22・闇と孤独
メイアが前回、闇と戦いました。今回はルルスが立ち向かいます。
メイアが戦っている一方でルルスも戦っていた。
「アハハハハハ!」
何がおかしいのかもわからないのに目を見開いたまま乾いた笑いをする自分が目の前にいた。
ゾクッ。
背筋に悪寒が走る。
・・・・・・恐い。
「・・・・・・何がおかしいんですか?」
「アハ。アハ。アハハハハハハ。何が・・・・・・おかしいかですか?」
自分より低めの声が響いた。
「何を笑っていらっしゃるんですか?」
勇気を振り絞って尋ねる。
「あなたの事ですよ。闇のくせに闇を認めたがらないあなたのことを!」
「闇・・・・・・を・・・・・・?」
違う・・・・・・。
そんなことないはずです。
だって、東洋魔法は光と闇を受け入れてから魔法を使いこなせるようになるので、闇を受け入れないものは魔法が使えないはずなのですから。
そのためのシンボルマーク。
闇を表す月に包まれた光を表す太陽なのです。
月と太陽はあまりにもシンプルだと思うかも知れません。
だけど、それこそが闇を表す最前のさくだとご先祖様がお考えになりました。
「そんなこと・・・・・・ありません。闇は・・・・・・闇は私のなかにあります。」
「そう・・・・・・あなたの中に・・・・・・ね。つまり、それはあたしなんですよ。あなたに受け入れてもらえずずっと拒否しつづけられたあ・た・し。」
ダンッと音がして下を見ると魔法陣が描かれていた。
一瞬の隙にモンスター、つまり、その者に取りつく生きものを呼び出した。
ルルスはあわてて一瞬で盾を使い攻撃を防御するが、盾は一回しかもたず、あっという間にただの光になって消えた。
自分に取りついているモンスターを神と呼び、その神を呼び出せるのは最上級魔法でなければ神は呼び出せなかった。
それだけ相手も自分も強くなければ使いこなせないものなのだ。
ビリビリと手が痺れる。
「なぜ・・・・・・あなたが神を・・・・・・?」
「あたしのなかにいるんですよ。本当は・・・・・・あたしが眠っていたように。だから、あなたも神を呼び出せます。」
感情のない声が響いていく。
「神を呼び出すことは長老達でも難しいというのに・・・・・・ですか?」
「やはり。あなたはあたしを認めたがりませんね。闇を受け入れれば闇は光よりつよく、安定できるというのに。」
神を撫でながら闇は話す。
「強すぎる闇は危険です。」
「でも、事実、あたしはあなたの中に存在する。」
ふっと手を振っただけなのにそこから刃物が次々ととんでくる。
運動神経がすばらしくいいというわけではないのでいくつか刃物が擦れていった。
「っうっ!」
上級魔法を上回る上級魔法を闇は使っていた。
あんなにも体を動かさないであんなにも簡単に攻撃をしてくるなんて・・・・・・!
大体東洋魔法は文字を書いたり呪文を唱えたりしなければ使いこなせないはずなのに何故こんなにも次々と打ち出してこれるのでしょう?
考え事をしているうちに神が宙を飛び、ルルスの目の前にくる。
あわててメイアはバリアを張るが、これもいつまで持つかは分からない。
盾が砕き壊されて使えない魔法となった今、自由に動く盾はない。
「くぅっ!」
バリバリと騒音が響き渡る。
「何故そこまでして闇を認めないのです?」
闇に・・・・・・そうでしたね。
闇に囚われてしまえば今の私はなかったでしょうし、楽だったでしょうね?
「あなたは闇を忘れてはいませんでしたか?」
「あなたの言う通り、かもしれませんね。でもっ!東洋と闇は仲間なのでしょう?何故仲間をあなたは攻撃してくるのですか?」
刃物が当たった傷口が痛くても震える手足で頑張る。
「闇はね・・・・・・拒否すれば拒否するほど深くなるものなのですよ。あなたは一度もあたしを否定しなかったと言えますか?闇を否定できても光を否定できなかっただけではないのですか?自分だけの強い意志が必ずあったと言えますか?」
ミシミシッ。
神がだんだんバリアを食い破っていく音がする。
ついにヒビが入ったのだ。
「逃げているだけではいつかは死ぬということを・・・・・・忘れてはいませんか?」
バリィンッ!
