111・エデネ=ティクオ
「しかし、何でまだ異世界に飛ぶんだ?」
ミョンハクが尋ねたが、誰も答えなかった。
それどころかセタは驚きの声を上げた。
「まさか。そんな馬鹿な!ここは・・・・・・エデネ=ティクオか!?いや、似てるだけかもしれないし。」
「いいえ、いいえセタ。ここはあなたの生まれた国、エデネ=ティクオです。」
夜に星たちが瞬いている。
「なんで・・・・・・。」
「私達もあなたとともに戦うためです。」
「光か?」
「ええ、私たちの望みは能力全てを消しさってもかなえられるものではありませんでした。でも、かなえられた理由は3つ、私達とあなたたちの共通する願い、私達の存在。そして最も重要な最後は・・・・・・“今回の敵はセタ一人では倒せない”ということです。」
「どういう事だ・・・・・・?」
「さあ。」
ルルスが肩をすくめ、メイアはのほほんと声を発した。
「星がきれいだね~?」
「そうですね。」
「これが光と闇の差・・・・・・あんなに沢山の星を私たちは壊したのにそれでも瞬いている。」
「光は何億年とかけてこうして届きますからね。今、星が一つ壊れてもその星が消えるのはずっと後です。」
「暗い話しすんなよ。」
ミョンハクが苦笑する。
「そうですね。」
ルルスが少し微笑んだことにミョンハクはすこし顔が赤くなり、驚く。
その様子を静かにメイアが見ていた。
四人になって知った感情・・・・・・“片思いは辛い。それでも耐えなければならないときもある。”
ルルスちゃんはかわいいからモテて当然だと小さい頃から諦めていた。
そんな彼女が自分の友達であることを誇りに思おうとしていた。
だからメイアはこの旅が始まるまで・・・・・・友達以上の“好き”を知らずにいた。
ふっと空を仰ぐ。
「メイア?」
「何?」
ミョンハクに呼び止められて振り替える。
「前にも言っただろ。おまえが黙ってると気持ち悪いんだよ!」
「気持ち悪くて結構です~!本当に・・・・・・ルルスちゃんばっかり特別扱いなんだから!」
メイアが苦笑した。
「はあ?」
「昔のこと・・・・・・思い出してたの。私、旅する前にミョンハク君に応援するって言ったなって思って・・・・・・。」
再び遠くを見るメイア。
「だから・・・・・・今、ルルスばっかりって言ったのか?」
「実際、今も顔赤くしたしね。」
意地悪く笑う。
「何。言ってんだ!おまえは!」
「図星!」
四人が騒ぎ立てていると誰かが出てきた。
「誰だ!うるさいぞ!」
それはおじいさんだった。
「俺はセタだ。俺のことがわかるか?」
セタが胸をトンッとたたいた。
「セタ・・・・・・?まさか・・・・・・フォンスか?あのフォンス家のゼンか!?」
「そうだ。」
「フォンスだ!フォンス・ゼンが帰ってきた!みんな!起きろ!フォンスが仲間を連れて旅から帰ってきた!」
老人はバタバタと走りだし、騒ぎ、様々な家の明かりが灯され、四人はあっという間に囲まれた。
「フォンス!フォンス!ああ、やっと!」
「お願いだ!我らが耐えぬいた辛い時間を苦労を・・・・・・ムダにはしないでくれ!」
とか何とか。子供から動物まで。
犬が吠え、人々は騒ぎ、赤ちゃんは泣きだし、何がなんなのかわからなくなっていた。
「どけ!どくのだ!それはまた改めて明日頼めばよかろう!きっとフォンス御一行はお疲れだ!」
「どいて、どいてくださいです・・・・・・っキャ。マココの足を踏まないでください~!痛いですー!」
のぶとい声と可愛らしすぎる声が響き、四人の前にミョンハクと同じくらいの背の高さの20~30歳くらいの男性と、男性の足の高さくらいしかない女の子がヒョコッと顔を出した。
「はじめまして~、長老の命によりお迎えにあがりました、あたし、マココと、」
ヒョコッと飛ぶように前に出てきて、男性を小さな手のひらで差した。
「リクリアです。さあ、こちらへ。」
四人がついていくとマココという女の子が小走りについてきた。
「待って~、リクリア、待ってくださいです~!」
「あー、お前は抱っこしたほうが早いな。」
「ム、バカにしないでほしいです!マココ、もう子供じゃないです!」
「うるさいよ、チビ。」
「チビじゃないです~!」
なんか、会話が・・・・・・親子みたいだ・・・・・・。
と四人は思っていた。
そんなとき、マココの体が宙に持ち上がったと思うとリクリアの腕にスッポリと収まった。
「キャ!リクリア!おろせですー!大切なお客様がいるのにマココに恥をかかせるですか~!?」
「ああ、かかせるね。」
「リクリア、意地悪ですー!!」
ジタバタと暴れる足に履いている靴には、なるほど、踏まれた靴跡がついていた。
