105・真実
移動先は白い・・・・・・ただ白い場所。
「よくぞ耐えぬいてくださいました。未来はすべてあなた方の手にかかっています。夢は夢のままで終わらせなければならないときがやってきてしまったようです。私達も出来る限りの先手は打ってきたのです。でもダメでした。この時を避けては通れなかった。だから・・・・・・あなた達に“記憶”を授けます。あなたたちは私達にとって“も”切り札だから・・・・・・。」
四人の意識はどこかに飛んでいる。
「己の信じた道を突き進んでください。例え・・・・・・自分が偽りのものだと言われても・・・・・・。」
そしてセタ以外の三人に新たな記憶が全て巡る。
「これが全てです・・・・・・これがあなた達自身なのです。信じてください。あなた達はあなた達でありあなた達以外の人間はいません。あなた達は立派な仲間であり、よきライバルで、理解者でもあり、何より人間なのです。」
それはセタを除いた三人にとって少しショックなものだった。
メイアは自分のいない未来を感じ、ミョンハクはルルスが好きで、ルルスはミョンハクに惹かれていたということ。
ずっと小さい頃から三人は出会っていたということ。
本当はすごく仲が良くて、今みたいな闇への不安なんてまったくなかった頃のこと。
意識のないはずのメイアの目に涙が浮かぶ。
「私を支えてくれてたのは・・・・・・ミョンハク君じゃ・・・・・・なかった・・・・・・?」
メイアがポツリとつぶやく。
「あなた方が旅で一度記憶をなくしたとき、以前と同じ呼び名で呼んだのはそれが脳の記憶ではなく体による心の記憶だったのでしょうね。でも、その後で新しい仲間と出会い、あなた方も変わったでしょう?得たものも、失ったものもあっただろうけど、全て含めてあなた達であり、全てに偽りはないのですよ。」
ルルスは頭が混乱していた。
ミョンハクに惹かれ、今はセタが好きで・・・・・・過去の記憶が戻ってしまった以上、その得た感情を過去と割り切るのがなかなかむずかしかった。
いつも自分が歯止めをかけていたのは“悲しき魔女”のようにはなりたくない。それだけでしたから、今その歴史さえ関係なくなったらセタもミョンハクも好きになる可能性が高いです・・・・・・。
旅を初めてからミョンハクはメイアしか見てないのだとばかり思っていました。
ミョンハクはルルスよりも混乱していた。
そして声はセタに語り掛けた。
「あなたにも辛い試練があるでしょうね。でも、前に進むしかないのです。私達は何もできませんが、応援をしていますね。」
不思議な声だった。
男と女、二人同時にしゃべっているような・・・・・・。
ゴゴゴゴゴ・・・・・・。
地鳴りのような音が鳴り響き、光は徐々に崩れてきていた。
「もう・・・・・・・お別れの時間のようですね。さあ、いってらっしゃい。」
そういうと世界は今度は暗やみに落ち、男女で別れ、それぞれの場所に落とされた。
ミョンハク、セタのペアは見覚えのある闇のなかに。
ルルス、メイアは人型なのに人間ではない生命体?の前に立っていた。
実際、生命体なのかさえよくわからないのだ。
人間で言うなら感情や心、心臓を持ち合わせていない感じだ。
四人の意識は光の中とは違い、はっきりしていた。
だからこそすこし気まずく、男女で別れたことにほっとしていた。
「あなたは・・・・・・だれ。」
メイアが人影に向かって話す。
「記憶が・・・・・・すべて戻ったか・・・・・・ちっ!光め余計なことを・・・・・・!」
低く、擦れ、これまた女でも男でもありそうなのに違う怖い声が響いたと同時に人影が増え、それが以前戦ったことがある敵であることがわかったメイアは構えた。
「そう構えるな。我らは敵ではない。」
「信じられない。」
メイアが声を張り上げる。
「本当だ。我らは同じものを目的とし、同じ道を目指すものだ。」
「同じものとは何ですか?」
ルルスが冷静に答えた。
威嚇しても意味がなく、こちらに危害を加える気はないと判断したからだ。
「さすがはルルス・サントラー。いや、ガルディッアーノ。」
ルルスは驚く。
フルネームを呼ばれたこともそうだが、もう一つ違う名前で呼ばれたことに関して謎に思った。
