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【第04話】ロリ&ショタなドワーフ集団

 

「ヴォフ、ヴォフ……」

「うーん……ん? どうした、クロ」

 

 寝ぼけ眼を開くと、黒い体毛に覆われた犬顔が俺を覗き込んでるのに気づく。

 内側からユキが扉を開いたのか、まだ薄暗い陽光が部屋の中に入っていた。

 

「ヴォフ、ヴォフ」

「……え? 人?」

「うーん……。やぁだ……」

 

 半身を起こそうとしたが、咄嗟とっさにシオリの手が俺の肩口を掴んだため、身動きがとれなくなった。

 転生前と同じくらいの年数を、こちらで孤独な生活をした反動だろうか。

 寝てる時に人肌の温もりが離れようとすると、無意識のうちに安心できる誰かを掴む癖ができたらしいけど……。

 昨晩も激しく攻めてしまったせいか、寝ぼけた彼女が掴んだ肩口のすぐ傍に、シオリの指先とピッタリな深い爪跡のアザが、俺の肌から消えずに残っている。


「どうした、ユウト。何かあったのか?」

 

 シオリの背中から腕を回して、抱き枕にしていたユリコが半身を起こす。

 さすが警戒心の強い元女騎士と言うか、寝ていても有事への反応が早い。

 

「こんな朝早くから、山のふもとに人が集まってるみたいだ……。ユキが展望台に行ったらしいけど。山賊というよりは、ドワーフっぽい」

「ドワーフ?」

「うん。しかも、すごい数らしい」

「んー……なぁに? どしたの……」

 

 川の字になって真ん中で寝ていたシオリが、ムニャムニャと寝言混じりの呟きを漏らす。

 夜が明け始めたばかりの薄暗さだから、まだ朝の四時から五時あたりだろうか?

 

 最寄りの町を出てから数日ぶりに、気が休まる安全なところで眠れたせいもあって、夜は羽目はめを外しちゃったからな。

 子供を欲しがる新妻と、同性でも問題無い心はオスのメス狼と、性欲旺盛な若いオス狼が屋根の下で一晩過ごせば、何も起きないはずがなく……。

 睡眠不足な新妻の頬にユリコがキスをした後、シーツをめくり上げた。

 

「ちょっと外を見て来よう」

 

 床に落ちた下着を拾い、ユリコがカボチャパンツを履く。

 肩まで届く長い黒髪を束ね、ポニーテールに結ぶための紐を探している。

 

「バフ! バフ!」

 

 人影ならぬ、犬影が部屋の入口から尻尾を振りながら入って来る。

 眠れるお姫様の寝言が聞こえたのか、目を閉じたまま半分夢の中にいる名付け親の顔元へ、白色の体毛に黒の模様が混じった犬人コボルトが近付いた。

 

「んやっ。ちょっ、んん? カウなの? こらっ」

 

 寝ぼけて俺の肩口を掴んでた手を離し、シオリが素早くシーツを頭から被った。

 しかしカウも目敏めざとくシーツの隙間を見つけては、犬頭を突っ込んでシーツの中でシオリの顔をペロペロと舐めようとする。

 

「もう、やーだ。あと五分……。キャッ。かーうっ」

「バフ! バフ!」

「先行くぞ」

「うん。俺もすぐ行く」

 

 手早く着替えを終えたユリコが、枕元に置いてた剣を握り締めて足早に家を出た。

 シーツの中でシオリ達がじゃれ合ってる間に、俺も外出できる恰好に着替える。

 

「もしかしたら、お客さんが上がって来るかもしれない。もう少し寝るなら、扉を閉めてカウと一緒にいてくれ」

「え? こんな朝早くに? ふぁ~」

 

 欠伸をかみ潰しながら、ちょっとだけ目の覚めたシオリがストレッチみたく両腕を伸ばす。

 眠たげな目を擦りながら、床に散らばる自分の衣服を探し始めた。

 

「……あれ? ちょっと、ユリコ……もう。また間違って、私の下着を履いたのね?」

 

 ユリコの性癖的に、本当に間違って履いたかは怪しいところですがね……。

 ぶつくさと文句を言うシオリから視線を外し、帯剣ベルトをタスキ掛けに巻いて、ショートソードを背負った犬人コボルトのクロと目を合わせる。


「行くぞ」

「ヴォフ!」


 四肢を使って家の外へ駆け出した、クロの背中を追いかけた。

 犬人コボルトのユキに場所を譲ってもらったユリコが、回転望遠鏡で山の麓を覗いてる。

 とりあえず柵越しに顔を覗かせて、目視で確認してみた。

 

 うわー……なんだこれ?

