50・小さな祈り
今回も少しばかり血などのグロテスクな描写がありますので血が嫌いな方は見ないで下さいね。
「メイアは?」
「まだむこうだ。」
「おまえ、行く気か?」
また走り去ろうとするミョンハクにむかってセタが止めに入る。
「・・・・・・るせ。」
「無茶だ!そんなふらふらしてるくせに行かせるわけにはいかねーよ!」
「うるせぇな!むこうは一分一秒に命がかかってんだよ!」
崖を滑り降りる。
「おいっ!」
聞こえないふりをした。
すこしバランスを崩して鋭い岩がミョンハクの足に突き刺さる。
地面に着いた。
「っ。ぅ。」
ミョンハクは刺さった岩の欠けらを素手で引き抜いた。
少しばかり地面に血しぶきがかかったが再び走りだす。
血の後が点々と地面をついて後になっているのにミョンハクは全力疾走をやめない。
ただ、頭のなかは真っ白だった。
生きててくれ。生きててくれただそれだけで。
穴が開いたように崩れた建物と木の下にボロボロになったメイアがいた。
「メイアッ!」
あわてて近づくが、傷の量が半端なく、多量出血しているため、目もあてられないほど無残になっていた。
メイアに触れる。
体温が低い・・・・・・。
メイアの口元に耳を近付ける。
虫の息だ。
でもまだ脈はある。
息もしてる。
生きてる!
メイアに意識はない。
ルルスみたいに肩につかまらせて歩くことはできない。
なら。
ミョンハクはメイアをお姫さま抱っこして小走りをするようにしたが、足の傷が痛み、走れない。
ちくしょう。こっちは一秒後だって危なくて死に直結してるのに。
何でこんな時にかぎって!
ヨタヨタと歩きながら山を上った。
息が乱れる。
少し下は崖。
メイアは石のように重く感じるし、体温はどんどん下がってる気がする。
誰一人としてかけちゃいけないんだ。
いけないはずなんだ。
たとえ・・・・・・大事なものを失って今があるのだとしても。
「ミョンハク!」
視界が霞む。
でもそこにいるのはセタとルーナらしい。
俺はその場に座り込んだ。
動かなくなったミョンハクを見て、ルーナとセタは顔を見合わせた。
すこし肩をすくめる。
「何でここまで無茶するかなぁ。」
「怪我人の手当てはどうするんだ?私は動けないぞ?」
「困ったことに今一番衰弱してるこの二人しか治療はできねぇんだよなぁ。」
「メイアが一番まずいじゃないか。ありゃ死にかけてる。でもここらの国は私やあんたたちを受け入れてはくれないよ。真実を話そうったって聞き耳すら立ててくれない頑固者ばっかだからね。」
「でも、それだけ信じられなくなるようなことがあったってことだろ?」
「まぁね。すべての始まりはあの三人なんだから驚いちゃうけどさ。」
「薬草か何かはないのか?」
「あ、あんたが踏んでんの。それ疲労回復の薬。煎じてルルスに飲ませるといい。だけどしばらく起きないよありゃぁ。」
「とにかくはやくしないと。」
「じゃあ今度はあんたが頑張るのか?」
数時間後。
くっそぉ。いてぇよ!
セタは山の獣道の中にいた。
まわりはトゲのある植物でうめつくされていた。
『まずはな。タンポポみたいなとげとげした葉っぱを見つけるんだそいつは踏むと熱くなるしかもトゲがあるからかなり痛い。生えてるところは雑草の茂み。雑草との見分けは外見だけじゃつかないから気を付けてな。それが傷薬の一部。』
やけくそになってタンポポらしき草を蹴り飛ばして歩いた。
「あつっ!」
危うく通り過ぎるところだった。
『次は花だな。バラのような茨のなかに白い花がさく。それは甘い匂いを漂わせて生きものを惑わせる。みつかるのは向こうの隣の山、底無し沼の近くだ。惑わされた生きものは帰ってはこれないような複雑な道を行く。そのうち方向感覚もなくなって匂いだけをたどっていくと・・・・・・ドボン。底無し沼にはまっちまうわけだな。その花を人は狂い死花と呼んでな、その名の通り生きものを狂わせる特殊な何かを発している花なんだ。』
『あぶねぇじゃんかよ。帰れなかったらどうする気だ?』
『回避方法はマスクを付けてけ。底無し沼までの道は狂い死花に惑わされなければすぐだ。直線に歩いていけばいい。』
つわれたけど・・・・・・真っすぐきつ。
崖じゃん。
ほぼ崖じゃん。
これのぼんのかよ!?しかもこのマスク・・・・・・ガスマスクとかの間違いとかなんじゃねーの?
あっちぃよ。
取りたいけど取ったら・・・・・・。
『いいか!?すべてはおまえにかかってるんだぞ!?とくにメイアはもうロスタイムは許されないんだからな!?殺したくも死にたくなければちゃんと帰ってこい!』
やっとの思いではい上がると・・・・・・。
ピシャン・・・・・・。
泥を踏んだ。
一面に茨が生い茂り、花を三つほど取っていく。
『いいか!?蜜は捨ててこい!花粉はあまり落とすなよ!?』
支持どおりにガクを取って蜜を出した。
『次はグミみたいな木の実だ。それは本来痺れ薬に使われるが、種を粉状にするといいんだ。実はおいしそうな色をしているが、食べたら一瞬で体が凍り付くぞ』
これ・・・・・・だよな?
よく熟した実をとり、少し考えてから青い実もとった。
それからルーナのもとへ辿り着く。
「よくやった。だが・・・・・・これ、狂い死花じゃないぞ?」
「なっ。」
「まぁいい。痺れ薬は傷口に塗ると効果があるし、煎じてのませるだけだな。」
そしてルーナが薬を煎じる間・・・・・・メイアの動きがだんだんとなくなってきた。
「メイア・・・・・・おいメイア!」
すこしセタがメイアを揺らすが反応はもちろんない。
それどころか・・・・・・。
「ルーナ・・・・・・さん?メイア、息してない!」
メイアの呼吸は断った・・・・・・。
「人工呼吸だ!心臓マッサージも忘れるなよ!」
数分後・・・・・・メイアはすこし息を吹き返した。
セタは真っ赤になって唇をごしごしとふいていた。
セタがルーナに言われた通り、薬を飲ませ、くすりを塗った。
だがその数分の間にまたメイアは息を断った。
まるまる半日が経とうとしてもそれは何度も何度も繰り返された。
そして・・・・・・ルルスが起きた。
「私は・・・・・・いったい・・・・・・何日このまま?」
「おきたか?まだ一日しか経ってねぇよ。」
セタが答える。
ミョンハクも疲労回復したらしく、目を覚ました。
目を覚まさないのはメイアだけ。
また息が途切れた。
「途切れるペースが早くなってきてる。あとこのまま何日もつだろう。」
そうつぶやいてセタは人工呼吸をはじめた。
それでも生きているメイアは不思議なくらいだ。
セタのほうは、もう恥ずかしいとも感じなくなっていた。
今回のお話はかなり死にかけるお話ですが、何とこの小説、書き始めて50話の連載が来てしまいました!((自分でもビックリ。
私は少々あきっぽいところがありますのでまさか50話も続くとは思っていませんでした。
ここまで続けられるのも読者様の皆様のおかげです。
ありがとうございます。