26・ハンターと新たなもの
剣、光線、体術、バリア、たまにあの旅人の結界の跡があったりした。
それを見つけるたびにミョンハクが妙な顔をし、次へ次へと急かしていく。
そして夕方。
「ねぇ。もう疲れたぁ。休もぅ?」
「これ以上の戦いは無駄です。体に限界がくるだけですから。」
「っ。あともう少しってところで!」
グゥゥウッ。
ミョンハクが怒り気味の最中、妙な音が木に寄り掛かっているメイアから聞こえた。
「お腹へって・・・・・・さっきっからムカムカするよぅ・・・・・・。」
「体術に欠かせないものは食物、水分、睡眠ですからね。」
「魔術は睡眠だけは絶対欠かせないよね。魔力だけが減ってちゃったら体にも負担がかかってくるし・・・・・・。あ。あんな所に人が。」
するとルルスは小走りに近づいていった。
「すみませーん。この辺りに町や人がすむところってありましたっけ?」
「え?町ならこの山をおりたところにあるけど。」
「そうですか。ありがとうございます。」
「まって!山をおりるにもあともう一日は必要になるよ!あなた、ハンター?旅人?どっち?」
「どっちもですよ。」
「私も今夜は野宿だけど、あなた何ももってないのね。これをあげる。それと、あの木と、その木とあれは、食物の木。ベリーやグミの木だからね。じゃあ。」
「ありがとうございました。」
この時少しルルスは思った。
もし翻訳されなければベリーやグミなんて本当に解ったのだろうかと。
ルルスが戻る。
「ルルスちゃん。すごぉい・・・・・・。」
「沢山何かをもらいましたけど・・・・・・これはなんでしょうね?」
「ミョンハク君毒味よろしくね!」
「何で俺が・・・・・・。」
そういいながら一つ口へ放り込む。
「・・・・・・妙な味だが・・・・・・ガムみたいな感じだな。」
「ありがとう。でも、この山下りるのに一日もかかるような山だったんだね。」
「本当ですね。実際は効率よく探すために宙を飛び回っていましたし。」
「うん。とりあえず、いっただきます!・・・・・・うっ。変な味。何?食品無理矢理ガムにして保存食にした的な・・・・・・?」
「かわった味ですね。」
「全然お腹いっぱいにならないけどもう一つ食べたいとも思わないよ・・・・・・。」
「まぁ、あるだけマシと思え。」
「あっ。川だ!体に獣の体液ついてて気持ち悪いから洗ってこようよ!ね?ルルスちゃん。」
「洗礼・・・・・・ですか?」
「ルルスちゃんにはそうなるのかな・・・・・・。ミョンハク君は、絶対のぞかないでよね!?」
「はっ!誰がおまえみたいな板見るかって。」
「板じゃないもんっ!ちゃんとあるもん!」
メイアが自分の服をひっつかんだその瞬間。
「メイアちゃん?そこから先はダメですよ?」
にこりと笑って人差し指を口につけたルルスが止めた。
「きっとミョンハクが見たら倒れちゃいますからね?」
ルルスのからかうような笑い顔を見て、メイアも思わず笑いだす。
「プッ。そっかぁ?アハハッ。さ、早くいこう?」
笑顔がこぼれていく。
「ええ。これ以上暗くなりすぎないうちに。」
川で体を洗ったメイア達は魔法で体を乾かすとすっきりとしてミョンハクの元へむかった。
「うぅっ。水で洗うとさぶいね。」
「自然の力はさすがです。とてもさっぱりしました。」
「ミョンハク君は、洗わないの?」
「明日の朝行く。」
「よくあの獣の体液ついたまんまでいられるね。」
メイアがミョンハクに触れる。
「冷たっ!死人の手で触るなよっ!」
「寒いってば・・・・・・なんかあったかいものは・・・・・・ミョンハク君しかないよね。」
「なっ!何で俺!?やめろっ!くんな!触んな!」
「わかった。100歩譲って抱きつくことはやめるから、手、貸して?」
本当に青白くなったメイアを見て渋々手を伸ばす。
「ルルスちゃんも!手だけはあったかくなろうよ。」
「私はいいです。ミョンハクは、メイアちゃんのほうがよろしいでしょう?」
にこっと笑う。
「はっ!な・・・・・・」
何言ってと言おうとしたとき、メイアがそれをさえぎった。
「何言ってんの!早くきて?じゃないと抱きついちゃうぞっ!?」
そういってルルスをひっぱってきた。
メイアはアイテムをマントに変えると三人を包めるくらいの大きさにした。
それでもがちがちと震えるメイア達を見て、ミョンハクは口を開いた。
「そんなに寒いのか?」
「・・・・・・う、うん。さむい。」
「魔力、体力ともに少しばかりきついですからね。」
