番外:とあるニョロ好きの追試!
「それじゃあ追試を始めるけどいいな?」
私は一人で教室の席に座っていた。今日は土曜日だというにも関わらずだ。何故かって? 英語で赤点を取ってしまったからだ。そして追試があると言われたにも関わらず、テストの見直しなんて全くしなかった。そんな私の名前は春野奏a.k.aアリス。追試がなければ今頃はフロスと一緒にアリスとしてASOをやっていたに違いない。
「先生、早く終わらせたいので早めにお願いします」
なればこそ今私がやるべきは一秒でも早く追試を終わらせることだろう。流石に先生もそこまで鬼じゃないはず、追試の合格基準が大したことにはならないだろう、という確信が私にはあった。何を隠そう英語の教科担任は私の兄なのだ。きっと基準だって精々40点くらいになると信じている。
「合格基準は80点だ。それじゃあ頑張れよ」
その言葉を聞いた瞬間、私の思考は完全に止まった。80点なんて取れるはずがない。元が10点くらいの人間にそれは酷すぎないだろうか? などと考えても無駄である。既に追試は始まったのだ。
◆
「……点数32点。お前テスト終わったあと何してたんだよ」
お兄ちゃんの呆れた声が教室に響く。自分でもびっくりだ。流石に追試でここまで低い点数を取るとは思わなかった。これでは当初の予定である40点基準での追試ですら不合格ではないか。最も、何点を取ろうが私には関係ない。こうなったら駄々をこねるだけだ。
「お兄ちゃんお願い! 今日は帰らせて……!」
必死に懇願する。しかし現実は無慈悲なもので、兄はすでに新しい追試の紙を用意していた。
「諦めろ。少し見直す時間をやるからもう一回だ」
願いは届かず、追試はまだまだ続くらしい。
「なっ……! そんなの酷いよ……鬼! この鬼いちゃんめ!」
必死に抗議をするがまるでこたえておらず、私の前には2枚目のテスト用紙が配布されていた。
「ひっ……」
もうテスト用紙にすら恐怖を覚える。この教室にあるものの中で一番怖いのは鬼と化したお兄ちゃん、そして二番目がテスト用紙だ。そしてこのトラウマは簡単に拭えるものではない。三度目のテストの点数は53点だった。
「はい、もう一回だ」
また基準に達することが出来なかった私に、もう一度プリントが配られる。
「ね、ねぇ……20点近く上げたんだよ? もう良くない?」
先ほど駄々をこねたときダメだったのはきっと帰っていい理由がなかったからだろう。そう考えて、今度は大幅な点数アップを理由にアピールしてみた。
「そうだな、いいじゃないか。単純計算あと2回で終わるぞ?」
そう笑いながらいうお兄ちゃんに私はもう諦めることにした。
「もういいわよ……」
ボソリと呟いて、テスト用紙に集中する。すると今度はどうだろう。
あ、ここ前の追試でやったところだ! ここも! ここも! と、次々と問題が解ける。それはそうだろう。全く同じ問題をやっているのだから。同じテストを4回もやり直す者はこれまででいたことがないだろう。彼女の苦手な数学でも、三回目までには必ず合格していたのだ。合格基準が平均点だった、ということもあるのだろう。
「今度こそ!」
今度は20分足らずで解き終わる。
「残念、65点」
また失敗だ。しかし、次でクリアできるかもしれない。というか次でクリアしたい。
私は意気込んで5回目のテストを開始する。
「どうだ!」
これでもか、と言うほどに大きい音が出るくらいの勢いで、机にテスト用紙を叩きつけ採点を頼む。
「……奏、お前すごいな」
聞こえたのは兄からの称賛の声、ようやく合格が、と、もはや涙まで出てきてしまった。
「79点だ!」
兄の一際大きな声が教室に響き、私は絶望した。
ちなみにこの後ちゃんとクリアしました。
◆
「かすみぃー……追試疲れた、慰めて?」
追試を終えた私は真っ先に、霞に電話をした。
《はいはい、お疲れ様。それより追試そんなに長引いたの? 13:00くらいからやってなかったっけ? 4時間近く経ってるけど》
現在時刻は17:00である。そして追試を始めたのは13:00。とてつもないほどの時間が経過していた。
「それが聞いてよー、追試の合格基準が80点でさ、結局五回とやり直すことになっちゃったの……酷くない!? 素の点数が10点近くの私に80点取れっていうんだよ!? あの鬼いちゃん許すまじ!」
《ねぇ、テスト返ってきてから追試までの間一体何してたの?》
霞の言葉に思わずギョッとする。彼女は何もやってなかったからはっきり言って自業自得なのだ。
彼女は迷った挙句、沈黙を決め込んだ。
《何もやってなかったんだね、自業自得だけど……まあお疲れ様! それより二層解放のボス、私とリーフは倒したけど奏はどする? 明日やる?》
聞き捨てならない言葉が霞の口から聞こえて、思わず私は声を上げてしまった。
「先行っちゃったの!? 待っててよ!」
《だって追試いつ終わるかわからなかったし……とにかく明日やるなら協力するけどどする?》
「明日やる!」
《オッケー、それじゃ私は課題やらなきゃいけないからまた明日ね!》
そう言って電話は切られた。この後一人で二層のボスを倒そうとして惨敗したのはまた別のお話……
本編はまだ先になりそうです。できるまではたまに番外編だったりを投稿しようかなと
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