107・信じる力
地面に倒れこんだミョンハクに、手を顔に持っていったまま動かなくなったSMC。
そう、あの光魔法を受けて吹っ飛んだ程度ですむわけがないのだ。
SMCの魔法を阻止しようとしたのは・・・・・・メイア。
動きが止まったSMCを横目にミョンハクに駆け寄ったセタ。
「大丈夫か!」
「ん。」
ミョンハクが起き上がる。
「アホじゃないのか!?あいつらはメイアでもルルスでもない!姿が同じでも違うんだ!敵なんだよ!手加減なんかするんじゃねえ!」
「でも・・・・・・今、メイアの声を聞いた。」
「はあ!?」
セタが珍しく激怒していた。
「聞いたんだ・・・・・・今、やめてって。だからきっと・・・・・・俺、今、無傷なんだと思う。」
確かにミョンハクは吹っ飛んだだけで目立った外傷はなかった。
止まってしまったSMCを見た闇はSMCの脳内に命令をした。
〔戦え。〕
結果、五分五分だったメイアとSMCはSMCが勝った・・・・・・が、鉄仮面のようなSMCの顔に涙が流れていた。
「泣い・・・・・・てる・・・・・・!?」
セタが驚く。
「やっぱりメイア達はあそこに入るんだ。ちゃんと・・・・・・体のなかに。」
確信したようにミョンハクが頷くとそれを見かねた闇がついに大声でSMCに命じた。
「何をしているんだ!SMC2995!奴らを倒すんだ!LLS0025を見習え!」
LLS0025は歌い続けていたが、痙攣のようなものを起こしていた。
「SMC2995!LLS0025!」
「てめぇか・・・・・・黒幕の本体は・・・・・・!」
ミョンハクが鋭く声の聞こえるほうを睨み付ける。
二人して戦闘態勢に入るが、SMCがついにメイアに破れ、辛そうに口を開いた。
「・・・・・・・ダ・・・・・・メッ!・・・・・・逃げて!」
声と同時にミョンハクの顔スレスレを光魔法が飛んでいった。
その先に別の時空がある。
「に・・・・・・げて・・・・・・早くっ!!」
二人は走りだし、ミョンハクはメイアを振り返ったが、メイアは涙を流しながら寂しそうに笑っただけだった。
影はメイアの強烈な光魔法に触れることすらできずに、SMCとLLSに二人を捕まえて殺すように命じるが、LLSは固まったように動かず、SMCがしばらくあとに二人を追い掛けるが、遠く見えて遠くない道、もう二人は外に出てしまった。
「違う!こんなもの・・・・・・先見したものと違いすぎる!君達は我らの言うことを聞き、感情はなくなっていたはずだった!ミョンハクという青年が君達に裏切られたと思い込み、LLS0025はセタとかいうのを始末し、それに激怒したミョンハクは君達にヤケを起こし、君たちが始末するはずだった!ここから逃すなんてシナリオはなかったのに!くそっ!あの光め!記憶とセタを送り込んできたから!」
そしてメイアとルルスの感情はさらに厳重に封印され、光から送られた使者はSMC2995とLLS0025が殺し続け、そのたびにSMC2995がLLS0025を守るため付いた傷は“審判者”の血をSMC2995が飲むことで回復させていた。
メイアが以前、審判者と戦ったとき、審判者の血がついてあったはずの傷が消えたのは、メイアが改造された闇の使者であり、闇で言う光の住人でもあったからだった。
意志とは関係なく自分達に殺されていく人々や使者を見るたびにメイアとルルスの心は閉ざされ、死んでいった。
もう抵抗する気力さえ残ってはいなかったのだ。
ルルスの呪文はとかれ、時にはルルスの歌だけで星が滅びた。
感情が死にかけてもしななかったのは体のせいもあるが、セタとミョンハクが生きていると思うことでなんとか生き延びていた。
一方、セタとミョンハクは光から送られた本によって異世界をまわり、ルルスやメイアに破壊される星を逃れていた。
「なあ、おまえはどう思う?」
ミョンハクがセタに話し掛ける。
「あ?何。」
「なんであいつらじゃないといけなかったんだろうって。俺、あの時メイアの顔見たんだ。強がってた。永遠のさよならみてえな顔して。」
「・・・・・・思うよ。俺だって信じたくない。でもこれが現実なんだ。だから戦わなくちゃならない。いつまでも逃げるわけにはいかないから。」
「・・・・・・きっとやつらはあの変な声に縛られてる。だから俺たちが助けだしてやるしかねえんじゃねえのかなあ。」
ミョンハクがあんまり感心なさそうにし光から送られた本をめくっていた。
傷をいやすのも、どこかに移動するのもメイアやルルスに任せていた二人は今、下手には動けなかった。
だからといって上手な動き方も分からなかったわけだが。