「ちょっとまってろ。」
そう言って、剣を取り出し、次々に木の枝を切っていく。
沢山枝が集まると、一ヶ所に集め、雷剣を使う。
とたんに枝木に雷が落ち、火が点いた。
自分だってそんなに体力は残っていないはずなのに。
「これは、敵に自分達の居場所を教えるようなものだからあまり使いたくはなかったが。まぁ。これで少しは楽になっただろう?」
「うん。ありがとう。」
「ミョンハク・・・・・・やさしいじゃないですか。彼にはやさしくなかったのに・・・・・・!」
クスッとルルスが笑う。
彼とは、異次元を旅するといったこの世界であったあの旅人のこと。
「るせ。とりあえず俺はあの木の上で寝る。」
そういってさっさと木に登り、後に二人も火のそばで寝入ってしまった。
そして数時間後・・・・・・。
ゾクリ。
ひんやりと冷たいものが背中を駆け抜けていく。
『誰っ!』
三人同時に響いた声の先にいたのは・・・・・・。
獣の群れ。
マントを剣に変えるとメイアは獣に切り掛かった。
「やぁっ!?」
切り掛かったと同時に宙へ飛ばされ、宙でバランスをとる間に剣を弓矢へと変える。
地面に着地する前に放たれた矢は三つ。
でも、大きい図体の割に動きの早い獣に矢は一本も刺さらない。
そして、メイアの目の前に・・・・・・。
「盾っ!」
盾ごと殴り飛ばされたメイアは怪我をして盾はボロボロになり、使えるものではなくなってしまった。
と、どこからか、光線が発され、獣に直撃。
これは・・・・・・ルルスの鏡から発される攻撃だ。
その光は強ければ強いほど壊す能力が高くなる。
獣は焼けた背中を特に気にする様子もなくルルスに牙を向けた。
「まてっ!」
見るとミョンハクが書き連ねた決壊の上にちょうど獣たちがきていた。
「はぁっ!」
声とともに剣は決壊の円の中心を貫き、地割れが起こり、獣は光になり消えていく中で一つだけ消えないものがあった。
ひらり。
それは一枚の紙。
子供という噂は当てにならないままだった。
「・・・・・・カード・・・・・・ってゆうか、お札・・・・・・?」
ルルスの手に滑り込む。
「これは、魔力ではありませんね。霊力・・・・・・おそらくは霊感がとてもお強い方でしょう。」
「へえ!」
「でも、波長が似てるのかもしれません。ほら。本と引き合っています。」
本が光っていた。
「本当だぁ。」
「ああ。そうだな。じゃ俺は寝る。」
そして三人が眠りについたのは明朝だった。
そして昼。
三人が起きたときに異世界へワープするための準備が始まった。
「ついにあの旅の方は現われず・・・・・・ですか。」
「そうだね。でももう時間がないからワープしなきゃね?」
あの旅人の話をされてミョンハクは機嫌が悪くなる。
なんであんなやつの話ばっかするんだ。
「もー。ミョンハク君は、何でそんなにあの人のこと嫌うの?」
「べつにっ。」
何でって・・・・・・あいつが俺の大事にしていたものを奪っていこうとするからだろう。
なぜそんなことがわかるかって?そんなん直感だよ。
あいつの黒髪からのぞく蒼い瞳が俺の頭に警戒音を響かせた。
“こいつは危ない”って。
「ミョンハク君?」
いきなりメイアに覗き込まれ、体を仰け反る。
ただ、“こいつは危ない”“大事なものを失いたくはない”って・・・・・・大事なものを・・・・・・。
「ミョンハク君?ねぇっ。早くしないと時間なくなっちゃうよ!必要な物持った?」
「ミョンハク。次の異世界はどんなところでしょうね?」
「あいつに会わなければどこでもいい。」
直感だったんだ。ただ、あいつに大切な何かを奪われると思った。今までそんな風に思ったこと一度もなかったのに。
「むぅー!私のことは無視するくせにルルスちゃんにはちゃんと反応するー!わかった。ルルスちゃんが好きなんだなぁ?」
「はぁっ!?」
唐突なことばについ大声をあげてしまった。
「ほらぁっ!ルルスちゃんの話題になると反応が早い!」
「っ!なんでそうなるんだよっ!」
「・・・・・・なんか、寂しくなりますね。」
「何が?」
「メイアちゃんとミョンハクがあまりにも仲がよろしくて・・・・・・そこに未来はあるのに私はいない・・・・・・。」
「あのさ、さっきっからマジ何いってんの?」
笑え、笑えよ。
何で笑っててほしいのに悲しそうな顔するわけ?
わけわかんねーよ。
俺は、おまえたちに・・・・・・おまえに笑っててほしいんだよ。
そのために守って強くなるって決めたんだ。
そのまま異世界へ飛ばされた。