91・壁とツル
かろうじて小さな擦れ声を出したのはセタだった。
四人の目の前にあったのは鎧を来て、四人たちよりずっと強そうな男の人が恐怖に顔を強張らせて植物に捕まり、その骸もまた、人間の姿を保ちながらに植物になっていた。
片手が前に進もうと、もがき、逃げ惑うように前に出ている。
それだけではない。
辺りを見渡せばたくさんいる。
勇ましい格好をした女の人や、たくさんの男の人の群れ。
どこからか迷い込んだのか小さな子供や、動物、虫まで。
「どうして・・・・・・こんな・・・・・・。」
メイアはやっとの思いで立ち上がった。
「前に進もう。」
また声をかけたのはセタだった。
三人は頷くと一歩一歩慎重に歩いた。
どこもあなどれなかった。
足をおいた瞬間にかじりついてくる花や草。
下手にツルや茎を踏めばどこからともなくつるが伸びてきて四人を狙った。
そのたび、切り捨て、走りだし、宙に浮いたり、決壊を張ったりした。
「にしても変だよな。」
決壊の中でセタはつぶやいた。
三人は何が?と言う顔でセタを見た。
「どうしてあの壁の空間を抜け出せた奴らがここでこんなヘマをおかしてるんだろうか?」
「確かに・・・・・・変かもしれません・・・・・・それに動物や虫といったものたちも気になります。」
「だよな。ルルスも不思議に思うよな。ここはあの空間を抜けてきたものたちしか来れない空間なのに何故虫や動物や子供がいる?稀に虫や動物が奇跡的に入れるとしよう。だけど、子供は?あの空間を抜けるのは無理だ。」
言われれば・・・・・・とミョンハクも考え込む。
「で、でも、迷い込んじゃっただけかも・・・・・・。」
メイアが恐る恐る発言した。
「迷い込んじゃったで抜け出せるような空間じゃなかっただろ?お前がへまして俺に助けられたんだから。」
メイアは驚いて声のした方向を見ると、そこにはミョンハクがいた。
ミョンハクは腕組みをしてメイアを見ていた。
どうやらメイアを覗いた三人の脳裏はここまで偶然にはたどり着けないという結論に達したらしい。
「でも・・・・・・じゃあ何で?」
「そこなんだ。俺にもきっとみんなにもよくわからない。どうやって彼らはここにたどり着いたんだろうか。」
セタはウムーと言いながら足でリズムを取っていた。
どうやらセタは考え込むとき、片足だけで軽い足踏みをするらしい。
確かにセタは今まで結論をもともと知っているかのようでセタが本気で考え込む姿を見るのはこれが初めてなのだ。
また一つ、メイアは知らないことを知った。
「あの、考えこんでも始まらないと思う。今はとにかく、前に進もう?」
メイアが考え込む三人に提案すると三人は頷き、進むことが決まった。
しばらく進むとだんだん攻撃してくるものとそうでないものの区別がわかるようになってきた。
そんなとき、メイアが声を上げた。
「あっ!」
「今度は何だ?」
そう言いながらまた一番早くきたのはミョンハクだった。
メイアが見つめていたのは一足の靴。
それも形を保ったまま植物になっていた。
「そういうことだったんだね。」
メイアは1人で納得していると四人がそろった。
「これ、私の靴だよ。」
「は?」
みんな唖然とした。
「私の今日はいてた靴。」
「でも、おまえ、確か・・・・・・壁に靴を・・・・・・。」
「うん。だからここにある。私のなくした右足で同じサイズの同じ柄の靴。」
そういって靴の横に自分の足を並べた。
確かに左右で同じ靴だし、ならんでいてもサイズは同じようにしか見えない。
「つまりね?あの空間はここにつながってるんだよ!迷い込んじゃったものたちや勇敢に立ち向かった人たちが失敗して壁のなかに引きずり込まれる。私もなりかけたからわかるの。あの時、すごく怖くて、前に前に手を出した。引きずり込まれたくない一心で。だからここにいる人たちは手を出してる人が多いんだよ。怖くて死ぬんだと思ったら・・・・・・表情が強ばるのも・・・・・・無理ないよ。」
言い終るとふっとメイアは悲しそうな顔をした。
「みんな・・・・・・死んじゃったのかな。」
「さあな。」
悲しそうな顔をするメイアの頭のうえにセタはポンと手をおいて付け加えた。
「生きてるといいな?」
「・・・・・・うん。」
あれ?とメイアは思った。
この感じ・・・・・・知ってる。
これ・・・・・・ミョンハク君と・・・・・・一緒・・・・・・?
って、何でミョンハク君!?ミョンハク君なんてどうでもいいんだけどっ!
メイアは頭を激しく横に振ってからニコリと笑った。
「うん。きっと生きてるよね?」
そして前へと進むにつれ、ツルに襲われる回数が増えていた。