72・戦う意味
セタとミョンハクにチームわけ去れてから早、数分が経過していた。
敵は同じはずなのに、ミョンハク側の敵はつぎつぎ倒されていく。
セタは結界を食い荒そうになりながらかなりの苦戦をしていた。
ミョンハクは強そうな相手に向かって刄を振り下ろす。
ギィイン!
鉄同士がぶつかり合い、剣が微かにゆれる音が響く。
「おい!おまえなら俺に反撃できるだろうが。」
ミョンハクは剣を両腕で支えるような態勢で、相手は片手、ミョンハクは圧倒的不利だったが、相手は何もしてこない。
セタはあの手この手を使われ、本気で命が狙われているのに対し、自分はたいして狙われていないことに気付いたからである。
「だからどうしたというのだ?」
男か女がわからない両方聞こえるような不思議な声が耳に付く。
「なんであいつは本気で狙われていて、俺は本気で狙われていない!?」
「ほほほ。おまえも愚かだな。人間は皆愚かだが・・・・・・せっかく生かされていると分かったその命、わざわざ危険にさらすことはなかろうぞ。」
片手で払い除けられ、ミョンハクはぶっ飛ぶ。
「っ!・・・・・・なんつう馬鹿力。」
ミョンハクが姿勢を整えた瞬間、ドサッという音とともにミョンハクの首が捕まれ、地面に叩きつけられる。
は、速いっ!
メリッという音とともにミョンハクの首が閉まる。
「ぐあ!」
「まったく。こんな弱いものを生かしておくなど主の気が知れぬ。“あれ”同様始末してしまえばよろしいものを・・・・・・。」
「あ・・・・・・ぁ・・・・・・るじ?」
閉まる首で必死に呼吸をする。
「我が主人の申し付けだ。まあ、後に貴様には死んでもらうゆえ、教えといてやろうかの・・・・・・。おまえにはまだ“利用価値がある”あいつには最初から“利用価値は無い”。」
その言い方にミョンハクは頭に来て目を見開くと、勢い良く相手の頭を地面に押さえ付けていた。
形勢逆転だが、一瞬のあまり、お互いに何が起こったのかわからなかった。
「利用価値だと・・・・・・?」
すぐに状況把握ができたミョンハクは相手の喉に剣を突き付ける。
「そう。利用価値だ。」
「ふざけんな!俺は誰にも利用される筋合いはねえよ!」
「これは運命だ、主の作り上げたシナリオの上をプレイヤーというお前たち四人が歩いているだけに過ぎない。」
さらに強く剣を突き付ける。
「殺せばいい。なぜ殺さない。」
「今の言葉を取り消せ。俺たちは誰かの人形なんかじゃない!」
「取り消しはせぬ。」
「取り消せ。」
「思い通りにいかぬのが不満なのだろう?人間はやはり愚かだな。そういう“否定”こそ我等を作り出す材料となり、またそこに我らが生まれるのに・・・・・・我らはそうやって繰り返し、繰り返し、再生し、存在する。」
「ふざけんな!」
「殺せばよかろう?そのための武器なのだから。」
「くそったれ!くそ・・・・・・くそ・・・・・・クソォオオ!セタァアアアア!」
セタが振り向くが、四方八方敵だらけだっため何が起こったのかよくわからずにいると、結界の中に剣が振ってきた。
前に借りて使ったことがあるミョンハクの剣だ。
「・・・・・・!?・・・・・・サンキュ・・・・・・。」
セタは剣を手に取った。
一方ミョンハクは・・・・・・。
「なぜやつに武器を与えた?」
「仲間だからだ!」
「おまえもやつを鬱陶しく思っていたではないか。」
「うるせえ!見殺しになんかできるか!」
敵はフッと鼻で笑うと、ミョンハクの手を顔から退けた。
「おまえは甘い。甘すぎるんだよバカめ。その甘さがおまえの命取りなんだよ。お前は確実に異国にかえる前に死ぬ。」
ミョンハクは精一杯押さえ付けていた手を退かされ、敵の顔が完璧に見えた瞬間に鎖骨の下あたりを一突きされる。
「グォっ・・・・・・。」
悲鳴にならない叫びがもれ、ゆっくりミョンハクの体内から引き抜かれる。
心臓の隣、刺されたのは、肺だった。
ポタポタ・・・・・・。
ぬかれると同時に大量に滴る血・・・・・・ミョンハクの服が、紅にそまっていく。
暖かな体液がしたたり落ちていく。
ミョンハクは敵の首を跳ねるとその場に倒れた。
苦しい・・・・・・息ができない。
痛い・・・・・・。
俺にはまだやらなくてはいけないことがある。
まだある。
こんなところで死ねない。だから、動かなくては。
セタを援護して・・・・・・“四人”で。
そうだ、“四人”で無事に戻るんだ・・・・・・。
血が吹きだしているのを感じる。
普通なら気絶するような光景がある。
でも俺の思考回路は冷静だ。
まだ生きてる。
まだ動ける。
再び剣を握る手に力を入れてゆっくりと起き上がる。
セタが敵を切り裂いていたのが見えた。
ヨロッと立ち上がると、セタのところへむかった。
だが、壁らしき何かに苛まれ、見ることはできても向こうに行くことができない。
体当たりを試みるが、びくともしない。
剣で突っ込んでみるが、やはりびくともしない。
代わりに大量出血したミョンハクの血が透明の壁にこびりつき、そこに確かに壁があることを物語っていた。
セタは本気で殺そうとしてくる集団に教われている。
ついにセタは姿さえ見えなくなり、そこには敵の山が出来た。
おそらく、結界ごと敵が包み込んだのだろう。
「クソッ・・・・・・ゴホッ!ここでずっと・・・・・・見殺しにしろってのかよ!!」
自分の血がついた壁に手をおき、ずるずると座り込む。
壁に、血と指によってかかれた三本の線が連なり、描かれた。
「クソッ・・・・・・クソッ・・・・・・クソォオオ!」
何度地面をたたいても意味はない。
ミョンハクの目には微かに涙がにじんでいた。
自分がこんなにも無力だとは思わなかった。
悔しかった。
何一つできずに、言葉に惑わされて・・・・・・やらなきゃやられるんだ!なのに・・・・・・言葉一つで決心が揺らいでしまう。
『殺せばよかろう?そのための武器なのだから。』
クソッ・・・・・・確かにそうだよ。
殺すために存在する剣だ。
なのに・・・・・・敵に対して決心が鈍った。
敵は俺が混乱したのを見計らって俺を刺した。
やらなきゃやられるんだ!何度も頭にたたき込こんだじゃねぇか!
