4・一世紀前
大きな風船が割れたみたいに魔法もこれ以上先にはいけなくなってしまった。
西洋魔法は、体が疲れてしまう。
外見が衰弱していても魔力はあまり衰弱してはいない。
でも、それに比べ東洋魔法は、外見は元気そうでも魔力がとても衰弱していて気を失って倒れこんでしまうケースもある。
東洋にも西洋にも利点があっても、両方使うということは両方衰弱するという欠点があり、それを使いこなす人間は数少ない。
だから、西東洋魔法が高度だと言われるのだ。
「あー。消えちゃった。ねぇ、言い習わしの人って何年生きてたのかな?」
「・・・・・・メイアちゃん。お辛そうです。大丈夫ですか?」
「平気へいき!私よりミョンハク君だよ!」
「俺は平気だ。」
「ルルスちゃんは、大丈夫?」
「大丈夫ですよ。」
そう言って笑いあったけど、みんな嘘だ。
平気なわけない。
リターンが弾けるくらい無茶したんだから・・・・・・。
「どうやらここは104年前の二月のようです。言い習わしができたのはあと五ヵ月前ですわ。あと、その方がお亡くなりになるのは今年。つまり、この年。あと約一週間後です。のんびり探してる暇なんてありませんよ。」
「でも、居場所わからないよ?」
「すみません。私もこれ以上は占えないんです。」
鏡のような道具にのっている情報。
一番大切な部分が剥がれ落ちたジグゾーパズルみたい。
「そっか。」
「わっ!」
後ろで軽く叫び声みたいなのが聞こえたので振り向く。
「何!?ミョンハク君・・・・・・どうしたのそれ?」
光がミョンハク君のお腹の辺り。つまり、中心を突き刺していた。
青白い光・・・・・・?
その光に恐る恐る触れるルルスちゃん。
「これは・・・・・・どうやら私たちをお招きしてくださってるようですよ?」
「だれが?」
「言い習わしを考えた方ですよ。西東洋魔法の方ですが今はだいぶ弱ってしまってミョンハクしか呼べないみたいです。ですがこのようにお力を使えるのですからやはりすごいおかたですね。」
そっか・・・・・・今魔力の強いミョンハク君しか呼べないんだ・・・・・・。
「んなことより!体が勝手に動く!」
「そのまま動いていてください。私たちを案内してくださいますね?ミョンハク。」
「本当にすごいね。100年先の私たちがこうやってくることも予知してたってことでしょう?」
「ええ。すごい方ですわ。それゆえにとても恐れられていたみたいですけど・・・・・・。」
「そんなこと分かるの?」
「ええ、あの光に触れたとき。とても悲しいオーラみたいなのを感じました。それも尋常ではない悲しみ。憎しみに発展しないのが不思議なくらいの・・・・・・このような力ゆえに・・・・・・。」
「その悲しみは分かるかも。私たちもそうだったしね。」
「上辺だけのお友達ならいくらでもできるんですけどね。」
おしゃべりに夢中になっていると、ミョンハク君がいきなりしゃべった。
「おい。この建物の中に入っていくぞ。」
見るとびっくり。
とても大きくていかにも古くさそうな建物が目の前にあった。
―――軽くホラーハウス・・・・・・。
「はい。」
「なんか・・・・・・古いし、真っ暗だね。」
明かりはミョンハク君を貫いてる光一筋。
「今まで見てきた中で一番古く、ボロいかもしれませんね。」
ある部屋の前で光は途切れ、その部屋に入る。
真っ暗で何も見えない。
「ずけずけと申し訳ありませんけどあなた自身もそうお思いでは?」
「ほう。すばらしいお嬢さんだ。気配を消しても分かるとは・・・・・・。」
何もないはずのところから声が聞こえ、部屋に一瞬にして明かりが灯される。
私たちの目の前にはソファーにゆったりと腰掛けたご老人がいた。
「ルルスちゃん、すごーい・・・・・・。」
驚きのあまり、あまり声が出なかった。
「私が感じるものは気配以外にオーラがあります。オーラは、人の人格によって生み出されるものですから、オーラを消せる人間なんてこの世には存在しませんわ。」
「悪いが俺の術を説いてくれないか?」
つったった格好のままミョンハクがいう。
「おお。そうだったね。悪い悪い。」
フッとミョンハクの体から緊張ににたような何かがなくなる。
しばしの沈黙。
「あの、お聞きしたいことがいくつかあるんです。」
最初に沈黙を破り口を開いたのはメイアだった。
「そうか。予言はちゃんと君たちにも伝わっていたんだね。これで安心できる。」
「その言い習わしのことですが、三人とありますよね。それは俺たちのことなんですか?」
「そうだね。君たちのことだろうね。強く荒々しい力と強くしなやかな力。強く繊細な力。どれも予言のとき感じたものだから。」
うなずきながら話すご老人の言葉に思わず何も言えなくなる。
ご老人の顔はにこやかだった。
だが、三人の顔は少しだけ凍りついた。
―――わかってはいた。
きっともう逃げられないんだとも思っていた。
予言は私たちを指していると、分かっていた。
それでもまだどこかで信じたくない自分がいた。
今までは逃げ道があったのに、その逃げ道が完全になくなってしまった。
やっぱり災いを呼ぶもの、なのかな・・・・・・。
そんなはずないっ!
