ケモナーの失敗!
「うげっ!」
「おはようございます。なんで遅れたんですか?」
霞は今日、珍しく遅刻して来た。
「いや、まー、なんていうんですか? 私ってほら、一日の生活パターンはきちんと決まってるタイプなんですよ?こう見えても。何時に起きて何時にご飯食べて歯を磨いて寝る……みたいな感じで? だから私ってばいつも無遅刻無欠席なわけですよ。ほんと自分の体内時計の正確さっぷりに思わず感心しちゃいそうですよ……だけどそのー……昨日は込み入った事情があり……夜更かしをしてしまったんですよね? もう私の生活リズムが乱れちゃって……それで私の体内時計が今日は狂っちゃったんですよ。つまりその……」
「長い! もっと簡潔に話してください」
「はい……寝坊しました」
「寝坊って貴方……もうニ時ですよ!? 午後の! 寝坊とかいう次元じゃないでしょ……」
先生は呆れて首を横に振る。
「はぁ……座りなさい、授業を続けます」
「はい……すいません……」
霞は低い姿勢のまま席についた。
「霞どしたの?寝坊なんて珍しいじゃん」
席について早々、霞は奏に寝坊のことを聞かれる。
「昨日夜更かししちゃって……」
「そりゃまたなんで? ……ああ、女子高生だもんね。ヤることヤってたんだ?」
「いやシてないよ!?」
奏は霞の深く切られた爪を見て納得する。
「それじゃなんで夜更かしなんて?」
「いやー……ずっとレベリングしてたらいつの間にやら朝の5時で……2時間だけ寝ようと思ったんだ? それで確かに2時間で起きたんだよ? でも……まさか二度寝の方が長くなっちゃうなんてびっくりだよね……」
「なんだ、自業自得じゃん。馬鹿なの?」
「あ! 馬鹿って言った!」
「清水さん、少し静かにして下さい」
再び二人で……否、今度は霞だけが注意される。
「あ、すいません……」
「遅刻に授業妨害……と、すごいですね、成績のフリーフォール」
「そんな!? 勘弁してくださいよ!」
「……次はないですよ」
その言葉を聞いた瞬間、霞は全力で自分の口に蓋をする。本来は喋らなければいいだけなのだが……何故か彼女はずっと息を止めていた。
◆
「ぷはぁっ!」
「うわっ!? 何!?」
終了のチャイムが鳴り終わると同時に霞は大きく息を吸う。
「はぁ……はぁ……死ぬかと思った……!」
「もしかしてあれからずっと息止めてたの!?」
「成績のフリーフォールは勘弁だからね!」
「25分くらいあったよ……? ずっと止めてたの?」
「もちろん!」
「やっぱりあんたアホ! 馬鹿!」
「また馬鹿って言った! 馬鹿って言った方が馬鹿なんでやんす!」
罵って来た奏に霞は精神年齢を下げてダメージを回避する。
「あ、そうだ。ノート見せてもらえない?」
思い出したように霞は奏に頼み込む。
「別に構わないけど……授業が別のやつはどうするの?」
「あー……それは……誰かに頼む! とりあえず同じところだけ写させて!」
「おっけー! 次は気をつけなよ?」
そう言って差し出されたノートを超速で写す。
「ありがと! ……誰に見せてもらおう……」
「それなら森下あたりがいいんじゃない? 授業被ってるし、あいつなら多分見せてくれるでしょ」
「えー……私あんまり話してことないよ?」
普段あまり話さない人の名前を出されて、霞は少し驚く。
「いいからいいから! 言って来な!」
そんな霞を奏はニヤニヤしながら送り出した。
◆
「あの……森下くん! その……私今日遅刻しちゃったじゃん? だから……ノート見せて欲しいんだけど……ダメ?」
「え? あ、し、清水さん!?」
霞が自分に話しかけていると気がついた森下は一気に赤面する。
「どしたの?」
「い、いや……なんでもないよ……それよりノートだっけ? 僕のでよければいいよ?」
「ほんと!? ありがとう!」
お礼をいい、ノートの写真を撮らせてもらう。
「それじゃまた明日ね! バイバイ!」
そう言って元気に奏の方へと戻っていった。
◆
「あ、霞写させてもらえた?」
「うん! 森下くんすごい優しいんだね! 初めて知った!」
霞の中で森下は『優しい人』認定されてしまった。