ただひたすらに・・・・・・。
・・・・・・?
ミョンハクはあるものを見た。
さっき首を切った敵の骸の上からカードが浮きでていた。
そのカードの色は青・・・・・・。
つまり、ルルスの記憶だ。
ミョンハクはそっとカードを取ると、セタの方をバッと振り向いた。
セタの方にも強い奴がいる。
そいつはやはりカード持ちで色は赤!俺のカードだ!
ミョンハクは今、出来る限りの空気を吸い込み、叫んだ。
「セタ!一番動きの早い奴を狙え!カードを持ってるのが一番強いはずだ!」
ミョンハクにとってめいいっぱい叫んだつもりだったが、普段どおりの声しか出なかった。
それでもその声はセタに届いたらしく、内側から放たれた光は横に円を書き、セタを中心とした光の輪になると、いっきに敵は浄化され、生き残った敵も後に結界を自由に操った剣の餌食となり、消えた。
記憶はこうしてまた一つ、ミョンハクの中へ戻り、消えた。
目が冴えたとき、ミョンハクはセタの肩に寄り掛かりながら歩いていた。
「うお!?」
「あ、起きたか。おまえ、意外に背が高えのな、むかつくわ。」
「な、何が起こってこうなった?」
「声ちいせえな。まあ、無理もねぇよな。右あばらと右肺がつぶれて使い物になんねぇんだし。」
「そういや、血、つくぞ。普通これだけ大量出血だったら倒れるだろ。」
「あ、わりい、言ってなかったっけ?俺、タチの悪い霊とか払うそういうようなやつだから、血塗れの人間とかってしょっちゅう見んの。だから人形もなんとも思わなかったし、おまえの血とかもなんとも思ってないから平気なんだよな。」
「今までどんなすごいの見てきたんだよ・・・・・・。」
「あ?あ、そうだな、飛び降り自殺した奴が自分の死を誰かに見取ってもらいたかったらしくて・・・・・・残像残してたわけ。そいつがさあ、頭から血ィだらだら流してて、仕舞には頭がこっぱみじん。首なし人間のフィナーレつきの残像残してたんだよな。結構そーゆーやつとか多いわけ。」
「おぇ・・・・・・地獄絵・・・・・・。」
「今でもいるんだぜ・・・・・・いろんなの。おまえが気付かねえだけで。」
「やめろ・・・・・・。」
「ああ、そうだ、これ・・・・・・。」
セタの手から差し出されたのはミョンハクが投げた剣だった。
「お、おう。」
ミョンハクが受け取ると剣はみるみる小さくなり、本とついのアクセサリーくらいに丸く、小さくなった。
「なんか俺、おまえのこと誤解してたわ。」
「は?」
「もっと冷血なやつかと思った。いつも睨まれてたし。」
「おいおい・・・・・・ま、いーや、“仲間”だろ?」
ニッと笑って拳を弱々しく前に出す。
セタは少し驚いた表情を見せたが、すぐ笑って拳を出した。
「おう。」
しばらく歩いていると、ボーッとしたまま突っ立ているメイア、ルルスを見つけた。
「何してんだろ・・・・・・あいつら。」
誰にもわからないような小さな声でミョンハクがつぶやくと、セタが二人を呼んだ。
「おーい!ルルスー!メイアー!」
う〜ん・・・・・・?コーナーが書けない・・・・・・。
そんなわけで、つまらないあとがきが続いててごめんなさい。
新キャラまだしばらく出てきません・・・・・・。
でも、ここまで読んでくださってくれる皆様に感謝いたします。
ちなみに、カザネコロ事件の闇に取られたカードは今回のもので取り戻されました。
闇がわざわざ覚醒させるために自分の体内にカードを取り込んでコンビで戦わせようとしていたんですね・・・・・・。
何故こんなことをするかはもう少し先に出てきます。
さて、“覚醒”が意味する事とは……?
ありがとうございます。