そんなの・・・・・・そんなの・・・・・・悲しすぎるよっ・・・・・・。
「それであの・・・・・・災いってなんのことなんですか?」
「わからない。わからないんだけど、真っ暗やみに一人でたたずんでるって感じかな。具体的にはわからないんだ。」
「あの、三人が対立しなければって、どーゆーことなのでしょう?私、よく分かりませんわ。」
「そのとーりだよ。君たちは誰一人としてかけてはならない。たった一人でも・・・・・・ね。」
「やはり、私たちがくることは予言されていたのですか?」
「三年前くらいに唐突にね。」
「すごい!ルルスちゃんでも100年先までは読めないのに!」
「はは。わからないほうがいい。だろう?サントラーの血、ルルス・・・・・・かな?」
「はい。その通りですわ。」
ルルスは悲しそうに眉をひそめてから頷いた。
その様子を見て、メイアが"しまった!"と思い、口をつぐんだ。
「それで、そちらの子が・・・・・・セイ家の血、ミョンハクだね?最後に君だ。君の血は実に分かりづらい。どちらも半分半分なのかな。きっかりと。メイアさん?」
「私、生粋の血は継いでいないんです。親も凡人・・・・・・ですし。」
申し訳なさそうにメイアが言うと、ご老人はにこやかに笑って続けた。
「だから君は西東洋の属なのか。」
「え。はいそうです。」
「今はまだ、セイ家の血も、サントラー家の血も生まれてはいないが、西と東は啀み合っている。あと一年後、私が死んだのちに西洋魔法と東洋魔法との争いあいがはじまる。それが強い力を持つセイ家サントラー家の始まりであり、戦争と平和の始まりだ。そのさらに後が西東洋の始まりとなる。」
「え!ですがあなたは・・・・・・。」
そう声をあげたのはルルスだった。
「シュイランだよ。」
そう言って、やさしく微笑むシュイランさん。
「はい。シュイランさんは、西東洋魔法の方ですよね?西洋も東洋も生まれてはいないとおっしゃいましたけど、シュイランさんは、生まれもった西東洋魔法の方でしたの?」
「どうだろう?そうかもしれないね。けど、どちらでもないのかもしれない。私はこの世に生まれ、西洋とも東洋ともない似通った存在なのだよ。」
「そうですか・・・・・・。」
「ところでここで長話しをしていると君たちはこの年の人間じゃないからね。魔力を消耗しすぎてもとの世界へ帰れなくなるぞ。」
「そうだな。そろそろ帰ろう。」
念を押すように口を開いたのは今まで考え事をするように黙っていたミョンハクだった。
「そう。じゃ、かえろっか?すみません。おじゃましました。」
「おじゃましました。あ。これだけ言わせてくださいね?あなたには私達がいます。ですから、自分をこれ以上責めないでください。」
「ははは。これは頼もしい。では君たちをよく思いだすとしよう。」
「さようなら。」
「おじゃましました。」
「失礼しました。」
三人であわせたかのように頭を下げ、ばらばらな台詞を口にした後、また、三人で力をあわせて帰ることになった。