78・守護神?
「誰?ここに人間は・・・・・・いないはずだよね。」
いち早く気付いたのはメイア。
二つの目はメイア達を見定めに来たものだった。
ガウゥゥウ・・・・・・。
どこからかうなり声が聞こえる。
「威嚇だな・・・・・・久々に本格的な狩になるかもしれない。」
「狩?」
「なんでもねぇよ。簡単に言っちまえば・・・・・・動物との短期戦争。」
「戦争?」
メイアは剣をかまえ、セタと背中合わせになる。
だが・・・・・・しばらくしても何も起こらない。
視線を感じるほうに武器をあまり使わない東洋魔法をつかい、突風をふかせた。
ギャウン!
わけのわからない声が鳴り渡り、得体のよくつかめない動物が出てきた。
四つ足・・・・・・大きめな耳。
狼のようで・・・・・・ウサギの耳を少し短くしたような・・・・・・それでもって大きめな目。
尻尾は鼠の尻尾に似ているかもしれない。
狼をベースとしたちぐはぐな生きものは鋭い爪と鋭い牙を持ち、尻尾は振られるたびに空気をたたき、バシン!バシン!と鳴っている。
まるでムチだ。
瞳孔は大きく開かれ、二人に殺気は向けていない。
「・・・・・・何これ?」
「狼・・・・・・じゃねぇの?」
「ねぇ・・・・・・あなたは何がしたいの?私たちのこと・・・・・・殺す気はないんでしょ?」
メイアはその動物に話し掛けた。
通じるかはわからない。
「はあ?」
何をしたいのかわからないセタは顔をしかめる。
[おまえらは何者だ。]
「人間って知ってる?」
「メイア?何言ってんだよ?」
「しっ!」
メイアはさっとセタの前に手を挙げてセタの動きを静止させた。
[人間・・・・・・?しらないな。]
「あなたは何ていう種族?狼?」
[狼?それはどのような生命体だ?]
「あなたたちに似た種族だよ。」
[知らないな。私はいや、私達はこの森林を守護するもの。]
ワッとあたりにわけのわからない生命体が増える。
同じようなのもいたが、またそれぞれに訳が分からないものが出てきた。
「じゃあここの守護神なの?」
[守護神・・・・・・?わからぬ。]
「精霊?」
[我らには実体がある。精霊というものは実体があるのか?]
「精霊を知ってるの?」
[五百年前に来た何かが私たちに多少の知恵を授けた。]
「誰に?」
[実体がないものだった。それは自分を精霊と言っていた気がする・・・・・・。]
「どうして私たちを威嚇したの?」
[得体の知れない生命体だったからだ。]
「じゃああなたたちは本当に人間を知らないんだね。」
[ああ・・・・・・。]
「威嚇しないで。私達はおかしな生物なんかじゃない。」
[だが、先ほど、草や花や茎を切り倒していったではないか。]
「生きるためには仕方なかったの。あなたたちは生きるために何か食物を口にしない?」
[食べ物?私達は光と水をたよりに生きている。]
「まるで光合成ね。」
[光合成?]
「なんでもないよ。」
[まあいい。しばし行動を監視させてもらおう。]
「あ・・・・・・。」
消えてしまった。
「メイア、お前何を話してたんだ?」
「私達の行動を監視するって。」
「ふーん?」
洞穴へと戻る。
そこにミョンハクはいなかった。
「ミョンハク君は?」
ルルスにメイアが問い掛ける。
「外に行かれましたよ会いませんでしたか?」
「会わなかった・・・・・・。」
「そうですか。」
「そういえば守護神らしいのが私達の監視するって言っていたよ。」
「え?」
「じゃあ私はミョンハク君にこのことを伝えに行ってくるね。」
そのまま去っていったメイア。
ミョンハクは洞穴からすぐ近くにいた。
ミョンハクはただ、メイアが何故あんなに自分自身を否定したのかが分からなかった。
それに敵が言っていた・・・・・・俺の利用価値って何だ?
