71・沈黙
「何これ。どうなってるの?」
メイアは辺りを見渡す。
「そなた達のコンビネーション率を測る。」
「死にたくなければちゃんと戦うことだな。」
杭らしきものがあちこちから飛んでくる。
メイアはそれを簡単に避けるが、ルルスはそうも行かず、いちいち相手の動きを予想していた。
「ルルスちゃん!」
メイアがなんとか助けだすが、いちいち一人一人の動きを予想するなど自分の身が危ないとは思わないのだろうか。
それに対し、ルルスはどっかに何の躊躇なしに体すれすれで避けていくメイアを危ないとは思っていた。
自分はなるべく動かずに相手へ反撃チャンスを狙い、それまではバリアなどで身を守ればいいと思っていたが、推理できる奴とできない奴が半々にいる。
「二人でやらないと倒せないぞ、我らは審判者ゆえ、審判は手厳しく行わせていただく。」
そういうと二〜三人がメイア目がけて飛んでくる。
「うわっ!」
メイアは慌ててブーメランを投げるが、相手はそれを予想し、簡単に避けてしまう。
つまり、直感派のメイアには推理派の敵がつき、推理派のルルスには直感派の敵がついた。
お互いに力を合わせなければ倒すまでに時間が掛かり、体力、魔力共に消耗し、負けてしまう。
ここでの負けは、死を表す。
ルルスは必死にいろんな魔法を試みるが、どれも大した反応はない。
そして、二人とも審判者に言われることは同じ。
「強くなれ、感情を捨てろ。生きることだけに執着し、無駄なことは考えるな。」
何故敵にそんなことを言われなければならないのかは二人にもわからない。
ただ、二人の中に何かの覚醒を敵は望んでいる。
それがどうして今回、ルルスとメイアの“コンビ”だったのかはわからない。
ルルスとメイアは背中合わせになると、作戦らしきものを裁てはじめた。
「メイアちゃん、そちらの敵は少し軍隊てきな守備、攻撃がそろっていますね。」
「ルルスちゃんの方はあれだね、私みたいなのばっかり。」
「メイアちゃんみたい・・・・・・ですか?」
「少し守備にかけた単独せい攻撃タイプ。」
「直感にすぐれているタイプですか・・・・・・敵にはあまり回したくありませんね。とくに私の場合。」
「まあ、そんなことを言ってられないけどね!」
バリアを無理矢理破ろうとしている敵。
「メイアちゃんの方向は外に守備、中に攻撃、前にいる守備&攻撃はおそらく囮。外から崩して攻撃派を散らばらせるか、もしくはあの列を乱して、不意を突くか。ですね。」
「列を乱すに賛成!」
「さて、こちらはどうしましょうかね。」
「推理してもしょうがないと思う。だから、ルルスちゃんは攻撃をすればいいんじゃないかな。自分守るばっかじゃ、こっちの身がへばっちゃうよ・・・・・・。」
「ただ・・・・・・直感に任せて・・・・・・ですか。」
「そう。じゃいくよ!」
メイアは白蛇と同じ方法を使うことにした。
中の攻撃派が構える。
剣を用意すると、片手に杭らしきものを握り、まず、真ん中を突っ切る。
綺麗な剣がこすれる音がする。
メイアが地面に着々した時、赤グロい何かが剣にこびりつき、バサッという音が聞こえ、一人倒れる。
タンッ。
メイアはスピーディに行動を起こすと、列が乱れた敵はなかなかメイアのスピードについていけないらしく、あっけなく六つ星三角形の餌食となった。
だが、あの時ミョンハクが言ったように、敵は次から次へと現われる。
六つ星三角形に全ての敵がやられたわけではなかった。
ルルスの方を振り替えるとルルスはルルスなりに苦戦していた。
「メイアちゃん!右の前軍!少なくて、囮のように見えますけど、それが主格です!一番強いと思います!弱いのはいくらでも呼べるし、いくらでも倒せる!どさくさに紛れた主軍を見逃さないでください!」
「なるほどね・・・・・・了解!」
主軍に向かって刄を向けるが、やはり六つ星三角形でやられた奴らとは違う。
剣を持つ手がブレない・・・・・・それに、動きが早い。
「あまいな。震えているじゃないか。」
相手の手が伸びてきたのでメイアは慌てて距離をおく。
「直感はよくすぐれている。離れたことは正解じゃ。」
とたんに降られた手から水しぶきが吹き出した。
水滴は避け切れず、早くも治りかけていたメイアの傷口にあたる。
「あっつ・・・・・・!?」
痛い・・・・・・熱い。
何これ。
再び傷口から血が流れだす。
手がもう一降り、さらに縦に一降りされると、針らしきものと、水しぶきが飛んできた。
メイアはそれを飛び回り、手を使って空中を軽やかに舞って回避する。
「よいのかな?」
メイアが落ちる場所に向かって攻撃が来た。
「バカにしないで。」
メイアは空中で一回移転し、空中に立つ。
すると、敵は空中にいるメイアを囲い込み、剣を持つ手を振りかざした。
一瞬のことだった。
ザシュッ!
パラパラパラ・・・・・・。
ドサッ・・・・・・。
切れたのは・・・・・・。
メイアの髪の毛。
倒れたのは・・・・・・。
敵だった。
「な!!」
敵が驚く。
そこには髪の左半分が残バラカットになったメイアが一瞬のうちにどのように移動したのかわからなかったからだ。
メイアはほとんど無意識だった。
剣を振りかざされた瞬間、生きることしか頭になかった。
また瞬間移動のように消えると、向かいにいた敵の首を剣で突き刺していた。
人間ではない今度は赤黒くもない黒い血しぶきがメイアの顔に直撃し、全身にもかかった。
勢い良く剣を引きぬく。
メイアの視界に入る世界と感情はこうだった。
血・・・・・・黒い。
敵・・・・・・襲ってきた。
ひらりひらりと襲ってくる敵をかわし、敵を貫く。
次々に敵が倒れていく。
「はは・・・・・・ははははは!素晴らしい!すばらしいよ!もう覚醒を遂げるとは!」
最後に残った敵に向かってメイアは剣を振りかざした。
だが、メイアがいくら剣を振りかざしても相手は簡単に交わしてしまう。
敵・・・・・・強い・・・・・・。
黒い血しぶきがかかったメイアの体。
メイアは気付いていないが、敵の血がついたところは傷が治りつつあった。
スルリ、スルリとかわされる攻撃。
ルルスも苦戦していた。
二人の頭には今、生き残ることしかなかった。
ただ、無我夢中で戦っている間、自分が死に至りそうになる瞬間、人間は変わるらしい・・・・・・。
極限を超え、二人の感情が無になるとき、二人は言葉という情報手段を超えた。
目を合わせると、メイアの脳裏にはルルスの考えが、ルルスの脳裏にはメイアの考えが伝達され、お互いにそれを実行すると、敵は数分と保たず消滅した。
二人以外何もいなくなったはずの空間に何かの声が響く。
「第一次審判・・・・・・合格・・・・・・。」
薄気味悪い声が空間に反響していく。
黒い世界は一変。
意識のほとんどない二人だけを残し、辺りは騒がしく活気づいた世界になった。
そのまま二人はボーッとするままだった。
“誰かに話し掛けられるまでは”――…‥。
おまけのサブ台詞
「生きるそれ以外の感情を捨てて、覚醒に目覚めろ。」