 山の麓から道に沿って何十台もの荷馬車が並んでおり、大渋滞になっている。

 木が生えて無い広い場所では、勝手にテントらしき物を設営してる者もいた。

 もしかして夜が明ける前から登り始めたのか、松明らしき物を手に持って坂道の半分過ぎを歩いてる集団がいる。

 

「ただのドワーフではないな……。たぶん、業者だ」

「……業者?」

「私達だけで、家を建てれるわけがないだろ……。転移門ゲートを管理できる魔導士が見つかったのなら、やりかけだった工事も再会するはずだ。王都でシオリと生活用品を買い足してる時に、止まってた開拓村の仕事がそろそろ始まるって話を、買い物客のドワーフ達がしてたからな……」

「へー」


 俺の隣に立ったユリコも転落防止柵から下を覗き込み、遠目からは子供にしか見えない十名ほどの集団を一緒に眺めた。

 

 

 

 

 

   *   *   *

 

 

 

 

 

 靴も履かず山道を裸足でペタペタと歩き、小学生くらいの小っちゃな集団が頂上まで登って来た。

 先頭にいる目力の強い少女を除いて、皆が両腕で抱える程の小酒樽を背負っており、最後尾にいるドワーフに至っては子供一人が入りそうな酒樽を、汗だくになりながら背負っている。

 大の酒好きとよく噂で聞くけど、さすがに中身は入って無いよな?

 

「ユウト。分かってると思うが、身長とひたいの石のことは」

「大丈夫。聖教国の辺境都市に住んでた時も、教会や酒場でお喋りしたことはあるから」

 

 俺よりも聖教国外に詳しいユリコに耳打ちされたので、ドワーフに関わる宗教問題はちゃんと把握してることを伝える。

 見た目は子供に見えるが一般男性よりも力持ちで、三度の飯よりも酒好きな彼らは小さな魔石を額に宿し、ノーム教を強く信仰している種族なのは、宗教関係にうるさい職場の上司にも聞かされた。

 先祖が土の大精霊(ノーム)様から創造されたと言い伝えられ、産まれた時に骨の一部として同化した額の魔石があるのは、その証拠だと信じて疑わない種族だ。


 陽の光や見る角度で色が変化するトパーズ色の不思議な額石は、ドワーフを知らぬ者には子供が可愛らしいオシャレをしてるようにも見えるが。

 アクセサリーのたぐいかと馬鹿にして、子供は遊びに来るなと絡んだ無知な酔っ払いが、酒樽に詰め込まれて店から放り投げられたとか、笑えるようで笑えない話が街の酒場でよく遭ったからな……。

 

「はぁー、やっとついたよ……。王都の総合組合ギルドで、新しい魔導士が来たって聞いたけどさ。もしかして兄ちゃん達が、そうかい?」

「魔導士は彼です」

「この開拓村で、転移門ゲートを管理する予定のユウトです」

「おう。アタイは魔道路の開発を担当する、現場監督のロロだ。宜しくな、兄ちゃんと姉ちゃん」


 握手を交わし、互いの自己紹介をする。

 腰に手を当てて俺を見上げる小っちゃい現場監督さんは、やっぱり小学生くらいの少女にしか見えない。

 拳サイズの団子を並べた三つ編みが、茶髪頭の左右から横に伸びている。

 

「親方、この酒はどうすんですか?」

「ん? 飲む」


 ……え?

 両腕で抱えるサイズの小酒樽を受けとったロリ、いやロロ親方が迷いなく上蓋を開けた。

 両手で持ち上げた小酒樽を傾けて、ゴクゴクと喉を鳴らして勢いよく飲み始める。


「ぷはーっ。朝から山登りなんてさせやがって、喉がカラカラだぜ。ほらよ、お前らも飲んどけ。とりあえず、仕事を始める前の一杯だ」

 

 男みたいに手の甲で口元を拭ったロロ親方の飲みかけ小酒樽を、一緒に来た小っちゃいドワーフ達も回し飲みしている。

 仕事を始める前に、酒を呑むんかい……。

 まあ仕事中じゃなければ……良いのだろうか?