「ミョンハク君。」
「あ、ああ、メイアか。どうした?」
「この森って不思議・・・・・・ねぇ・・・・・・そう想わない?」
「そうだな・・・・・・。」
上の空で返事を返すミョンハク。
「ねぇ・・・・・・ミョンハク君ってば!」
「何だよ!」
「何考えてるの?」
「別に。」
「何かあったの?」
「何もねぇよ。」
「わかった・・・・・・じゃあいい。深入りしないし。あのね。守護神か精霊が私達の行動を監視するって言ってたよ。」
「ふーん。」
「もうそろそろ夕方だね。」
「そうだな。」
「戻ろう?考え事は帰ってからでもできるよ。」
そうしてミョンハクは連れ戻された。
暗くなっている。
メイアには何も感じていない。
だが辺りは暗やみに包まれていく。
「明かりがほしいな・・・・・・。」
そういってミョンハクが剣を出した瞬間・・・・・・。
ポアッ。
いくつもの光のつぶが舞い、一ヶ所に集まるとライトくらいの明るさを発揮した。
「ミョンハク君・・・・・・なんで剣を出してるの?」
闇のなか、微かにともる光が剣にキラリと反射する。
「あ、いや。火を炊くつもりだった。」
そういいながら剣を鞘に戻し、静かにため息を吐いた。
「困ったな。人一人いねぇ世界で何がカードなのかわからねぇ・・・・・・。」
「でももしこの世界自体が魔法だったら?砂漠の国のようなことが起こっていてもおかしくないわけですよね?」
「あの国では範囲が決まっていた!ここは広すぎるくらい広い陸地だ!」
ミョンハクとルルスの考え、推理が白熱していく。
「少し待て。おまえたちのカードは国を作ることができるんだよな?」
セタがミョンハクとルルスをいったん両手を二人の前に突き出し、言い争いになる前に止める。
「ああ。たぶんな。」
ミョンハクは腕組をした。
「強力で巨大な力ですからね。時には戦争の火種ともなり、時には科学発展させる。時には動物になったり、時には国さえ滅ぼします。新しい文化を築いていくところもありますが・・・・・・それもいずれは・・・・・・私達が回収してしまうことになるかと・・・・・・。」
「おまえたちのカードは惑星は作れるのか?」
「わかりません。正直なところ、なぜこんなにも巨大な力を持ち、尚且つ私達の記憶であり魔力であるのかは・・・・・・本当の持ち主であるわたしたち自身、よくわかってはいないのです。」
「それに関する質問なら沢山出てくるんだよね。なんでカードなのか、なんで国を作り、また滅ぼすことさえ可能なのか。それに、何故私達以外の・・・・・・持ち主以外の人たちがカードを操れるのかも・・・・・・。」
メイアがうなずきながら疑問を次々あげていく。
「実際はよくわからない・・・・・・謎だらけってことか・・・・・・。」
セタは可能性は半々だと見た。
どちらとも言えない。
わけのわからない動物たち。
人間が相手じゃないなら・・・・・・ここ自身が相手なのではないのか。
そう考えるのはおかしいことだろうか。
「まあいい。もう寝るとしよう。」
「明かり・・・・・・すこしだけ残しておくね。」
メイアが言った瞬間に光は二〜三つぶを残して消えた。
ルルスは震えはじめた。
寝ることが怖い・・・・・・今までにない、恐怖が襲う。
寝たくない、夜が怖い。
「ルルスちゃん。外にいこう?」
「メイア・・・・・・ちゃん?」
「ほらっ!」
ルルスを洞穴から引っ張りだすメイア。
急な山道を上り、前をずんずん進んでいくメイア。
メイアに手を引かれ、暗やみの中、見えない状態でこけそうになりながら歩いていくルルス。
「見て。ここ。」
メイアが両手を広げたと思うと、光のつぶが空中を舞う。
そこはドーム形に木々や枝が生い茂り、真ん中はぽっかりと開いていて、星たちがのぞいている。
地面は平地で草が生い茂っていた。
ここだけ見ると草原だ。
「このような場所・・・・・・いつお見つけになられたのですか?」
「ん〜、今。私ね・・・・・・後ろにも目があるみたいにわかるの。いろんなこと。直感なのか・・・・・・そうじゃないのかわからない。でも・・・・・・感じる。もしかしたら本当に後ろにも目がついちゃうんじゃないかって想うの。けどそれって・・・・・・かなり気持ち悪いね。」
ハハッと笑う。
「メイアちゃん・・・・・・。」
「ん?」
「怖く・・・・・・ないのですか?自分が・・・・・・変わっていくことに。」
「・・・・・・そうだね・・・・・・怖いよ。本当はすごく怖い。けど、恐がってても仕方ないんだ。今日、みんなに教えられたよ。だから、未来がもし私の想っている一つの悪い未来しか残されていなかったとしても・・・・・・今、みんなといるかぎりは違う未来があってもいいと想うんだ。だから・・・・・・生きることに決めたよ。」
「・・・・・・そうですか。」
本当に変わられたのですね・・・・・・メイアちゃん。
私は・・・・・・メイアちゃんのように考えることはできない・・・・・・できないんです。
まるで・・・・・・光と闇ですね。
同じ暗やみで震えているのかと思えば・・・・・・もっと前を進んでいく。
今、メイアちゃんは光のなかにいるんですね。
本当に適わないな・・・・・・。
メイアちゃんには・・・・・・。
どうしてでしょうね?