「私は確かにルルスですが、ガルディッアーノとはどなたですか。」
「突っ走りすぎではないか?シャルス・メイア。だか、さすが杜欄だ。我らが選んだことはある。」
「私はメイアであって他の人ではない。」
メイアがきっぱりと言い切った。
ひしひしと殺気のような何かを感じ取っていたからだ。
「特別だからこそ、最後に土産話として教えてあげようか・・・・・・我らが野望と君達と。」
目の前には骨と画像が出てきた。
「うっ。」
ルルスが骨を見て思わず顔をしかめる。
「これは全て、失敗作だ。実態化させ、外で活動することは不可能だった。いくらつくっても完璧なものはできなかった。だからこそ、自らが出向き、選んだ素質をたくさん我野望のもとへと導いた。」
画像にそれぞれ知らない、でもルルスとメイアとまったく同じ容姿の女性が二人、別々の場所にいた。
「君達は光に何を言われたかは知らないが、人間ではない。そして最初から三人は“たまたまその世界に”生まれたわけではない。その証拠がここにいる二人が画像の二人と名前と過ごした時間以外は同じってことだ。ルルスの元となったガルディッアーノはライランの国から一番魔力があるとして我々が出向き、コピーを取った。メイアの元となった杜欄は玖波已の国から・・・・・・二人とも自分が凄い魔力の持ち主ということをまったく知らずに生活しているのには笑ってしまったがね。」
クックッと笑い声が漏れる。
「違う・・・・・・違う!私は・・・・・・私達は人間だもん!私はメイアだもん!」
メイアが少し取り乱す。
「人間は厄介だ。感情がないと生きていられないらしい。だから人間でないものを作れば感情は必要なくなる。」
「あなたがどなたかは存じませんが、仲間なら何故攻撃したのですか。何故ここにセタやミョンハクがいないのですか?さらには何故私達に旅をさせ、厄介な感情すら与えたのですか。」
ルルスは相手の言うことがあまりにも自分達の起こったこととは矛盾し、理解できなかったため、様々な疑問をあげた。
「すこし落ち着こうか。」
「落ち着いています。」
「一つ目、二人がいない理由。あいつらは敵だからだ。」
「ミョンハク君達は敵なんかじゃない!そうだ!ミョンハク君達はどこにいるの!」
メイアが叫び、辺りを見渡すともう一つ新たな画面が現れ、そこには息を切らした二人がいた。
どうやら“審判者”と戦っているらしい。
「ミョンハク君!セタ君!」
「セタ・・・・・・ミョンハク・・・・・・。」
二人はほぼ同時に言ってから気まずそうに画面から顔をそらした。
「全く。セタとか言ったか?あいつのせいで大分計画をかえられた。それもこれも光のやつらのせいだ。」
「そうだ。あなたは私達にすべての記憶が戻ったといったけど、私・・・・・・親の顔が・・・・・・家族の顔が思い出せない!」
「思い出せるはずないじゃないか。そんなの架空人物なんだから。ついでに教えておいてあげると、亜賺喃に送ったのは丁度よかったからだ。古き言い習わしにそってミョンハクという一人の少年が旅をするというシナリオに少し付け加えたのだ。赤子の姿にして最初から鍛えられるように。そして基礎を身につけさせた。でも・・・・・・あの先見・・・・・・多少我らがいじくったにも関わらず先見予測と予言をかえた。1.三人がこの町からいなくなるとき、災いが訪れる。それは分かり切ったことだった。大いなる力を失えばその力の代償に何かが消える。2.三人が自分のすべきことを見つけられないとき、世界から光が消え、後に滅びる。ここが問題だった。我らの野望は全てにおいて静寂と闇を取り戻すこと。そうすれば我らは神になる。そのことをやつは予測した。そして光さえ余計なことばかり・・・・・・。」
「私は神になんかならない!ならなくていい!」
そういってメイアが切り掛かると人影はちっとも動かずにメイアだけが跳ねとばされた。
体に何かがたたきつけられたような痛みが全身に走る。
メイアは無事に着地し、ルルスは睨み付けるように言った。
「何がしたいんですか。」
