10・出会い
前回までのストーリー。
異世界への急激な転送が行われた三人。
だけど、転送前の言葉や記憶は無くて、三人の関係とお互いが何者だったのかを分かってない。
それに驚いたのはメイアだけだった。
「え!・・・・・・別に怪しいものじゃないです!」
ミョンハクとルルスは冷静に考えた。
まず、いきなり白い目で見られたこと。
つまり、いきなりの訪問者は歓迎されないということ。
そしていきなり身分証明を求められた。
つまり、他国の者は触れたり、この町に来たりさえできないということ。
そしていきなり怒鳴られた。
それは、この町に交友関係を築いた国としか貿易をしない、あるいは、貿易を一切しないということであり、いきなり顔の知らない奴がくるわけがないこと。
よって、メイアは怪しいものじゃないですと言ったが、向こうから見て怪しいものにしか見えないのだ。
「国はビアンカからきた。ただの旅人だ。」
ありもしない国の名をでっちあげる。
「え?」
メイアが言い掛けたとたんルルスが目配せする。
「ビアンカ〜?聞いたことないぞ。」
「この国から来たわけではないからな。」
「まぁ、いい。とりあえず人間だな?最近ここらは物騒なんだ。得体の知れない動物が来たかと思えば、ここんとこずっと不振な地震が続いてる。おかげで崖崩れが雪崩のように起きてこまっている。」
そういうと背の高いすらっとした娘は、短い髪を耳にかけてからため息を吐いた。
年は多分、三人と同じか少し上くらいだろう。
目は少し釣り上がり、顔に関してもキリッとしている。
ズッドーンッ!
「な。何?」
地震!?
だが、すぐにおさまる。
「またか!ここんとこずっと地震が起きていたから今度は崖崩れが止まらないんだ。おーい!大丈夫かぁ!?」
「まって。今、魔法で。」
立ち上がろうとしたメイアにルルスがメイアの袖をつかみやめさせる。
「・・・・・・ルルスちゃん?」
咄嗟にルルスの思考が働いたのだ。
「待ってください。メイアちゃん。いきなりそんなもの使ったら怪しまれてしまいますよ?ここは東洋ではなく西洋の出番かも知れません。」
「そっか。案内してくれる?」
「いや、いいが・・・・・・。」
「ミョンハク君も早く!」
考え込んでいるミョンハクも無理やり連れて行った。
着いた先は家ばかり。
一面、家、家、家。
つまり、住宅街だった。
「誰でもいい!助けてくれ!あの家には、あの家には!俺の家族がいるんだ!」
血塗れの男性が土を一生懸命掘りかえそうとしている。
そこには、逆さまになり、つぶれて無残としかいいようがないほどの家があった。
人力だけではこれを取りのぞくにも一ヵ月以上はかかる。
なのに、その上からまた崖崩れが起きようとしていて大きな岩がゴロゴロ落ちてきており、誰も近づける余裕はなかった。
「おちつけ!今飛び込んでみろ!せっかく助かったその命を無駄にする気か!?」
すると、その土砂の上にメイアが駆け込む。
「任せて!あの崖は後どれくらいもつかな?」
即座にルルスが答える。
「もって後数分。今にも落ちてきそうです!」
「じゃあ。力の強いミョンハクは岩、崖をお願い!私は瓦礫の中の人を!」
人助けをするときのメイアの思考は誰にも負けずに早かった。
「お、おう!」
「ここでいいんだよね?」
「やめろ!もう時間がない!死にたいのか!?」
それをよそにメイアは呪文をぶつぶつ唱える。
これは西洋魔法、体術の章にあるメイアが三歳くらいで使いこなした術だ。
物凄い集中力で土や瓦礫を掘り返していく。
「すごい早さだ・・・・・・素手たったの二本だけで・・・・・・。」
崩れ落ちてくる岩は、ミョンハクが町の人やメイアに落ちようとするたび下に滑り込み、石おも砕いた。
つまり、体術の章。
波動拳の物破壊にあたる。
「あいつらは・・・・・・何者だ・・・・・・?」
「私たちは・・・・・・ただの旅人ですわ?」
ルルスは二人の体力の限界を極力迎えさせないように治療の章。
癒しと、魔力の与えに関することをしていた。
つまり、一番限界値を突破しそうなのは一人で二人分を支え、魔力をわけ与えているルルスなのだ。
「よしっ!大丈夫!妊婦さんは生きてるよ!だけど大変!息が弱くなってるの!もしかしたらどちらかの命しか救えない危険性も・・・・・・。」
ゴットン。ガラガラガラ・・・・・・。
怪しい音が聞こえ、誰もがもう間に合わないと思った瞬間。
「はぁっ!」
すべての岩とすべての砂が横に飛んだ。
「ありがとう!ミョンハク君っ!さ、私よりこの人を手当てして!?」
歓喜に包まれる町。
疲れ果てているミョンハクがそこにはいた。
