95・変化、理由
「メイアちゃんのせいではありませんよ。」
「ルルス・・・・・・ちゃん?でも・・・・・・私、人を殺して血が飛び散った時、一瞬だけど何も感じなかった・・・・・・そんな自分にも驚いてるの。ねえ、私が出した犠牲者って最小限に押さえたから十数人いたうちの三人くらいだよね?それなのにどうしてそれよりも多い人達が帰ってこないのかな。」
「私は・・・・・・感じました。あの空間は人の負の感情を餌に動いていました。私、囚われたときにみたんです。ツルが切られて再生するたびに一つ、また一つとあそこの人達が消えていくのを・・・・・・たぶん再生が早かったのはあそこにいた人達のおかげなのでしょう。でも、人間だから・・・・・・生かしておけばいつかは死ぬ。肥料が役目を追え、土と同化し、消えるように。ですから、20人近くの方は亡くなったその亡骸さえ戻らないでしょうね。」
「すべては・・・・・・記憶を守るため・・・・・・。ねえ、私たちの力は本当にこれだけの犠牲者を出さなければならないほど貴重なものなの?私、もうよくわからないよ・・・・・・。」
本当にセタ君に言ったみたいに私自身がそこまでして生きていなきゃいけない存在なのかも分からない。
でも、生きていなきゃいけないのは分かる。星が滅びないためだって。
「弱音なんかはかないでください。貴重なんですよ、ほっとけば世界やその次元にも悪影響を及ぼしかねない。それくらい私たちの力は貴重で危険なんです。」
「でも、私たちの力を使って平和に発展している世界もあった!そんな世界を私たちは壊してきたんだよ?」
「よく・・・・・・考えてみてください。異世界の力が異世界に渡ったら・・・・・・元あった世界をねじ曲げてしまうことになりかねません。それはそれで新しくできた文化や世界にも意味はあるでしょうね。でも・・・・・・そのまま平和で・・・・・・なんて約束できますか?強大な力だけを目当てにして最初の異世界、ルーナさんの国のようになったり、ラーナさんの国のように大戦争になったり、ルミアさんの国みたいに歪みを起こして別世界に繋がってしまったり。ましてやこれまでには存在しませんでしたが、私欲のために私たちの力を利用し、猛威をふるう国だって出てくるかもしれません。そんな国々はもうないと、絶対に有り得ないと言い切れますか?」
メイアはベッドシーツを片手でくしゃりとつかむと頭を振った。
「でしょう?約束なんてできないし、絶対なんてあり得ないんです。だから力はその力の根源に戻るべきなのですよ。特にその力が大きければ大きい程に・・・・・・。」
「わ・・・・・・かった。もう、寝よう?明日は旅立ちだから・・・・・・。」
メイアはむくりと起き上がり、ルルスは軽いあくびを一つしてから言った。
「そうですね・・・・・・寝ましょうか・・・・・・。」
明かりを消し、ルルスはすぐに眠りについたが、メイアは目を開いたまま横たわっているだけだった。
暗くなった部屋に微かに月の光が差し込んでいる。
ほんの少しの光なのにそれがメイアには昼間のように全てがはっきりと見える。
そして何よりも怖いのは異常なまでに変化を遂げた気配を感知する力と危機察知能力の速さ。
たまに自分は人間ではなく人間型のロボットなのではないかと思う。
自分の後ろにあるものさえ、振り替える必要がないほどわかってしまう。それでも以前からの習性は抜けずに仲間に呼ばれたとき、話すときは振り替える時がある。
「敵・・・・・・か。」
いつか見た夢を思い出し、一人つぶやいてみる。
それはむなしく空気にとけ、消えた。
みんなの顔がリアルだった。
信じていたものに裏切られたことなんてまだないけど、きっとあんな顔をするんだろうな。
でもあの頃とは違うもの・・・・・・それはルルスだった。
ルルスはおそらく四人が“対立するならば”の話だが、メイアと同じ敵と言われる側だろう。
そしてそれはどんなに仮の話だと自分に言い聞かせても怖くなる話だった。
一方そんなメイアの隣で寝息をたてているルルスは不思議な夢を見ていた。
暗やみに自分一人が閉じ込められ、涙を流しながら頭の横で壁のような何かを叩き、必死に何かを止めようとしている。
「やめてください!やめて!違うんです!本当の私はここにいるんです!ここからだしてください!」
必死にそれを繰り返している。
そんな中で、メイアは部屋を抜け出した。
もしカルナさんが起きていたら話でもしようと思ったからだ。
だが、誰も起きてはおらず、ボーッとしているうちに夜が明け、朝になった。
カルナが起き、セタやミョンハクが起きて数時間して朝ご飯になってもルルスがなかなか起きてこない。
そこでメイアが起こしに行った。
「ルルスちゃん?ルルスちゃん。朝だよ起きて。」
揺すってもなかなか起きない。
「ルルスちゃん。ルルスちゃん!」
するとルルスの目が勢い良く開いた。
「メ・・・・・・イア・・・・・・ちゃん。」
ルルスの息が荒れている。
また・・・・・・見たのだろう。何か・・・・・・いやな夢を。
「ありがとう・・・・・・ございます。自分ではなかなか起きられなくて・・・・・・困って・・・・・・ました。」
呼吸を落ち着かせながら胸の辺りで軽く拳を握るルルス。
「見たんだね・・・・・・最近、私達が共通する・・・・・・闇を・・・・・・。」
ルルスは驚いた顔をしたが、すぐに戻り頷いた。
「やはり・・・・・・メイアちゃんもでしたか。前、メイアちゃんがおかしくなった時・・・・・・理由があの時の私には・・・・・・わかりませんでした。でも、今ならわかります。どうしてあなたは変われたのですか?どうして今の状況から抜け出せたのですか?私は・・・・・・かわれないのに・・・・・・悪化していくだけなのに・・・・・・どうして変われたのですか?」
窓から差し込む太陽の光が横から二人を照らしていた。