「・・・・・・んな考えもありかもな。でもどうやってあいつらと戦えばいいんだろう。メイアが逃げてって言ってからどうなったのかわかんないし、実際何日経ったのかもわからない。こうしている間にも世界が滅んでるかもしれないのに・・・・・・どうすれば・・・・・・。」
するとミョンハクが持っていた本が光りはじめ、声が漏れた。
「決心がついたようですね。ならば闇の入り口まで私達が案内いたしましょう。あなたたちならきっと勝てます。すべては生命と感情から生まれるのです。闇も光も区別をするという一つの感情から生み出されます。あなたたちの強さも感情でずいぶんと左右されるものですよ。」
「待ってくれ。メイアやルルスを倒したら・・・・・・やつらは・・・・・・死ぬのか?」
「・・・・・・わかりません。正確にはお答えできないのです。彼女達の体は元となった方の結晶のようなもの。闇がその結晶にどれだけ手を加えたかがわからないのです。手の加え用によっては・・・・・・闇の力が強くなれば強くなるほど光の世界には帰れなくなるでしょう。もともと存在してはならなかった命なのです。闇が・・・・・・己の欲望のためだけに作り出してしまった命でしたからね・・・・・・そのために失われる命があったとしても関係ないと言い張るでしょう・・・・・・つまり、時間が経てば経つほど生還する可能性は低くなります。でも、少し考えてくださいね?彼女達は生きていても帰る場所はありません。もうないのです・・・・・・闇がいじくったばかりに三人がいた国の人たちすべての人の記憶からミョンハク、あなたを除いた二人の記憶はありません。それは・・・・・・彼女達にとって幸せでしょうか?」
『帰る場所ならある!俺等が作る!』
ミョンハクとセタが同時に言った。
「それは頼もしい限りです。でも、忘れてはいけませんよ。彼女達やあなた達がもつ可能性は無限です。もしかしたら彼女達が関わった人たちすべての記憶から彼女達が消えるかもしれません。彼女達の姿を消し、最初からなかったことになるかもしれません。もちろんあなた達の記憶からも・・・・・・それでも助けだしたいですか?」
『ああ。』
二人は同時に頷く。
「絶対世界は滅ぼさせない。」
ミョンハクはメイアやルルスを倒すと決心したらしかった。
「例えそれが俺たちにつらい結果になったとしても。」
セタも頷く。
「俺たちは先に進むことしかできねえからな!」
ミョンハクがニッとセタを見て笑う。
「ああ。それに・・・・・・あいつらを絶対一人にしない。変わっていく自分に悩んだだろうけど・・・・・・今度こそ本当に恐怖や偏見から解放されるんだ。例え・・・・・・何一つ存在した証拠さえ・・・・・・残らなくても。」
「やはり・・・・・・我々のような実態よりも実体を持ち、感情があるもの達の方が逞しく、強いのでしょうね・・・・・・さあ、どうぞ、あなたたちの幸運を祈っています。」
そうして二人は再び闇へと訪れた。
光の方では――…‥。
「よかったのですか?」
「何がですか?」
「先見では、あの二人は・・・・・・。」
「死んでしまった・・・・・・ですか?」
「・・・・・・はい。」
「でもそうならぬように私たちも先手を打ってきました。現に変わっているでしょう?闇が作り出したSMC2995とLLS0025は本来・・・・・・つまり、先見では闇には逆らわないはずでした。改造を施され、感情がなくとも動くロボットのような存在になるはずでしたから。でも・・・・・・逆らいました。それは私達がすべての記憶を返し、感情を強めたからではありません。すべてSMC2995、LLS0025の中にいるメイア、ルルスの二人の意志です。どんなに私達が記憶や関係性を戻しても彼女達がその出来事を受け入れられなければ・・・・・・突っ張ねてしまえば・・・・・・逆に感情を取り出しやすくなったでしょうね。でも、そうはならなかった。彼女達が望んだのですよ。自分達が生きる未来を・・・・・・。」
「だから・・・・・・世界すべてが左右されると知っていても三人に記憶を・・・・・・?うまくいく自信はあったのですか?」
「いいえ。いいえ・・・・・・そんなものありませんでした。でも・・・・・・だからこそ先見のようにはならなければいいと長い間思い続けてきました。」
「あの少年・・・・・・セタという少年には私たちにも予想外でしたよね。」
「ええ、彼は何処から異世界を旅する力を得たのか・・・・・・私達にも予想外でした。本来ならば、彼も・・・・・・でも・・・・・・予想外だったからこそ、きっとあの三人を変えてくれると信じていました。」
「信じる事が私たちのすべて・・・・・・ってことですか。」
「ええ・・・・・・。」