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【第03話】水の幼精霊と、あの日の新妻と愛人!?

 

「本当に、枯れてるわね……」

 

 前にかがんだシオリが噴水を覗き込みながら、悲しそうな顔で呟く。

 地下へ続く階段を降りた先にある地下広間は、閑散かんさんとしていた。

 噴水までは頑張って造ったようだが、足場や壁のタイル舗装などはどこも中途半端な状態で、まるで業者が夜逃げした後みたいな酷いありさまだ。

 溜まった水が溢れ出ないよう造られた、噴水の塀にシオリが腰を下ろす。

 

「初めまして、水の精霊様。私はシオリと申します……。今日からシスターとして、こちらでお世話になります。もし宜しければ、お顔を見せて頂けませんか?」

 

 枯れ果てた噴水の底を、シオリが無言でじっと見ている。

 噴水は一切機能してないので水は湧き出てないはずだが、底の一部だけが不思議と湿っていた。

 湿り気を帯びて黒くなった部分から、ニュッと小さな半透明の頭が顔を出す。

 見知らぬ人が見たらお化けが出たと腰を抜かしそうだが、シオリは嬉しそうに微笑んだ。

 

「水の精霊様、井戸の水が枯れてるそうです。何かご存じありませんか?」

 

 上半身だけを底から出した、小さな幼女が両頬をぷっくりと膨らました。


「もしかして、何かお困りでしょうか?」


 聖教国で精霊は必要不可欠な存在であり、聖なるモノの象徴だ。

 小さな幼精霊相手でも、敬う態度を隠さず優しく差し伸べたシオリの手を、怒ってますの表情を維持したまま無言で見つめている。

 青い半透明の小っちゃな手を伸ばし、シオリの指先を触ったり撫でたりした後、再び吸い込まれるように底へ消えてしまった。

 

「どうだった?」

「長い間、山の管理が放置されたままだから、周りの魔力に邪気が混じって不快に感じてるみたいね。それを何とかして欲しいそうよ」

「了解……。あっ」

 

 シオリが幼精霊の声を聞いてあげたからか、噴水からチョロチョロと水が出始めた。

 

「精霊石がこの中にあるみたいだけど、綺麗な魔力が流れて来ないから。上手く水も出せないみたいよ」

「なるほど……。すぐに取り掛かった方が良さそうだな」

 

 従魔の犬人コボルト達がみんな上がってきたら、次は水の精霊問題を解決しないといけないわけか。

 コツコツと地下階段を降りて来る靴音が聞こえ、老シスターが顔を出した。

 

「爺さんや、水は出たんかいの?」

「出たよ、婆さん」


 椅子に腰かけて、俺達のやり取りを静かに見ていた老魔導士が答える。


「そうかい、ありがとうね……。ああ、シオリさんや。空き家がホコリまみれでね。ちょっと掃除を手伝って欲しいんだけど……」

「はい、大丈夫ですよ。お手伝いします」


 スカートについた汚れを手で叩き落とすと、老シスターの後をシオリがついて行く。

 シオリ達の背中を見送った後、壁に背を預けて腕を組んで静観していたユリコが、こちらに歩み寄って来た。


「お若いの、聞きたいことがある……。ここに来る前は、どんな仕事をしておったのじゃ?」

 

 先程までの飄々(ひょうひょう)とした爺さんとは違い、真剣な眼差しでフラングさんが俺達に尋ねる。

 

「私は聖教国で、聖女候補が修行を積む聖修道院を警護するため、騎士として務めてました」

「俺も聖教国で、司祭達を守る神官をやってました……」

「聖教国の騎士殿に、神官殿かね……。若いのに、立派な仕事をしておったのう……。精霊様と話ができるお嬢ちゃんも、ただのシスターでは無いのじゃろ? うちの婆さんも長いことシスターをやっとるが、あんな大それたことはできんでの……」

「はい……。ただ彼女は、聖女になる直前でトラブルに遭いまして、聖女候補を辞退した者です……。その、辞めた理由は」

「言わんでよい。ワシに、他人の過去を詮索する気はないぞ」

 

 言葉を選ぼうとしたユリコを遮り、フラングさんが首を横に振る。

 

「正直、悩んでおったのじゃが……。君達になら、息子の後を継いでもらっても、良いかもしれんの……」


 肩を落として溜め息を一度吐き、フラングさんが目を閉じる。


「差し出がましいことを聞くかもしれませんが。前任者が亡くなった理由を、聞いても良いですか?」

 

 しばしの沈黙が流れた後、フラングさん閉じていた目を開けた。

 

「ワシも詳細は分からぬ……。分かってることは、息子が何かしらのトラブルに巻き込まれて亡くなったことだけじゃ……。山を降りてから数日ほど見ないと思ったら、山のふもとで死体になって倒れてたのを見つけての……。おそらくじゃが、ここの開発でお偉いさん同士のゴタゴタに巻き込まれたんだろうと、ワシは勝手に思っておるが……」

 

 お偉いさんということは、貴族絡みかな?