「あ、そうそう、旅の目的は感情を君達から抜き出しやすくするため。さらには君達のシンクロ率をあげなくてはならなかった。足りない戦力は自らがおとりとなり君達を鍛えた。やりたいことはつまり・・・・・・君達は我らには逆らえない。」
人影はパチンと指をならすと二人の意識がもうろうとした。
「ちっ・・・・・・光め、余計なことをしやがって!このまま無理やり感情を抜き取ろうとしたら器本体が消えるってことか・・・・・・まぁ、所詮二人も我らが望んでいたものとは違う、“失敗作”だからな。」
闇の野望は全てを無にすること。
そのためには光を抹殺し、自分の言うことを聞き、従順で自分の命を投げ出せるような・・・・・・さらにはどこまでも強くなれるような人間が必要だった。
光と闇は長いこと違うものとして対立をし、人の闇が生み出した人間の欲望が闇の影として姿をなしたもの。
光と戦えるのは自分に逆らわない光のものが必要だった。
だから闇は求め続けた。
光が減って弱まっても闇は濃くなり続ける。
光が弱った今こそ闇が野望を叶えようとし、いきついた先が玖波已やライランだった。
そこで人間なのに人間ではないものを生み出すためにメイアとルルスがコピーとして移された。
コピーされた杜欄は闇に抵抗して体力を消耗していたせいか、メイアを作ってすぐ消えた。
つまり、すべての根源となる魂だけ抜き取られた形になったのだ。
魂と体に細工をし、容姿や性格は杜欄のまま、メイアは生まれた。
ライランのガルディッアーノはなんとかコピー後も生き残ったものの、その後を知るものはなく、ルルスも生まれたのだが、二つ生まれなければならなかった理由・・・・・・それは闇が言った“失敗作”にある。
そう、二人は失敗作だった。
本来、1人で全てをこなせる人物に会いたかった。
できるなら体の構造の違う筋肉がある“男”であってほしかった。
だが、すべての事を予測する先見と常に戦い続ける戦闘用とで、人間は寝ながら戦い続けることはできず、先見もまた、起きたまま先見を長くすることはできないことを知り、2つになった。
戦闘用は動きが早く俊敏なメイア。
だからこそメイアには闇の目があり、ルルスには先見で予言をするため、どんな状況下においても戦うわけではないのでメイアのような闇の目はなかった。
それでも二人は失敗作だった。
別のもっといい器や男という条件で探し歩いた。
だが、二人以外のコピーは皆、外に出たとたんに体が持たず、溶け、骨だけが残り、生命体を築くことはできなかった。
だからこそ時と場所を読み、ミョンハク達の国、亜賺喃へ送った。
確実に異世界に行くように。確実に基本を体にたたき込めるように。
そして三人の一番大切な関係性を失わせることで感情を抜き取りやすくするために。
だが、それを先見で知った光も手をこまねいて見ていたわけではなかった。
歌に予言を残したり、感情を取りのぞきにくくするためにセタを送り込み、新たな感情を与えた。
そのために力の波動を感知する本を三人に渡し、セタとの旅を同行させた。
光ははじめ、記憶と関係性は本の“代わり”としていたが、そうではなかった。
奪い取られた記憶を混乱させないようにそういっただけに過ぎず、はじめ、三人の記憶は光の手のうちにはなかった。
だが、消された記憶を復元させたのだ。
やみ同様やってはならないことを光も何度も繰り返していた。そして世界は狂い始めた。
メイアが一度本当に死にかけたときが世界ががらりとかわり、先見不可能な世界に変わった時だった。
本来ならメイアもルルスもミョンハクも死の危機などなかった。
いざとなればミョンハクはルルスやメイアに殺されるはずだったからだ。
本来なら三人はセタに会わなかった。
セタも一人旅を続け、自分のカードを集め、三人の記憶をカードに戻し、三人に出会っても名前も知らずに・・・・・・そう、二回目にとんだ異世界で、メイアが自分の力なのに自分達以外がカードに戻せるのか・・・・・・という疑問はすでにセタがいくつか三人の記憶を記憶だと知らずに戻して自分が探しているものだけ手に入れているに過ぎなかったのだ。
時間が変われば世界も変わる。
同じ旅でも時間が異なれば全く違う旅になる・・・・・・はずだったのだ。