番外:ケモナーのテスト期間!
「霞ー! ご飯だから降りてらっしゃい!」
ニスクを捕まえ、空の旅を楽しんだ霞は今、ASOからログアウトして部屋に閉じこもっていた。
「って勉強中だったの? それじゃキリがいいところまで行ったら教えてちょうだい」
彼女は勉強していた、何故ならもうすぐテストがあるからだ。霞は決して頭がいい部類ではない。むしろアホの子である。そんな彼女が今までいい点数を取れていたのは単に勉強をしていたからだろう。しかしASOを始めた今、彼女の勉強時間は確実に少なくなっていた。
故に彼女は工夫する。例えば数学だったら分からないものを本来xと置くところ、彼女はポチと置いていた。そう、もふもふの力を借りてテストでいい点を取ろうとしているのだ。はっきり言ってバカである。
◆
「霞ーっ! 勉強教えてーっ!」
何度聞いた言葉だろうか、テスト期間になると毎度毎度奏の口から飛び出る言葉だ。
「ふむ……それならば対価を要求する!」
「金120!」
即座に奏が答える。金120ーー即ち120円、安い自動販売機にてジュースが一本買える値段だ。
「……もう一声!」
「それなら……金200!」
金200ーーゴーストエナジーを一本を入手可能な値段である。ちなみにゴーストエナジーは彼女の好物だ。実質的に好物を提供されることとなった霞の決断は……
「よし乗った!」
即決であった。ちなみに彼女はおバカであるがため、いつも勉強を教えている間に約束のことを忘れてしまうが故に今まで約束が履行されたこともない。恐らくは今回も履行されることはないだろう。
◆
「それで? 何が分からないの?」
「全部」
おそらく何が分からないのかが分かっていないのだろう。奏の返答は質問を聞いたおよそ0.2秒後だった。
「テスト三日後だよ?」
「わかってるよ?」
「それじゃあ何が分からないの?」
「だから全部だって!」
2度聞いた奏のあまりに酷い惨状に霞は思わずフリーズする。
「……霞?」
しかしそのフリーズも奏の呼びかけによってすぐに解けて、現実へと引き戻された。
「……奏、諦めよう?」
霞の口から無意識のうちに飛び出てきたのは、彼女の心からの願いだった。
「そんな……! 諦めないでよっ! もう補習は嫌なの!」
諦めようと口にした霞の肩を彼女は全力で揺する。
「あなたには補習が一番いいと思うな」
それでも彼女は揺らがない。例えゴーストエナジーが飲めずとも、例えどれだけ強請られようとも彼女は動かない。動かざること山の如く彼女は動かない。補習を受けることこそが奏の為になると彼女は理解していたからだ。
「お願いよっ! 田中先生が私にだけすごい怖いの! 何故か怖い目で見てくるのよっ! 助けてよ霞さん!」
「きっとテストのたびに補習行きになるあなたに呆れてるのよ?」
「だから助けてって言ってるのよ!」
奏の懇願もまるでそこ吹く風かの如く聞き流す。
「奏、貴女は出来る子なの、私がいなくたって貴女はできるのよ、そう……先生さえいればいつかは補習回避だってできるの。頑張ってね?」
テストまで後3日という時に、分からないところが分からないとか言うような女に手を貸す気は霞全くもってにはなかった。
「もうミケはモフらせない……」
ミケとは奏が飼っている猫の名前である。霞が偉く気に入っている。
「奏! まずは数学からやろっか!」
この言葉を聞いた瞬間、霞は迅速果敢に掌を返した。
「霞ありがとね!」
ちなみにこの時の奏はすごく悪い顔をしていたらしい。
◆
「奏、あなたのゴール地点はどこ?」
残り三日で到達すべきゴール地点ギリギリにいけるようにくればおそらくミケをモフらせてくれないなどということにはならないだろう。
「田中先生の補習が嫌だから……数学赤点回避!」
とんでもなく低い目標である。よほどのことがなければ達成可能だろう。しかし霞は安堵できなかった。そもそも彼女が赤点を回避できるような学力をしていればこんな苦労はないのである。毎回補習対象となる……即ち毎回赤点なのだ。
「それじゃあまずはどこから?」
「レッツ因数分解!」
どうやら、今回のテスト範囲の最初かららしい。無駄に高い奏のテンションとは対極的に霞のテンションはどんどんと下降していった。
「……具体的にはどれ?」
「問1の(1)から!」
文字通り全部らしい。霞は再び逃げ出したくなってしまった。ちなみに、今回はミケに気を取られていたためにゴーストエナジーの約束はすでに忘れてしまっている。どうやら今回も約束が履行されることはなさそうだ。
◆
「霞やったよ! 私ついに赤点回避したよ!」
五日後、テストが返ってきて奏は歓喜した。数学の平均点58点に対し、彼女の点数は59点。まさかの赤点回避どころか平均点越えである。今回はテスト後にもかかわらずすぐさまASOに戻れそう……などとその気になっていた奏は後にその時の期待した自分を恨むことになる。
次の時間は英語だ。英語に関して、赤点ギリギリをずっと渡ってきた彼女は根拠のない自信を持っていた。今まで赤点じゃなかったんだから今回も大丈夫だと。しかし彼女は先程普段赤点である数学にて赤点を回避どころか平均点を越してしまっているのだ。
英語の点数を見た彼女は絶句した。まず見えたのは1という数字。そこで彼女は31という予想を立てた。しかしどうだろう。10の位と1の位を足したら2になった。そう、11点である。
「は……はは……11点……」
数学で点数を取ってしまったが故にこうなったのか? 世界の強制力というよくわからない力が働いたのか? 否、ただ彼女が馬鹿なのだ。また今回も彼女はASOの復帰が遅れるだろう。
余談だが、霞は全教科90点以上、数学に至っては100点という好成績を叩き出した。奏に教えたのが功を奏したのだろう。教えさせてくれてありがとう! と煽り気味に奏に言ったら本気で怒られてしまった。
キリのいいところまで進んだらまた投稿するのでしばしお待ちください。たまに番外が出てくるかもしれません