彼女の人徳でしょうか。
うらやましい。
とても・・・・・・うらやましい・・・・・・そして私は醜いです・・・・・・この気持ちが・・・・・・嫉みに変わってしまいそうで・・・・・・怖い。
「ルルスちゃん。」
顔が歪んでいたのかもしれませんね、やだ・・・・・・私ったら・・・・・・仲間に対してその感情抱くなんて・・・・・・本当に最低ですわ。
そのような言葉が一瞬にしてルルスの体を貫き、体が強ばった。
「無理しないで?」
「・・・・・・え?」
「怖いときは怖いの・・・・・・誰だって怖い。だから、無理矢理自分を制御しようとしちゃダメ・・・・・・。」
「はぁ・・・・・・?」
「それに私、ルルスちゃんと同じ道を歩みそうな気がするの・・・・・・だから抜け出そう。ね!?ルルスちゃん。今のままじゃダメなんだよ。変わろう?」
差し伸べられたてをルルスは振り払った。
「・・・・・・え?」
困惑するメイア。
「・・・・・・あ・・・・・・。」
メイアの表情を見て顔を反らすルルス。
胸の辺りに片手が軽く握られた。
そんなに簡単に言わないでください。
私はメイアちゃんのように簡単に変わることなんか出来ません。
メイアちゃんと同じことを私に・・・・・・求めないでください!
「ルルス・・・・・・ちゃん・・・・・・?」
「・・・・・・無理です・・・・・・。」
「え?」
「そんな簡単に抜け出すことなんか・・・・・・出来ません・・・・・・!」
「どうして?挑戦したことあるの?」
「私にメイアちゃんと同じことを求めないでください!」
ルルスが思っていたより声は大きく、荒かった。
「え・・・・・・?」
メイアは少し身を後ろに引く。
「私は簡単に変わることなんか出来ません、メイアちゃんとは違います。メイアちゃんに私の何がわかるというのですか?私はあなたが羨ましかった。感情に素直で一時期それも変わりましたが、今ではすっかり元に戻っている・・・・・・私はメイアちゃんのように簡単に何事もなかったようにはできないんです!」
ましてや・・・・・・自分が今、一番恋しい人を殺せといわれている私の気持ちが・・・・・・わかりますか?
わかってます。
こんなの八つ当りです。
誰かに感情移入してしまったらもう・・・・・・誰にも冷静でなんていられない・・・・・・!
「わからないよ。私とルルスちゃんは違うんだから・・・・・・人間なんだから。なのになんで簡単とかうらやましいとか言うの?私はルルスちゃんの方が羨ましかったよ。」
私はあんなに怒ったのに・・・・・・メイアちゃんの声は・・・・・・なんでこんなに静かなのでしょう?
私は相手を怒らせるようなことを言ったのですよ?
「私だって簡単にかわったわけじゃない。でも仲間がいる・・・・・・そう思ったら変われると思った・・・・・・変わりたいと思えた。私は冷静で落ち着いてて、ミョンハク君を逆撫でしないでまるめたり、セタ君をと通じあえてるルルスちゃんが羨ましかったよ・・・・・・だけど、今のルルスちゃんは・・・・・・羨ましくなんかないよ。」
声に感情の波があまりない分、最後の言葉はルルスに突き刺さった。
人を傷つけたいわけじゃなかった。
ただ、メイアのようにはなれないと決め付けていただけだった。
「う、羨ましくなんかなくて結構ですよ。メイアちゃんには私の恐怖なんてわからないんです。」
ひねくれたようにルルスは言葉を発する。
「恐怖がわからない?どうして決め付けるの?怖いよ。怖いに決まってるじゃない。何かが狂ったように警報を鳴らせて・・・・・・私はみんなとはどんどん変わっていくことに恐怖を感じていた。今だって感じてるよ。仲間ですら信じられなくなった時だってあるよ。だけどみんなが・・・・・・セタ君やミョンハク君が・・・・・“俺達がいるだろ、未来を決め付けるな”って言ってくれたから・・・・・・だからかえられるかもしれないと思った。今だって眠れない。闇なのに目が冴えて・・・・・・暗やみなのにすべての輪郭や表情がはっきりわかる。・・・・・・明かりなんか・・・・・・なくても。」
ルルスはメイアにいつからその暗やみの目をもったのかと聞いた時があった。
その時にもメイアは、傷ついていたのだ。
あるいは・・・・・・もう傷だらけで浅い傷などもうどうでもよくなっていたのかのどちらかだ。
「メイアちゃん・・・・・・。」
「でももういいよ。変わりたくないなら無理に変われとも言わない。これ以上、もう何も言わないから。」
そういって朝、ルルスの冷や汗をふき、さらに水で濡らしたマントを取り出した。
時間はだいぶ経ち、マントは乾いていたが、メイアの心は朝よりもずっと複雑だった。
横になったまま、動かなくなったメイアを何も言えずにルルスは見つめていた。
作「今回のゲストさんは変わったメイアちゃんです!ちなみに今回は普通の?コーナーです。」
メ「こんにちわ。」
作「どうです?」
メ「何がですか?」
作「そうね。セタが好き?」
メ「え・・・・・・えぇ?す・・・・・・すきですよ?」
作「ルルスは?ミョンハクは?」
メ「ああ、そういうことか。みんな好きですよ。」
作「で?闇の恐怖はやわらぎましたか?」
メ「ええ。だいぶ。みんなのおかげだな。」
作「変わったねぇ・・・・・・。前ならパニくるか、無視だったのに。」
メ「変わったよぉ・・・・・・。」
作「うん。そうじゃ今回はココまで。ありがとうございました。」