 この辺りは辺境伯が領地を任されてるはずだが、殺人事件が起きたのに詳細は親族も分からずとは、少しキナ臭そうだな……。

 まあ雲の上に住む連中の考えなんて、俺達みたいな平民如きは一生分からんと思うけど……。

 

「息子から教えられた転移門ゲートの知識を伝える前に、お若いのに頼みたいことがある……」

「なんでしょうか?」

「若い子の死を、もう見とうもない……。息子は少しばかり、金が絡むことに首を突っ込みたがる性格があってな。余計なことに、首を突っ込んだのじゃと思う……。平民如きが、貴族に手を出すのだけは絶対に止めなされよ……」

「御忠告ありがとうございます、フラングさん。ですが我々も、少しばかり貴族には伝手がありますので、相手は慎重に選ぶつもりです……。ああ、それと。是非とも、この村には立派な聖教会を建てたいと思うのですが、宜しいでしょうか?」

 

 一般的な教会ではなく、聖教国の流れを汲む聖教会を建てたいと言うユリコの申し出に、フラングさんが少し考えた後に薄い笑みを浮かべる。

 

「お主らのすきにしたら、ええじゃろう……。むしろその方が、息子の時よりは上手くいくかもしれんの……。魔導士としての才能があっても、個人では逆らえぬ大きな流れがある……。うん、うん。それがええ、それがええ」

 

 息子さんを思い出してか少しばかり寂し気な顔を見せながらも、老魔導士が何度も頷いた。

 

 

 

 

 

   *   *   *

 

 

 

 

 

『ユウト、これで最期ワン!』

「うん。ありがとう、ユキ。そこに置いてくれ」

 

 白色の犬人コボルトと、白色の体毛に黒い模様が混ざった子がヨイショヨイショと二人で運んで来た木箱を部屋の隅に置く。

 あの長い急坂道を運んで頂いて、ホントお疲れ様です。


「みんなに、礼を言っといてくれよ。そのうち引っ越し祝いも兼ねて、御褒美も用意するからな」

『骨付き肉が良いワン!』

「うん、分かった。すぐは無理かもだけど」

「バフ! バフ!」

 

 ユキと一緒に来た犬人コボルトが御褒美を想像したのか、犬口をしきりに舌でベロベロと舐め回しながら、嬉しそうに吠える。

 それにしてもさ……。

 山の上に村を作ろうなんて、上の連中は何を考えてるんだろうね?

 せめて隣村までの転移門ゲートをなるべく早く繋げてあげないと、これからの生活が相当に大変だぞ……。

 前の業者が土地開発を中断した経緯は分からないけど、あの急坂道を往復する仕事が無くなって逆にホッとしてるんじゃないかな?

 

「うおっ、ビックリした……」

 

 ユキ以外の視線に気づいてそちらを見たら、半透明の青い上半身だけを壁から出して、幼女の姿をした幼精霊が俺の方をじっと見ていた。

 湿り気を帯びた壁の黒い染みから顔を出した水の幼精霊が、野菜の入った箱の中を一通り覗いた後に、無言で壁の中へ消えていく。

 

「なにをしてたんだ……。ん?」

 

 運んで来た食品が気になったのかと考えていたら、部屋の室温が少し下がり、急に涼しくなった気がする。

 一年も放置され、荒れ放題になった地表の雑草むしりを犬人コボルト達とやって、土地の邪気が減るよう魔力管理を始めた御礼なのかな?

