101・憧れ
セタは眉間にしわをよせ、苦笑すると言った。
「それ、どういうこと?」
「・・・・・・私、セタ君のこと・・・・・・その・・・・・・だから・・・・・・えっと・・・・・・好き・・・・・・なの。」
「え。」
セタの顔が硬直している。
「わかってるよ?私のことそういう対象には見てないってことくらい!でも・・・・・・これからは別でしょ?少しずつでいいの、無理にとか、今すぐにとは言わない。言わないから・・・・・・ただの仲間扱いして一線を敷かないで・・・・・・?」
「でも・・・・・・。」
「それとも、私を好きになることは・・・・・・・一生ない?そういう対象には・・・・・・生まれ変わっても・・・・・・有り得ない?」
「・・・・・・そんなことは・・・・・・ないけど・・・・・・でも、ごめん。ただ、おまえの隣は俺じゃダメなんだ。」
メイアの心は深く、深く傷ついた。
同時にセタの言葉を理解できなかった。
「可能性があるのに・・・・・・何で?何で・・・・・・私の隣がセタ君じゃダメなの?私は・・・・・・セタ君にそばにいてほしいって・・・・・・思ったのに。」
「でも俺は異世界の人間・・・・・・」
「そんなのわかってるよ!わかってて・・・・・・言ってるの。」
セタの言葉を遮ってメイアは下を向いてセタに涙を見せないようにしながら言った。
「なら、よく考えれば分かる。いつもお前を支えてたのは・・・・・・俺じゃないよ・・・・・・だから俺じゃダメなんだ。」
「・・・・・・わかった・・・・・・もういい・・・・・・もう。いい・・・・・・言いたかった・・・・・・だけだから。」
メイアは立ち上がり、闇の中へと消えた。
残されたセタは「じゃあどうすればよかったんだよ!?」と言って頭をグシャグシャにした。
一方、だいぶセタから離れたメイアは声を押し殺して泣いていた。
「・・・・・・っく・・・・・・ぅっ・・・・・・ひっく・・・・・・ふっ・・・・・・。」
大声を出して泣いてしまいたかった。
全て吐き出してしまいたかった。
でも、できるはずがなかった。
セタに自分が泣いていることを気付かせるわけには行かなかった。
それが今できる精一杯の強がりだった。
思いを伝えたらその分だけ傷つくのはわかっていた。
でも、言わなければ永遠に会えなくなるかもしれない人に思いを伝えるチャンスはもう残されてはいなかった。
だから、伝えるだけでもいいと・・・・・・そう思っていたのに。
一方でメイアとセタがそうなっている間、ルルスとミョンハクは歩き回って疲れ果て、爆睡していた。
朝になり、めずらしくルルスが朝早く起きるとルルスは目を疑った。
ルルスの後ろにセタが寝ているのを見たからだ。
「こんなに近くにいたのに・・・・・・気付かなかったなんて・・・・・・。」
ルルスはそういうと辺りを見渡した。
メイアがいないからだ。
しばらくあたりを歩くといつも通りのメイアにあった。
「あ、おはよ。ルルスちゃん。無事だったんだね。よかった。」
「また・・・・・・寝ませんでしたね?」
「うん。だって私もう、寝る必要ないから。」
そういって向けられた笑顔に確かに隈はない。
だが、かすかに目が赤い。
「目が充血しているみたいですが?」
「なんでもないよ。本当に、なんでもないの。」
メイアの笑顔が歪んだため、ルルスはメイアの脳内を探るために脳内に語り掛けたが、ブロックされて驚いた。
不必要な探りはブロックされるのでしょうか。
そもそも・・・・・・ブロックできるなんて。
意識的にでしょうか?
メイアは黙ったルルスを見て頭を傾げると「ルルスちゃん?」と言った。
その様子を見たルルスはさらに驚いた。
無意識に思考を閉ざすなんて!
「いえ、何でもありませんよ?さあ、こちらへ。ミョンハクとセタは向こうにいますから。」
「うん。そうだね。」
ルルスとメイアが戻るとミョンハクがセタを起こしているところだった。
ルルスは最近不思議な夢ばかり見ていた。
さらにそれはだいたい的中した。
つまり、予知夢を見ていたわけだが、本人は気付いていない。
ただの偶然だと決め付けているからだ。
その能力が進化しつつあるのを感じているのがメイアだった。
「ルルスちゃん?」
「はい?」
「最近、怖い夢とか見ないの?」
「それは見なくなったのですが、最近は不思議な夢を見ます。まあ、しょせんは夢ですから。さあ、カードを探しに行きますよ。」
「う、うん。」
メイアはセタの顔を見てすぐに胸元の服を手で掴むと顔を剃らした。
そんなメイアの異変に気付いたのはミョンハクだった。
セタとルルスは話ながら前に進んでいくのに対し、メイアはそんな二人のだいぶ後をミョンハクと歩いていた。
ひたすらに黙り、下を向きながらあるくメイアにミョンハクは話し掛けた。
「どうかしたのか?」
「え!?ううん。何もないよ?」
メイアはパッと顔を上げると笑った。
「セタとなんかあったんだろ?」
「な・・・・・・なにもないよ。」
メイアはあからさまにミョンハクから視線をずらした。
「お前はいつも先を突っ走ってはセタに話し掛けられてまた突っ走るようなバカだからな。」
「な、バカとかちょう失礼っ!」
メイアが怒るとミョンハクは笑った。
「やっといつも通りになったな。お前が黙ってるときもちわりぃんだよ。」
「な、なにそれ!・・・・・・でも、ありがとう・・・・・・少し気が楽になったかも・・・・・・。」
メイアが寂しそうに笑うとミョンハクが手を伸ばしかけてまた引っ込めた。
