55・栄養不足
朝、一番に目覚めたのはミョンハクだった。
そしてすぐ先にメイアとセタが寝ていたので驚いた。
うぁー。
さいしょっからこんなんかよ。
まぁ、メイアにとっての喜びは、あいつといることで、俺といてもダメで・・・・・・だから、うん。
このままじゃダメだと思ったんだ。
俺は記憶に打ち込むぞ。
すると青白いルーナに気付き、おかしいと思った。
「おい。おいっ。」
ルーナを揺すってみるが、微かに息を盛らす以外、何もない。
触れた皮膚は冷たくて、骨を触っている気分だった。
・・・・・・皮しかない。
いくらメイアの魔法で体力を多少取り戻したとしても、栄養不足すぎる。
基本的な栄養がととのっていないと魔法は本人がいつも以上の負荷をかけて、逆効果だ。
まずい。
何か栄養のあるもの・・・・・・があるはずもない。
とにかく水分。
セタは走りだした。
花が食べれるかはわからない。
でも手当たり次第に実をとり、集める。
数分くらいで片手が使えなくなるほど実がとれた。
・・・・・・まだだ。
こんなんじゃまだ足りない。
食えるかもわからないのだってあるのに。
でも戻らないと。
一刻も早く戻らないと。
食えるか食えないかの判断は後ですればいい。
ルーナのところへ戻ると、すでにメイアが起きていたらしく、魔法を使い、ルーナの体にかかる負担を和らげていた。
ルーナは正常な息をし、目をあけていたが、座ってはいなかった。
「おい。これ。」
「ミョンハク君・・・・・・それ。薬?」
「わからない。でもルーナさん・・・・・・には基礎栄養を貯えなきゃならないだろ。」
「・・・・・・なにその毒々しいの。」
メイアが指差したのは赤紫のしおしおで白のツブツブ。
「・・・・・・気付かなかったけど・・・・・・気持ち悪いな。」
「・・・・・・ミョンハク・・・・・・おまえ・・・・・・それはビタミンが豊富なんだぞ。捨てるなよ。」
『え!?』
二人の声が重なる。
「こんなに毒々しいのに・・・・・・じゃなくて!食べてもらわなくちゃ。」
「は。私にか?・・・・・・栄養が必要なおまえらのほうが必要だろ。」
「魔法はね。使いすぎると毒なんだよ。だから変なこと考えないで食べて。ね?ルーナさん。」
ルーナは渋々くだものをすこし食べたが、すぐ吐き出しそうになった。
もうルーナの胃は食物を受け付けてはくれなかったのだ。
それでもルーナは耐えた。
か細くなった背中をメイアが必死に支えながらさすり、ルーナを水辺まで運んだ。
山をすこし下ると、川があった。
「ミョンハク君は後ろむいてて。」
「は?」
「いいから。」
「はいはい。」
ルーナは冷たい・・・・・・とつぶやいてから服のまま川に入り込み、声をたてて笑った。
「いつぶりだろうか。ここにきたのは。永らく私は囚われの身だったからな。」
ただ、前にあったときの存在とは違う、虚しさだけが少しことばに見え隠れする。
「自由にしてあげるからね。まってて。ぜったいルーナさんが悪いわけじゃないって証明してみせるから。」
「あぁ。私もおまえ達も悪者ではないくらいきっとみんなわかってるさ。ただ、情にとらわれすぎてるだけだ。」
ルーナは石に捕まり、川からあがると髪も大夫落ち着き、すっきりとした顔をしていた。
「メイア。何か切るもの持ってないか?」
「え。剣ならあるけど・・・・・・細いやつ。」
「いい。貸してくれないか?」
アイテムを剣に変えてルーナに渡すと、ルーナは剣を握り、髪を束ね、いきなりバッサリ切った。
バサッパラパラパラ
長い髪毛の束が土に落ちる。
「え。ぇ?ちょっと!」
「これで少しは動きやすくなっただろう。しばらくほっとかれたからな。髪の毛がのびきってしまったのだ。」
おかっぱ状に切られたショート。
するとルーナは横髪をひっつかむと、ばっさりとまた男前に切った。
ルーナの額に、前髪が出現した。
「あとは乾けばなんとかなるだろ。」
メイアはただ唖然とその場に立ち尽くした。
颯爽と三歩ほど歩いてすぐ口を押さえてしゃがみこんでしまった。
「うっ。」
「ルーナさんっ!いきなり歩けないのに歩こうとするから!」
するとルーナは驚いた顔をした。
「・・・・・・気付かなかった。私、歩けるようになってたんだな。今まで誰かに引きずられてたのに。アキレス腱が戻ってきたのかもしれないな。すごいな!メイアの魔法は!」
「そんなことより吐き気は!?」
「大丈夫。ただのめまいだ。」
「歩ける?」
「わからない。なんか、膝が笑いだしたんだが・・・・・・。」
「もう!無茶しちゃダメでしょう?ルーナさんは完璧に回復しているわけじゃないんだから。」
「あぁ、悪い悪い。」
「ミョンハク君。」
「あ?」
「手伝って。」
メイアがミョンハクを手招きする。
「うっわ。何これ。びしょびしょ。」
「まぁな。」
ルーナが笑った。
やっとの思いで山を登り切る三人を待っていたのはルルスとセタだった。
ここまで読んでくださった読者の皆様に感謝いたします。