 水の幼精霊が担当するエリアを広げてくれたから、本来の野菜室としての機能が復活したみたいだ。

 仮にも聖女になりかけた元聖女候補のシオリが、その土地に居座るだけでも邪気の貯まり具合が激減するし、できるだけ長く居てくれと願う、水の幼精霊からの意思表示かもしれんな……。

 

「ユウト。野菜は全部、届いたか?」

「おう、届いたぞ」

 

 エプロンを着たユリコが、地下に繋がる階段を降りて来て、食品用の貯蔵室に顔を出す。

 黙ってれば料理もできる黒髪美人なのにもったいないですなと思いながら、幼馴染の姿を見つめる。

 

「部屋の掃除は終わったのか?」

「ああ、終わった。ジャガイモはどこだ?」

「こっちにあるよ」


 箱を一つ一つ覗いて、ユリコが晩御飯に必要な食材を腕に抱える。

 部屋を出て行こうとしたタイミングで、足を止めたユリコが振り返った。


「シオリが料理を、裸エプロンで作ってるぞ」

「え、まじで!?」

「……嘘だ」

 

 ……ちくしょうめッ!

 男心を弄びやがって、絶対に許さないぞ。

 期待を爆上げしといて、速攻で崖から突き落とす悪魔女を睨みつけた。

 

「火を起こしたいから、薪を用意してくれ」

「へいへい……」


 テンションだだ下がり状態で、別の部屋に置いてた薪を拾う。

 まあ、うちの嫁は美人シスターですから良いもんねと、よく分からない言い訳を心の中で呟きながら地下階段を登る。


「あら? お帰りなさいませ、御主人様」

「え? え?」


 予想してなかった出迎えに、驚きで腕に抱えてた薪を落としそうになった。


「あれ? 台詞間違ってる? そう言ったらユウトが喜ぶって、ユリコが教えてくれたから……」

「いや……衣装的には、間違ってないけど……」

 

 俺が地下で荷物整理している間に着替えたのか、初めて見る服装のシオリを上から下へマジマジと眺めた。

 裸は無理でもエプロンぐらいはと期待していたが、金髪碧眼のハーフ系モデル美女による、まさかの斜め上なメイド姿に目を丸くする。

 黒地のワンピースに、白色のフリル付きの前掛けを組み合わせたクラシックスタイルだけど、十分に可愛らしい。

 

「なんか、よく分かんないけど。ユリコが引っ越し祝いだって、買ってくれたのよ……。サイズぴったりだし、いつの間に計ったのかしらね?」

 

 まな板に野菜をのせて包丁でトントンと、リズムよく切っていた手を止めたユリコが、俺に向かって無言で親指を立てる。

 親友の謎の行動力に呆れた顔をしたシオリが、モデル仕込みの素晴らしい芸術的なターンで、クルリと回って背を向けた。

 メイド服を着た新妻の動きに合わせて、フワリとスカートの裾が舞い上がる。

 ニヤニヤと笑うユリコに向かって、俺も満面の笑みで親指を立てた。

 

 グッショブだ、我が最高の悪友よ(ベストフレンド)

 さすが女でありながら男心も分かる幼馴染は、良い選択チョイスをするな……。

 夜も献身的なシスターも大好きだが、メイドさんによる夜の御奉仕も大好物だぜ!

 スケベな御主人様が、いっぱい命令しちゃうぞっ。

 

「ユウトの顔を見て、ホント男ってバカよねって言おうとしたけど。コレをプレゼントしてきたのが女親友ユリコだから、すっごく複雑な気分だわ……」

 

 夜をメチャクチャ楽しみにする俺と、女親友ユリコの満足気な笑みを交互に見たシオリが、何とも言えない顔で苦笑した。

 

 

 

 

 

   *   *   *

 

 

 

 

 

「わー。王都の街路も眺めるし……。景色も綺麗で……素敵ね。こういう景色、わたし好きよ……」

 

 開けた窓から夜の王都を二人で眺めてると、俺の横に立つシオリが目を細めて、嬉しそうに口元を緩ませる。

 ほんのりと頬を赤らめたシオリが、ニマニマとからかうような笑みを浮かべ、俺を上目づかいで覗き込む。


「高かったんじゃない?」

「え? いや、うん……でも。一生の思い出になるから……」


 値段の話や、実はユリコが選んだホテルですとか、喉元まで出掛けた言葉を寸前で飲み込む。

 良い感じの空気ムードが壊れることは絶対に言うなと、幼馴染の悪友からキツく言われてたのを思い出して、ユリコから事前に教わった言葉に慌てて言い換えたけど……。

 

「ユウト……」


 絶対に出そうも無い洒落た言葉が、俺の口から出たのが予想外だったのだろうか。

 少し間を空けて、感極まったように青い瞳を潤ませたシオリが、俺に胸元を寄せて強くギュッと腕を組んだ。

 

「サプライズの結婚式も、すごくビックリしたけど……。事情が事情だし、誰かに祝福されての結婚式は無理かなって諦めてたから。本物の司祭様も呼んでくれて、すっごく嬉しかったわー。本当に、ありがとうね……。一生の思い出にするわ。ふふふ」

 

 うおー。

 まじか……。

 サプライズって、ここまで効果があるのか……。

 新婚の初夜なんだし、私も少し出してやるからちょっと頑張れと言ってた、ユリコ様を信じて良かった!


