65・成れの果て
「犠牲者が多く出れば出るほど、少なくしようと考えるのは自然なことです。」
「だけど、犠牲者は得るものの大きさによって仕方ないものとなる・・・・・・でしょ?」
「どうして・・・・・・それを?」
「わからない。でもなんか、頭が勝手に教えてくれるの。人間の感情って不思議・・・・・・絆なんて、記憶なんて脆いのに・・・・・・必死になってそれを辿って、それにしがみつこうとしてるんだから。」
そう言いながら無表情で泣くメイアに、何が言いたいのかほとんど理解できないでいるミョンハクやセタ。
「では何故そういいながらもメイアちゃんは涙を流すのでしょう?」
「わからないよ。私にも何が何だかわからないんだ。自分なのに自分が自分じゃなくなる。自分の何かに支配されるのが恐い。なのに自分はそこにいて、自分に反発しながらも受け入れていくしかない運命に苦痛を感じる。」
「は?おい、何が言いたいんだよ?」
ミョンハクが謎ばかり話すメイアにたずねるが、本人にしかわからないのに本人がわからないと首を振った。
「簡単な話、辛いんだろ?」
セタから発された一言にメイアはうなずく。
「辛いし、痛いし、怖い。」
セタはそういいながら過去を振り返っていた。
師匠は自分を守ってくれる存在だった。
それが死んでしまったとき、自分が孤独に思えた。
誰も自分を守ってはくれない。
・・・・・・恐い。
底知れぬ恐怖が襲った。
前に進む勇気はない。
・・・・・・痛いし、つらい。
過去があれば未来があるのは当然の話だったのだが、何が起こるかわからない未来をわざわざ危険地帯に足を突っ込んでまで、危険にさらす意味がわからなかった。
でも何もしなければもっと危険だった。
いつも自分のなかの何かと葛藤した。
時には引き分けにだってなった。
それでも底知れぬ恐怖を収めることはできなかった。
自分が英雄一家に生まれてきたから町の人たちは今俺を当然のように第三の英雄として見ている。
恐い。
みんなの俺へ対するイメージが?
いや、違う。
もっと先のわからない未来に触れてはいけないものがあって、それに触れてしまいそうな気がする。
それが怖い。
正体がわからないからなお怖いんだ。
今でもたまに眠れぬ夜が俺を襲う。
・・・・・・今のこいつと同じだ。
反発しながらも受け入れていくしかない運命に迷い、苦悩し、声にならない叫びをあげ、誰にも届くことのないSOSを出す。
誰も気付かないと絶望しながらも誰か気付いてくれと助けを求める。
そんな状態だ。
気付けばメイアは泣き止み、無表情になっていた。
ルルスは言葉を紡げずに黙り込み、ミョンハクはメイアの言葉が理解できずに黙っている。
そんな沈黙をメイアが破る。
「あの人形は三体とも私たちのカードで形成されてる。それなら長年生きてても問題ないし、あのご老人が数百年前のことを知ってるのも、納得できる。」
「ただ、どう回収するか・・・・・・ですよね。」
「あの人形の洞察力はすごいよ。」
メイアがつぶやく。
「いやいやそりゃわかるよ。」
突っ込んだのはセタ。
あの人形との戦いを見ていたのは四人一緒だったからだ。
「ちがう、そうじゃない。その人間の動き、早さ、次に何がくるかの推測。全部見切ってた。それでも矢があたらずに私たちが無傷でいるのはあれが威嚇だけのポーズだったからだよ。」
「どうゆうことだよ・・・・・・それ。だいたいそんな事が何でわかるんだよ?」
ミョンハクが何かに向かって進化を遂げているメイアを誰よりもなぞに思っていた。
「直感と行動力。物理的な説明はないよ。ただ、なんとなく。」
そして、皆とはあからさまに変わっていく恐怖をメイアは再びひしひしと感じはじめるのだった。