ケモナーの新ボス邂逅!3
「ねぇまだーっ?」
ダンジョン主との邂逅、未だ果たせず。歩き始めて既に1時間が経過した。しかし出口はおろか曲がり角すら見つからずただひたすらに直線が続いていた。こうなってくると流石に二人とも精神が参ってくるものだ。1時間も歩いているのにまるで進んでいる実感が湧かないのだ。実は直線では無くて巨大な円の周りをぐるぐる回っていたと言われた方がまだ納得できるほどに二人は歩き続けていた。
「んー……ここまで何もないとなると何かしらのギミックを見落としたとかかな……」
「やっぱそうだよねー……どする? 一旦戻る?」
「やっぱりもう少し続けたいな……せっかく初めて見つけたダンジョンなんだしさ、仮にダミーでももう少しだけ探したいっ! 付き合ってくれる?」
アリスのお願いをどうしたって断れないフロスには一つしか選択肢がない。もちろん彼女が示したのは肯定の意だった。
「フロス……! ありがとねっ!」
「あんたは私が断れないって分かった上で言ってるでしょ……まあいいや、それよりどうするの? このまま歩いてても仕方ない気もするけど」
「んー……そこなんだよね、どうしよう」
「案外壁に突っ込んでたら抜けれたりして」
冗談めかして、ファンタジーの小説でありがちなことを言い、壁に手をつこうとする。そして壁に触れた瞬間、体に浮遊感を覚えて気がついたらフロスは壁に埋まっていた。
「フロス!?」
いきなりフロスの上半身が消えて、下半身だけだ壁にくっついている状態となったことでアリスは驚き声を上げる。
「うそ……本当にあった!?」
長時間歩き続け、何も見つからずに諦めた瞬間に見つかった突破口。フロスは飛び起きてアリスに伝えんとする為に壁の内側へ戻ろうとした。
「アリーーいったいっ!?」
しかし戻ろうとした瞬間に弾かれる。
「足は……まだ向こう側か……一旦こっち側来ないと行けないのかな」
おそらくは一方通行だ。先程壁にぶつかったことから推察して、足も引き抜き壁の外側へと入り込む。
「アリスー! こっち来たらもう戻れないみたい! 早くこっち来てっ!」
そして内側からアリスへと声をかける。聞こえていたらよし、仮に聞こえていないとしてもアリスならばすぐに状況を理解してこちら側へと来るだろう。
「っと! フロス! すごいびっくりしたんだけど!?」
「私もびっくりしたよ……まあ、何はともあれ無限地獄突破っ!」
二人はまだボスを倒したわけでも、ボスに邂逅したわけでもないのに大きく歓声をあげる。
「フロス! あれ見て!」
何かを見つけたアリスが心から喜び興奮する。アリスが見つけたのは分かれ道だ。ただの分かれ道ではない。散々一本道を歩かされてる間、ただひたすらに望んだ分かれ道なのだ。
「フロス……私なんか涙出てきちゃった……感覚が狂ったのかな……」
「アリス、私もだから……安心して」
念願の分かれ道に感極まってしまった二人は涙を流しながら待望の場所へと向かっていく。
「次はどっち行くの?」
分かれ道までたどり着いた時に、特に何も考えずに放ったフロスのこの一言で二人の空気が少し張り詰めた。
「せーの」
「「みぎ!」」
フロスは左を、そしてアリスは右を選択した。先程と同じ構図だ。
「さっきの私の話聞いてた!? 左を選びやすいんだよ? そしたら右行くしかないでしょっ!」
「左の法則を知ってると踏んでその上で右を選ぶってことを予測してるかもしれないじゃん! 何よりやっぱり左じゃないと落ち着かないっ!」
ここでもまた争うらしい。二人は互いに睨み合い、そしてお互いに拳を差し出す。
「こうなったら……」
「「じゃんけんだっ!」」
二人は勝負の方法にじゃんけんを選択した。最も平等で平和的かつ効率的な素晴らしい決め方だろう。
「「さいしょはぐー! じゃんけんぽんっ!」」
「よっしゃ! やっぱり私が勝つ運命だったのよ!」
この瞬間、二人の進路は右へと決定されたのだった。
投稿頻度安定しなくて申し訳ない……