 

「ヤズ。計画書を出せ」

「けーかくしょ?」

「紙束を持って来いつっただろうが……」

「ああ、ありますよ。親方」

 

 肩に提げた布袋に手を突っ込み、部下らしきドワーフが紙束を取り出した。

 

「アタイじゃねぇよ。魔導士の兄ちゃんに渡せ」

「へい」

「どうも……」

 

 村を開拓するための計画書らしいが、ページを捲ろうとした俺の手が止まる。

 酔っ払いが書いたレベルのヘニョヘニョ文字で、『けーかくしょ めもめーも』と書かれた表紙が目に入ったからだ。

 

「大きな工事の場合、複数の業者から入札で担当を決めてるはずだが……」

 

 俺と同じ不安を覚えたのか、隣りから顔を覗かせたユリコが耳元でボソリと呟く。

 とりあえず、書類の一ページ目を捲った。

 

『山の上? やだ』

 

 えっと……。

 嫌だ(やだ)って、言われましてもね……。

 他は『せんむのハゲ』とか上司への悪口が書かれてるだけで、何も書かれていない。


 濡れたのを乾かしたような跡がある。

 まさか……酒をこぼした跡じゃないよな?

 俺のイメージした計画書と違うなと首を傾げながら、紙をパラリと捲る。


『お酒いっぱい? お酒だいすき』


 そっか……。

 大好きなんだ、良かったね……。

 ドワーフはお酒好きで有名だもんね。

 それ以外は、幼児以下の読めない文字しか見当たらなかったので、俺は恐る恐るページを捲った。

 

『酒樽一万個以上? ちょっと考える』

 

 おお……。

 報酬に大量のお酒が絡んだ瞬間、急に文字が別人みたく綺麗になった。

 このメモを書いた人物の心境に変化があったらしく、文字だけでそれが分かってしまう。

 

 ていうか一万個以上あったら、ちょっと考えてくれるのか……。

 つまり、どういう基準なの?

 それがドワーフ業界では常識なの?

 次のページを捲ろうとしたら、へのへのもへじみたいなラクガキがチラリと見えた。

 

「これは酷いな……」

 

 俺と同じ心境なのか、ユリコが心の声を代弁してくれた。

 なにも理解できなかったので、最初のページをもう一度開き直して、確認のために親方へ見せる。

 

「あの、ロロさん……」

「あん? どうした? ……げぇっ!? なんじゃこりゃあ? これって……専務と飲み行った時のラクガキじゃねぇかよ! おい、ヤズ。専務の計画書を持って来いつっただろうが。なんでアタイの袋を持ってきてんだよ!」

「ええ……。いや、親方が紙束持って来い言うから。てっきり親方の袋かと思って……」

 

 どうやら現場内での意思疎通が、できてなかっただけらしい。

 でも良かったよ、本物の計画書じゃなくて飲みの席で書いたラクガキメモで……。

 最期に捲ろうとしたページにはゲロを吐いた跡みたいなのもあって、そっ閉じしたからね。

 こんな人達に任せて大丈夫なのかと、本気で頭抱えそうになりましたよ。

 

「ったく。専務を下に置いてくんじゃなかったぜ。おい、ちょっと水樽貸せ。計画書を取りに行って来る」

 

 身体を丸めたら子供が入るサイズの一番大きな水樽は中身が空らしく、横に倒して蓋を開けたロロ親方が中に入ろうとする。

 

「親方、本気でやるんスか?」

「おう。アタイが中に入るから、上から転がして落とせ。それが一番早い。ついでに、下の奴らに指示出してくる。何回も登って降りるのもめんどくせぇから、上で泊まる用の酒も多めに持って来させるぞ」

 

 なんという脳筋思考……。

 蛇のように曲がりくねった長い下り坂をまともに歩けば、たしかに時間は掛かるかもしれないが。

 時間短縮の直線最短距離をルート選択するのに、そこまでやりますか……。

 

「そんな危ないことしなくても。さっき空けた酒樽にメモ紙を挟んで、転がした方が良いのでは?」

「……おー」


 腕を組みながら静観していたユリコの提案に、皆が声を揃えて納得した顔をする。


「姉ちゃん、あたま良いな! うちの専務に採用してやるぜ!」

「それは遠慮しておきます」

「ガハハハッ! そりゃ残念だ。おい、ヤズ。ペン出せ」

「へい、親方」

 

 ……この人達に任せて、ホントに大丈夫かなー?

 これから仕事をお願いするドワーフ集団に、一抹の不安を覚えた。


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