「あれ・・・・・・ルルスとセタは?」
メイアはあたりを見渡した。
「またいなくなった。しかも見て?さっき朝になったばかりなのにもう夕方だよ!?思ったんだけど、時間の流れ、早すぎない!?」
「早いうえに夕方になると仲間を見失う森・・・・・・か。厄介だな。」
ミョンハクはひとまず休もうと提案した。
メイアでなくても寝たばかりのミョンハクは眠れるはずもなく、少しうろうろしていると木のそばで体育座りしているメイアを見つけた。
メイアはひたすらに空を見上げていた。
「おい。」
「何?ミョンハク君。」
メイアは振り向かずに答えた。
「いい加減何があったのか言えよ。」
「・・・・・・あったよ・・・・・・たくさん・・・・・・。」
「だから何が。」
「でも・・・・・・私の問題だから・・・・・・ミョンハク君に言っちゃ・・・・・・いけない気がする。」
「なんだよ。仲間だろ?」
「うん・・・・・・ねえ、ミョンハク君は好きな人・・・・・・いる?」
ミョンハクは吹き出した。
「な、何言って!」
「私は・・・・・・“いた”の。」
ミョンハクはふっと何のことをメイアが言いたいのか分かった。
「・・・・・・それで?」
「もう最後かもしれないと思った。だからね・・・・・・その人が私のこと何とも思ってくれてないってわかってて・・・・・・それでも言ったの。」
顔を膝に埋めるメイアの隣にミョンハクが腰掛ける。
「そうか。」
「でもね・・・・・・私を好きになってくれる可能性はあっても・・・・・・自分じゃ私を支えることは・・・・・・できないって・・・・・・私、セタ君が異世界の人間だってわかっていた。それでも・・・・・・伝えるだけでも・・・・・・いいやって・・・・・・思ったのに・・・・・・バカみたい・・・振られてこんなに落ち込んでるなんて・・・・・・。」
メイアが上げた顔は悲しみに歪んでるものの、かすかに笑っていてその目に涙はなかった。
「どっちにしろ一緒にいれないなら、振られたって同じなのにね!?」
ハハハッとメイアは笑った。
「笑ってんじゃねぇよ。」
メイアが横を見るとミョンハクがいつになく真剣な顔で・・・・・・でも寂しそうな顔でメイアを見ていた。
「ミョンハク・・・・・・君。ごめん・・・・・・ごめんね・・・・・・。」
そういってメイアはミョンハクを抱き締めた。
ミョンハクは抱き締められたことに驚いた。
「な。何してんだよ?」
「わかんない・・・・・・でも・・・・・・私より寂しそうな感じがしたの。ただ・・・・・・それだけ。」
ギュッとメイアはミョンハクを抱き締めた。
ミョンハク君はいつも私のそばにいてくれたよね。
ただ、そばにいるだけで支えになるって教えてくれたよね。
私がほしい言葉や慰めてくれたのはいつも・・・・・・セタ君じゃなかった。
よく考えたら私、求めてばっかりだった。
だからせめて私もかえそう。
あなたがそうしてくれたように・・・・・・。
そしてあっけなく朝になり、ミョンハクが振り払うまで二人はくっついたままだった。
「ったく、お前は何考えてんだ!」
ミョンハクの顔は真っ赤だった。
「えへへ。」
メイアは笑った。
その顔に偽りはなかった。
一方、ルルスとセタは二人っきりが少し気まずくてルルスは二人っきりという現実に顔を赤く染めながら下を向き、夜通しメイアとミョンハクを探し歩いていた。
「あ、朝になりましたね。」
「そうだな。」
「や、やっぱり早いのでしょうか。時間の流れが・・・・・・。」
「みたいだな。」
「あれ?あのずっと先に笑ってるの・・・・・・メイアちゃんでしょうか?」
「やっぱり夜になると探せないようになってるんだな。」
するとメイアが気付いた。
「あ、ルルスちゃん!セタ君!」
いつも通りのメイアにセタは胸を撫で下ろし、ルルスはこの数時間でなにがあったのだろうと首を傾げた。ミョンハクは顔が赤く、メイアは上機嫌。
「何か、あったのですか?」
「え~?何もないよ?」
ヘニャと気が抜けるような笑顔でメイアが答えた。
「そうだ!ルルスちゃん、私、思ったの!カードの発動時は夜!ね!ミョンハク君?」
「たぶんな・・・・・・・。」
「だから夜になるまでまとう!それでね!夜になったらルルスちゃん、歌って。」
「わかりました。やってみましょう。」
ルルスは本をめくった。
開かなかったページも今やほとんどなくなっていた。そこには音魔法が沢山乗っていた。
音で相手や物質を痺れさせる魔法や物を操る方法があった。
ルルスは少し考え込んだ。
東の魔女と呼ばれたあの悲しき魔女さんが音魔法を使ったなど聞いたことがありません・・・・・・私自身、音魔法を習いませんでしたし、身の回りにもそう言った方はいませんでした。
ならばなぜこの本は私に音魔法を教えようとするのでしょうか?
四人はそれぞれに話し合っていた。
ミョンハクはメイアがどうして急に上機嫌になったのか分からなかった。
「メイア?」
「ん~?」
「どうしたんだ?いきなり。」
「私、なんか、そーゆー気持ち全部飛んじゃって。確かに“好き”だったの。でも、思い返したら私だって仲間として好きっていう感情とたいして変わらなかったなあ・・・・・・みたいな?」
そう・・・・・・セタ君に感じてたのは多分・・・・・・憧れ。
優しくて謎が多いセタ君への憧れ。
その証拠が・・・・・・私が頭を撫でられたときミョンハク君を思い出したこと。
あの時はどうでもいいって思ったけど、よくなかった。
もっと早くに気付けばよかった。