 普通に生きてたら絶対に結婚できないレベルの美人シスターが、俺の肩口へ甘えるように頭をのせて、うっとりした表情で王都の夜景を楽しでくれる状況に、心の中でガッツポーズをする。

 半ばヤケクソでヤッちゃったあの日から、一月ぶりの再会で最初はぎこちなかった関係も、ユリコと計画していたサプライズ結婚式あたりから、どんどん距離が縮まっているのが目に見えて実感できる。

 まるでファンタジー系のラノベに登場する、女にモテモテの主人公になった気分だ……。


 聖教国の辺境都市がよく見える、ユリコおすすめの景色が良い丘の上で。

 通りがかった司祭様による教会の無い青空の下、数人の立会人に見守られながらささやかな結婚式しかできなかったけど……。

 モデルを目指してた女性だから、豪華な披露宴でもしなきゃ怒られるかと余計な心配をしたが。

 偶然をよそおった仕込みがすぐにバレても、「なんか、恋愛ドラマのワンシーンみたいね」とすごく喜んでくれたのは嬉しかったな。


 快く協力してくれた職場の司祭様と師匠達には、本当に感謝しかない。

 俺の事情を知った上で、俺が国を去るのを残念そうにしてたのは申し訳なかったけど……。


「窓を閉めるわね」

「うん……」


 いよいよかと緊張しながら手を腰に回しても、彼女は嫌がるそぶりを全く見せず。

 むしろシオリの方から俺に密着して、ベッドの前まで一緒に来てくれた。

 さて、問題はここからでして……。

 

 二人以上は余裕で寝れるベッドに、なぜかユリコが普通に座っていた。

 国外のことはよく分からないから、王都にあるホテルの予約をとってくれたのはユリコだけど……。

 後で事情は話すからと、何かを知ってる様子のシオリに言い含められて、ここまで黙っていたが。

 俺の腕の中から解放されたシオリが、無言で俯いてるユリコの手を取って立ち上がらせた。

 

「ユウトには、私のわがままで結婚してもらったんだけど……。もう一つ、私達のわがままを言っても良い?」

  

 ポニーテールに束ねていた後ろ髪を解き、長い黒髪を肩に垂らしたユリコが、自信満々で男らしい普段の態度とは違い、しおらしく顔を俯かせている。

  

「ほら、ユリコ」

 

 背中に手を回したシオリに押される形で、しばらく沈黙していたユリコが、意を決した顔で口を開いた。

  

「私を……ユウトの愛人として、加えてくれないか?」

「……え?」

「ごめんね、変なお願いをして……。でも、これが私とユリコが、お互いが納得できる妥協点なの……。ユリコには十回以上告白されたけど、私は同性のユリコを異性のようには見れないから、ずっと断っていたの……。でもね。このままだとユリコが、勝手に私達の前からいなくなって、旅に出ちゃいそうだったから」

「……旅?」


 その話は、初耳だぞ。


「ああ、そうだ……。黙っていたが……。新しい場所で生活が安定して、私がいなくても問題無くなったら。二人に黙って、師匠と旅に出るつもりだった……。でも、シオリにはバレてたみたいでな」

「あなたと親友を、何年やってると思ってるの? そんなの分かるわよ……。でもね。私はユリコと一生会えなくなるなんて嫌よ?」

「私も、本当は嫌だ……」

「私のこと、今も好き?」

「好きだ……。正直シオリが、ユウトを選んだのが悔しくてたまらない……。どうして、私は男として産まれなかったんだろうって、数えきれないくらい自問自答して、いっぱい悩んださ……」

「うん……。でもね、聞いてユリコ……。たぶんユリコが男だったとしても、私はユウトを選んでると思う……。ユリコはとっても頼りになるし、傍にいてくれるだけで安心するわ……でもね」

「分かってる……。だから私は、シオリが好きになりそうなユウトを、あの場所に連れて行った……」


 初めて聞かされた、彼女の秘めていた悔しさが分かるくらいに、ユリコが両手を強くギュッと握り締めた。


「俺は別に、問題ないけど」

「……え? 本当に? 良いの?」

「うん」


 すごく意外そうな顔で、シオリが何度も俺に尋ねる。

 いやいや駄目だなんて、とんでもない。

 性格的には俺よりも男っぽいところはあるけど、ユリコは黙ってれば美人なんだし。

 出るとこは出て、スタイルも良いし。

 むしろ断る理由が見つからないよ。

 

