぐに観光地巡りだ。松本城に諏訪湖、それから諏訪大社。それからは温泉巡りである。

 私が一人で観光を楽しめるのは純粋にこの国の治安の良さからなのだろうと、しみじみ思いながらも、私は全力で楽しみました。


「一日早かったなぁ……」


一日がまるで一時間かのように感じてしまうくらいには楽しかったです。

 しかし楽しい時間にはいつだって必ず終わりが来ます。長野県の観光名所を一通り巡った彼女は現在、宿にある割り当てられた一室で、ベッドに背をつけて、ぼーっとしていました。

 食事も済ませ、あとは風呂も済ませてもう寝るだけです。しかし、興奮もあってかなかなか寝付くことはできませんでした。


ベッドに横になってしばらく、ただ時間だけが過ぎていき、半ば眠ることを諦めた私は、横になって奏に何を話そうか、と考えていました。


ーー松本城の話と、それから……諏訪湖と、あとは温泉……それからーー


こんなことを夜の暗闇の中で考えていると、ふと部屋のドアを引っ掻くような音が聞こえてきました。ガリガリ、カリカリと。安いホテルなので鼠でも出たのかな? と特に気にもせず、再び土産話を考えていると、だんだんとその音は強くなっていきます。次第にドンドンとドアを叩くような音に変化していきました。


ーー鼠にこんな音出せるのかな……?


私は怖くなり、思わず全身を布団にくるめて、小さく丸まりました。それでも音は鳴り止みません。トントン、と叩く音。ドンドンと激しく叩く音。ガリガリ引っ掻くような音。


「……あの……? 宿の方……ですか?」


意を決して声をかけてみます。しかし返事は返ってきません。それどころか、まるで、私の声に反応したかのようにドアの辺りから聞こえる音は段々と強くなっていきます。必死に何かを訴えかけるような……そんな音です。

 わたしにはその音が、「ここを開けろ」と訴えかけているかのように感じました。


「誰なんですか!? 変なイタズラはやめてください!」


きっとさっきの声だとドアの向こうまでは聞こえなかったのだろう、そう判断した私は、今度はドアの向こうにいようと絶対に聞こえるよう、大きな声を上げました。もしかしたら宿の人が来てくれるかもしれない。そんな期待を込めて大きな声を出しました。

 しかし誰も来ません。宿の人も来てくれませんし、音を出しているであろう人? からの返事もありません。


「……安いからって安易に選ぶんじゃなかった……」


安いならば安いで、何かしらの理由があるのでしょう。きっとここは曰く付きの物件なんだ、そう思い、かなり遅い後悔をし始めました。


「もうやだ……やめて……!」


どんなに安くても曰く付きの物件には誰も泊まりたくないでしょう。だから客も少ないんだ、と、私は何故か納得してしまいました。

 私の悲痛な叫びも虚しく、ドアから鳴る音はまるで鳴り止む気配がありません。ただ、一つだけ変化があったとすれば、それはガリガリと引っ掻く音がなくなり、代わりに何かを擦るような音に変わったことくらいでしょう。

 きっと開けたらとんでもないことになる、わたしはそう確信していました。


もうドアも見たくない、音も聞きたくない。そう思い、再び布団にくるまってさらには耳を塞ぎました。でも、耳を塞いでも音は聞こえてきます。まるで脳内に直接聞こえてくるかのような錯覚まで起こしました。


「いや……やめて……!」


結局ドアからなる音は、明け方まで止むことはありませんでした。



「ってことがあったのよ! めっちゃ怖かった……!」


私はことの顛末を奏に、身振り手振りを使い必死に伝えていました。あの夜の恐怖を、どうしようもない恐怖を少しでも伝えようと本当に必死でした。


「そんな安い物件だったら色々調べてから行けばよかったのに。調べないで行くからこんなことになるんだよ?」


奏から注意を受けますが、そんなことは私だって分かっています。次からは調べて……というより安すぎる宿には絶対に泊まりません。


「うん……あの後調べたんだけどさ、あのホテルで結構前に火事があったらしくて、逃げ遅れた人たちも大勢いたんだって。それでその人たちは部屋の中に閉じ込められたまま亡くなったらしい」


そう、あの宿はやっぱり曰く付きでした。それも大勢の人が、かなり惨い亡くなり方をしたそうです。


「もし開けてたらどうなってたんだろう……本当に開けなくてよかった」


私は一人、安堵し声を漏らしました。もし開けていたら、想像するだけでも震えが止まりません。この場所に来て今日奏と話すことはできなかったかもしれません。本当に開けなくてよかった……そう思っていたら、奏が突如声を上げました。


「……開けた方が良かったかもよ?」


「は? 何言ってるの?」


さっきの話を聞いてなぜそう思ったのか。私は少し疑いの目を向けながら奏に聞くことにしました。


「もし開けてたら心霊現象は止まったかもよ?」


「……え?」


「いい? 霞が宿泊したホテルは、昔大きな火事があって大勢の人が逃げ遅れたんだよね? それで霞はこの間、ドアを叩いたり引っ掻いたりする音を聞いた……合ってる?」


「……うん、それがどうかしたの……?」




「……逃げ遅れた人がさ、廊下側からドアを叩くのかな?」

元ネタは、出張先のホテルという話です。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 警告ありがとうございます。 昼間に読みます。
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