ついにバリアは破られ、ドラゴンのような神に跳ねとばされた。
倒れると同時に意識を失いかけた。
何とか意識を保つと、今度は、体中がマヒして腕どころか指一本動かなくなってしまった。
「立ちなさい?」
子供の頃以来。
初めて自分は一人になった。
孤独だと思った。
「あなたは戦えるでしょう?たとえ今、その身体が偽物だといわれても強くいれる程の覚悟があなたにはないでしょう?あったら、あたしも暴走はしなかったのかもしれませんしね?」
ルルスはその言葉を聞いて虚しくなった。
初めて・・・・・・こんなに自分が無力だと知りました。
・・・・・・今まで私は自分を買い被った事はないと思います。
だけど・・・・・・こんなにも無力だとは思ってもこなかった。
でも、私は無力だったんですね・・・・・・自分の闇さえ封じ込めないほど私は何もできない・・・・・・。
ただ・・・・・・悔しい・・・・・・。
悔しいです。
自分さえ制御できない自分が。
「ねぇ?あなたには守りたいものとかないんですか?本当にないんですか?強さとは力だけですか?」
はっとした。
そうです。何を忘れていたのでしょう。
私には仲間がいます。
たとえ、今私が敵に刃物を首に突き付けられていようとも、私には仲間がいるんです。
私が死んだらきっと悲しんでしまいます。
誰の悲しい顔も私は見たくはありません。
それは、二人のためにと言うわけではなく、私が私自身のためにすべきことを見つけること。
きっとここで挫けて、そのまま挫折することもできるでしょう。
でも、それならきっと、誰にだってできます。
私じゃなくたっていいんです。
むしろ、私にしかできないことをしなければならない。
だから・・・・・・私はあの二人を困難から守る!
二人のためにではなく、自分のために!
そう思ったとたん、強くなれた気がした。
あちこちから力が湧き出てくる。
このときルルスは自分の体から光を発していたことに気づかなかった。
パァンッ!
何かが思いっきり弾けた音がして、敵は弾き飛ばされる。
「え?」
「あなたはあなたの扉を開きました。」
むっくりと起き上がりながら言った。
心なしかどんどん小さくなっているように見える。
「だから、あたしはまたあなたの中で眠るとしましょう。」
どんどん闇は小さくなる。
「何を言ってるんですか?あなたも一緒にいくんですよ。私と。」
闇に向かって手を伸ばした。
「無視すれば闇は深くなるとあなたが言ったのでしょう?ならば眠らないでください。新たな旅のはじまりです。」
にこりと笑ってみせる。
「闇を受け入れるのは簡単ではありませんよ。闇は時に獣になります。光よりもっと強い獣に・・・・・・あなたの今が存在しないと言われたとき、闇だけに引きずり込まれない意志がありますか?」
「私はまだ弱いので、よくわかりませんが、あなたといたら、強くなれると思います。」
「・・・・・・分かりました。いいでしょう。ともに手を取り旅の行方を・・・・・・。」
すっと闇はルルスの中へと入り込み、消えた。
幻想的な世界のその先、ルルスの目にしたものは、メイアだった。
「メイア・・・・・・ちゃん?」
二人はほぼ同時にここへ帰ってきたのだ。
「ルルスちゃん?」
「よかった。もとの世界に帰ってこられたみたいですね。ですが・・・・・・ミョンハクは?」
「まだ・・・・・・ねぇ?自分と戦った?」
「ええ。光と闇はどちらも受け入れなければならないと。」
このときの三人はまだ何も気付いてはいない。
「やらなきゃやられる。光があるからこそ闇がある。」
その意味も、本当は何を示しているのかも。
さて、こんな戦闘をした二人だけど・・・・・・ミョンハクはいったいどうなってるでしょうね?