77・二つの目
メイアは落ち着くとミョンハクとともに洞穴へ向かった。
そこからセタが飛び出していったのを見たが、ルルスの様態を心配して見にきたのだろうとしか思っていなかった。
メイアはマントを取り出すと、ルルスの顔の汗を拭きだした。
マントが十分ルルスの汗で絞れるようになっても冷や汗は止まらない。
「このままじゃダメ・・・・・・ミョンハク君、ここら辺に泉か川あったら持ってきてくれない?」
「何で水をすくう気だ?」
「そんなのなんでもいいじゃん?ほら、そこの大きな葉っぱとか・・・・・・坪型のあの花のほうがいいかな。」
「え・・・・・・あれは虫を食うやつじゃねぇか?」
「いいから!洗えばいいじゃん!」
早くと目線で急かすメイア。
乗り気ではないミョンハク。
「ああ、はいはい。行ってきますよ。」
剣をかまえ、何が起こってもいいようにする。
その坪型の花はうつぼかずらに似ているが、ばかでかい。
人間の片腕くらいならまるまると消化してしまいそうな大きさだった。
それを茎の部分から切り倒し、茎を結ぶ。
切り倒したことで閉まってしまった蓋をこじ開ける。
中には何もない。
巨大なうつぼかずららしき植物を片手に抱え、水の音がするほうへ歩く。
歩く。
歩く。
・・・・・・どこまでいっても地面は変わらぬ湿地帯のまま。
川の様子はどこにもない。
だが、水の音は間違いなくミョンハクの近くで聞こえている。
「だああっクッソォ!」
八つ当りをし、草や茎を切った。
と、そこには・・・・・・何かのつるのような茎のようなものから水が流れ出ていた。
「嘘だろ・・・・・・おい。」
恐る恐る毒味をし、飲める水だと確認すると、すぐ水を溜めた。
出てくる量は少ないが、とめどなく流れてくる水。
「不思議な場所だ・・・・・・川はないのに茎に川があるとは・・・・・・。」
すぐに水を持ちかえる。
「ありがとうミョンハク君。」
そう言って笑うとメイアは辺りを見渡してから水を飲ませる道具がないことに気付き、水を口に含ませるとルルスに飲ませた。
ルルスの体に予期せぬ物が入り、びくりとゆれる。
おかげで夢から気が反れ、ルルスは目を明けた。
目の前にはメイアがいた。
「メイア・・・・・・ちゃん?」
「うなされていたみたいだけど大丈夫?ほら、ミョンハク君がとってきてくれた水・・・・・・飲んで?」
「ありがとうございます・・・・・・。」
ゆっくりルルスが起き上がると、水を両手ですくい飲んだ。
意外に喉がからからだったらしい。
水が体に染み渡っていくのを感じたあと、水面に映る自分の姿を見てルルスはひどい・・・・・・と思った。
そして頭のなかで繰り返された言葉に挫けて泣いてしまいそうだった。
セタは殺せない。
なぜあなたは私が適任だと思ったのですか?
何故私ばかりあなたの声が聞こえるんですか?
聞きたいことは本当は山ほどあるんです。
けれども、その質問は何一つ答えてもらえない。
届かない・・・・・・。
どうしてですか?何でですか?
「・・・・・・ルルス・・・・・・ちゃん?」
ハッとした。
「は、はい。何でしょう・・・・・・?」
「いきなり質問してごめんね。でもこれだけは答えてほしいの・・・・・・嘘はつかないでね?」
「・・・・・・はい。」
「私のこと・・・・・・鬱陶しく思うこと・・・・・・なかった?」
「ありませんよ・・・・・・あるわけないじゃないですか・・・・・・。」
悲しそうな顔をするルルスにメイアはにこりと笑いかけた。
「そう。ならいいんだ。変なこと聞いてごめん。私、用を思い出したの。行かなくちゃ。」
「・・・・・・え?」
メイアは走りだした。
向かったのはセタの居場所。
どこにいるかはしらない。
けど行かなくちゃ。
なんとなく迷ってる気がするの。
闇に迷い込むその前に今度は私が誰かを助ける番。
ようやくたどり着いたセタは大木に触れていた。
メイアに気付いた様子はなく、大木を眺め続けている。
それが妙に寂しい顔をして気に寄り添っていることからはかなげな木の守り妖精に見えたのはメイアだけかもしれない。
だけどメイアはその一瞬を逃さないように手で枠組みを作り、写真を取った。
ルルスの起こり顔と空と新たな写真で加わったセタ。
セタはメイアに気付くと、すぐ大木から離れた。
「どうした?」
「何を考えてるの・・・・・・?ため込まないで私にも教えて・・・・・・?」
「な、何言ってんだよ。」
メイアの質問からするりと逃げようとするセタをメイアは逃さぬように手を捕まえた。
自分のしていることに少し恥ずかしさを感じ、赤みがさした頬を隠すように斜め下を見るが、すぐに真っ直ぐセタの瞳を見つめた。
「逃げないで・・・・・・今度は私がちゃんと向き合うから・・・・・・。」
深緑の目と茶色の目。
片手を両手で支えるように持っている。
「ほんと・・・・・・なんでもないんだ。ただ、自分の存在がわからなくなっただけだ。」
そういいながら顔を反らす。
「セタ君の存在は大切なんだよ。だからこっちをむいて?」
「・・・・・・何?」
ミョンハクよりたれ目っぽい感じの優しげな瞳がメイアを捕える。
「私にとってはミョンハク君もセタ君もルルスちゃんもみんな大事だよ。たぶんそれはみんな同じなんだと思う・・・・・・ううん。そう信じてるの。だから一人で何でも抱え込もうとしないで?」
「・・・・・・ここにいる間はいいかもしれない・・・・・・俺も旅の仲間たちは嫌いじゃないし・・・・・・けど俺は異世界の人間だ。おまえたちとは違う。お前たちが世界に帰ったとき、俺は1人で・・・・・・英雄の栄誉しか見てもらえなくなる。単体の俺一人の存在としては見てもらえなくなるだろう。」
「・・・・・・そんなことないはずだよ。すくなくともあなたの旅を応援している人がいる。もしかしたらセタ君が好きで夜も眠れずに心配している子もいるかもしれない。確かに単体で見てくれる人は少なくなるかもしれない。だけど・・・・・・ありのままのセタ君を受け入れてくれる人も・・・・・・いっぱいいると思うんだ。」
セタ君を想う子・・・・・・。
メイアの胸が少し締め付けられる。
「いるか?」
「いるよ!きっと。だから立ち止まったときは考えてみればいいよ。送り出してくれた人々、心配してくれた人々・・・・・・寂しいときは目を閉じればいい。きっと忘れないかぎり、セタ君の中でみんなは生きてる。」
沈黙が続き、メイアはうつむいてから言葉を続けた。
「私には・・・・・・そんな人・・・・・・いなかったけどね。」
「・・・・・・お前、変わったな。」
「あのね、一つだけ答えてほしいの。」
「あ?」
「私のこと、鬱陶しく思うことある?」
「ねぇな。特に。」
「うん。ならいいの!」
そんな二人を二つの目が見ていた・・・・・・。
作「はい、次回予告、ゲストはミョンハク君です」
ミ「あ〜?前にやっただろうが。」
作「いいからやれっ!!」
ミ「え〜、次回、メイア、セタを見ていた二つの目の正体が明らかに!?」
作「はいそうです。」
ミ「二つ目ってなんだ。二つ目って。」
作「そりゃ次回のお楽しみ。」
そんなこんなで終わります。
ありがとうございました。