「ミョンハク君。大丈夫?」
「俺は少し休めば問題ない。」
息切れしながら言う。
メイアは西東洋使いであるためそこまで体は辛くはなかった。
が、魔力をだいぶ消費していた。
「ルルスちゃん。」
ルルスは軽く冷や汗をかいていた。
衰弱している。
「ルルスちゃん!」
逆に自分の力をルルスに与える。
するとルルスの顔色がすこしよくなった。
「こら。おまえら。町人手当てもいいけど、旅人手当てもしろ?今日はこの旅人達を正式な客人として我が国の土を踏むことを認めた。丁重にもてなすように。」
さっきの人だ。
なかなか権力のある人らしい。
恐る恐る町の人々がよってくる。
「あ。大丈夫です。私よりあちらとあちらの怪我人を。」
するとそそくさと去っていく。
「メイアちゃん・・・・・・手が・・・・・・無理なさるから。」
メイアの手は、擦り傷だらけだった。
自分の魔力をルルスにわけたぶん、自分の治療するほどの魔力は残っていない。かといってルルスだって自分の顔から血の気が失せるほどの無茶をしたのだからやはり治療は不可能だった。
短時間ですべてを終わらせるということは魔力にとっても自分の体にとっても大きなリスクを追うことになるのだ。
「とにかく、そこの三人。おいで。私の家へ案内しよう。」
「ありがとうございます。」
「あの。あなたは?」
何者なのだろう?
どうして私たちを呼んでくれるんだろう?
その人の行動は三人にとってはとても不思議だった。
「それは・・・・・・私が聞きたいことなのだが。」
確かにとルルスは思った。
いきなりあらわれた旅人がいきなり活躍したら驚かれますわね。
それにこの方は人を利用するというオーラが不思議なほどない。先程は警戒させていただきましたが、安心して名を名乗っても平気そうです。
ただし、ミョンハクはどう思うでしょう・・・・・・?
まぁ、その時考えるとしましょうか。
「とにかく家にこい。三人してそんな妙な格好されてても困るのだ。」
つれていかれた家は大きかった。
「おっきぃ!」
メイアがはしゃぐ。
「お屋敷か?」
「あなたは・・・・・・何者なのですか?」
ますます不思議に思ったルルスが尋ねた。
「まあ、これを見れば誰でもそう思うか・・・・・・私は、ルーナ。ルーナ・ハルイ。さっきは町の人を助けてくれてありがとう。とにかく、これがおまえ達の服だ。おまえとおまえは手を洗ったほうがよさそうだな。」
メイアとミョンハクを指差す。
「ありがとうございます。」
「そういえば、自己紹介がまだでしたわね。私はルルスといいます。ルルス・サントラーです。」
「おいっ!」
素直に名前を言ったルルスに対してミョンハクが目くじらを立てる。
「大丈夫ですよ?ミョンハクは心配性ですね。」
ルルスは、にこりと笑いながら言った。
「ん?あぁ、私はシャルス・メイアっていいます。服、ありがとう!」
気まずそうに最後の一人が答える。
「・・・・・・俺は・・・・・・セイ・ミョンハクだ。」
なぜ奴らは信じられる?
このような町で何が起こるのかまったくわからない状態で。
メイアはすぐ人を信じるとしても、ルルスは考えなしに行動する人間じゃないだろう?
俺たちを利用しない確信はどこにある?
俺たちが無事にここを出ていける保障はどこにある?
「ふーん。ルルス、シャルス、セイか。」
「あ。いえ。私はルルスとお呼びください。この子はメイアちゃん。彼はミョンハクです。」
「・・・・・・皆、多国籍生まれなのか?」
「いいえ。同じだと思います。」
「そうか。」
ルーナと言った彼女は、眉をひそめてから、あんまり納得いかなさそうに頷いた。
「あの。ルーナさんって、おいくつなんですか?」
「私?私は18だ。」
「じゃー一つ上だ!」
メイアがヘニャっと笑うと、ルーナはあからさまに驚いた顔をした。
「な!一つしか違わないのか?の割りには幼い感じがするが。」
「それよりっ!最近ずっとこの調子だみたいなことを言っていたが・・・・・・?」
「その話は後だ。この部屋はルルス。隣がメイア。そしてそのトイレの隣がミョンハクの部屋だ。服を着替えたら下にこい。」
さっそく部屋に入り、服を着替える。
誰がいたでもなく古い部屋。
ベッドにはしわ一つなく、誇りもない。
外は土砂崩れのあとの町並み。
黴臭くもない部屋。
一人できれいにできるはずないのに、人の気配が感じられない。
着替えて下に向かうと、大きい部屋が広がっていた。
さて、いきなり白い目でみられた三人のたびはいきなり大波乱で幕開けだけど・・・・・・?といった感じですね。
ここまで読んでくださってる方、ありがとうございます。