「だから言っただろう。ユウトなら、即答するって」

「なんでそんなむくれた顔してるのよ。ユウトからオッケーもらえて、良かったんじゃないの?」

 

 了承を貰えたのに、口を尖らせて不満そうな顔をするユリコ。

 

「ユウトが、私の女を寝取ったから……」

「ねとった? なにそれ?」

 

 寝取るも何も、付き合ってすらないだろうが……。

 まあ、言いたいことは分かるよ。

 

 ていうか俺、もしかして……。

 嫁だけじゃなく、嫁公認の愛人もゲットしちゃいました?

 女性らしく黒髪を垂らして、いつもと雰囲気が異なるしおらしい女の顔をしたユリコが、俺の耳元に顔を近づける。

 

「ベッドまで持ち込めば、こっちのものだ。必ず寝取ってやるからな」


 新婚初夜の旦那に、いきなり寝取り宣言をしないでもらえますかね?

 急に元気を取り戻したユリコが、ニヤリと悪い笑みを浮かべた。

 

「ユウト、くっころしたいか?」

「……え?」

「私は正真正銘、本物の女騎士だぞ……。今は聖女候補を守れなくて、首にされた元女騎士だがな」

 

 この女……。

 自分の肩書を分かった上で、それを自分から提案するのか?

 

「ただし、条件がある。あとでいいから、シオリと二人っきりにさせてくれ……」


 俺の耳をユリコが唇でついばみ、普段のユリコなら死んでも絶対しないであろう、娼婦みたいな甘噛みをしながら耳元で囁く。

 

「さっきシオリと買い物に行った時、私の腕を縛るためのロープも買ってある……。あとは分かるな?」

 

 新妻シスターとの新婚初夜を経験した後に、拘束されたくっころ女騎士さんとのお楽しみも、セットでついてくるだと……。

 なんというエロ同人でしかありえない、一晩で二度美味しいシチュエーション!?

 

 俺は力強く頷き、ユリコと無言で握手を交わす。

 今夜は僕……オークになっても良いですかね?

 

「さて、シオリ。問題はここからだ……。うちの幼馴染は、少しばかり性癖が変わっていてな……」

「そうなの?」

 

 性癖が変わってるどころが、歪みまくってるのはお前の方だろと、声を大にして言いたい。

 

「一般的な知識では、ユウトに嫌われてしまう。それは嫌だろ?」

「そうね。せっかく私も好きになってきてるのに、ここで嫌われたくはないわね」

「そうだろう。だから今日は、騙されたつもりで私の指示に従って欲しい」

「分かったわ」

 

 いや、それはマズイのでは?

 そこにいる悪友は、女の皮を被った男だぞ?

 

「まずは四つん這いになります」

「……え?」

「こうかしら?」

 

 美人シスターと美人女騎士が、俺の足下で四つん這いになって見上げる。

 

「ユウト。止めるなら今のうちだぞ。私は全力でいくぞ……」

「全力って何? ちょっと怖いんだけど……」

 

 この女はいったいどこで、そんな知識を身につけたのやら、ユリコの真の恐ろしさを知ってしまった……。

 酷く偏りがある男の喜ぶ知識を悪い女騎士に教え込まれ、美人シスターによる献身的な夜のサービスには、頭がフットーしそうになりましたよ。

 シスター帽だけは着けたままでと懇願するユリコに、首を傾げるシオリだったけど、そこは男のロマンだよなっ!

 

 さらに幼馴染は追撃の手を緩めず、腕を縛られた女騎士様になりきってお約束の台詞である「くっ、殺せ」を言いつつ、ベッドで四つん這いになってお尻をフリフリしながら、夜のオークになった俺を誘ってきた。


「私は、誇り高き女騎士だ! オークなんかに、絶対負けないんだからね!」

「ククク……。そう言ってられるのも、今のうちだブヒ。即堕ちニコマにしてやるブヒ」

「なんなのよ、この状況は……」


 異世界ファンタジーのお約束ネタを知らないせいで、意味不明な状況についていけない新妻に引かれながらも、エロ同人ネタに詳しい女悪友相手にハッスルハッスル!

 改めて、あの日の夢を見て思ったけど、結婚して良かったなー……。


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