さっき痛いと言っていたのはあんなに小さい足が踏まれたからなのか。
「お待たせしました、こちらが長老の家です。」
「正式には後にリクリアの家になるです。」
ガチャと扉が開くと長老と呼ばれた男性が座っていた。
もう目が見えないらしい。
「ただいま帰りました。父上。」
「ウム。もうすっかりフォンス・ゼンの姿を知るものはいなくなってしまったからな。わしも見るのは初めてじゃ。」
「気配・・・・・・ですか?」
ルルスが呟くと長老がピクリと反応した。
「これは失礼した。私はここ、エデネ=ティクオの長老、先代の言い伝えよりフォンス・ゼン殿の帰りをお待ちしておりました。そしてこちらがわしの息子と娘のマココとリクリアじゃ、で、フォンス殿、そちらの御方は?やはりこの国のかたがたではないようで・・・・・・?」
「異世界から着た・・・・・・えっと・・・・・・お前たち、どこから来たんだ?」
セタが三人を見る。
「私は・・・・・・いえ、元本体はライランからきました。」
ルルスが下を向く。
「え、じゃあ私は玖波已からきました。これ、名前はどっちを言うの?」
「“俺達”は亜賺喃から来ました。彼女は“メイア”、そして彼女が“ルルス”俺はミョンハクです。」
ルルスが口を開いた瞬間、ミョンハクが口を挟み、いつになく丁寧な口調で言った。
「ミョンハク・・・・・・。」
「・・・・・・言っただろ。お前たちがどこの誰だろうと関係ねえ。俺にとってはメイアとルルスなんだよ。」
「ミョンハク君・・・・・・。」
ルルスが何かを言い掛けて再びミョンハクが口を挟み、その言葉にメイアは感動をしてミョンハクを見る。
「ふ、二人してみんじゃねえよ!」
「ほう。フォンス殿はどうやら仲間という絆を得たようですな。」
長老がピクリと方眉を動かすと、四人は部屋へ案内され、“危険な日”まで休むことになった。
朝になり、朝食にパンのようなものを頬張るメイア。
「おいしいっ!」
瞳を輝かせるメイアを見てセタがふっと笑った。
「大げさだな。」
「だって本当においしいんだよ!?何で笑うの?」
「・・・・・・敵だったことが嘘みたいだなって。」
「・・・・・・そうだね。」
「ところで何がそんなうまいんだ?俺には普通に感じるんだが。」
ミョンハクが突っ込むとメイアは目だけをミョンハクに向けながらパンを頬張る。
「味が分かると何でもおいしいの。私たち、しばらく味覚もなかったし、お腹もすかなかったから美味しいのか不味いのかわからなくて、食べなくても飲まなくても平気だったんだけど・・・・・・あれも闇の細工の一つだったから、今はちゃんと食べないと死んじゃうかも。」
明るく話すメイアだったが、それはメイア達にとってついことだったことはだれもが知っていた。
そしてセタの本名、フォンス・ゼンの名前を知り、先代、先々代、現セタの英雄伝説を知り、危険な日について教えてもらった。
そして今までセタと名乗っていた理由も、外でセタと名乗る理由も。
霊を封印するセタたちにとって正式名称は命と同じで、霊に名前をのっとられてはならない。
のっとられたときその人物は死ぬ、もしくは生きたまま魂を一生拘束され続ける。
簡単に言ってしまえばLLSとMSCと同じ状態になるとのことだった。
そしてこのエデネ=ティクオに来て何より驚いたのはマココが20でリクリアが27だったこと。
マココが子供にしか見えないことと、リクリアがマココと対して年齢が変わらないことは驚きだった。
ミョンハクとセタは自分達の置かれた境遇に理解しあい、ルルスは先見について未来を危険にさらさないために先見について一人、悩んでいた。
ちなみにエデネ=ティクオについたルルスは光との契約でもう先見をすることはできなかった。
そしてセタを悲しみから遠ざけることができないことも・・・・・・知った。
だが、危険な日は年に一度、後のこり一ヵ月程でやってくる。
これが本当の最後を指し示しているとルルスは覚悟した。
戦い終わった後の未来を少しでも変えようと・・・・・・。
そして早々と過ぎ行く一ヵ月後、ついに危険な日がきた。
細い三日月が赤く光っている。
「なんか、亜賺喃の儀式みたいだね。」
「ああ、毎年恒例の・・・・・・。」
「セイ家とサントラー家で執り行われた神を封印すべき平和の儀式ですよね。」
メイアが呟くとミョンハクが儀式など忘れていたかのように月を見上げ、ルルスは亜賺喃に送り込まれたことを知らないときのルルスの記憶をたどっていた。
「私達のは満月だったけど。結局、亜賺喃ってどうなったのかなあ。私達、無差別に星を壊してったからもしかしたらなくなってるかもしれないよ。」
「準備はできましたか。」