第七話 高校中退のインテリア、魔法を覚える
俺は富田寅吉、異世界に転生した小松組の若頭補佐で、こっちの世界では、龍虎の入墨を背負う勇者なんて仕事で暮らしている。
そんな俺は村長の依頼もなく昼から飲んだくれでいたところ、宿屋を覗き込んでいた舎弟サブの友人を見かけて声をかけた。
「つまり街で声をかけた女に、いきなり拳銃で撃たれて異世界に転生したんだな」
「はい。まさか寅吉さんも、あの女に異世界送りにされていたとは思いませんでした」
「てめえは、遊び人のタクミって言ったけか? サブのやつは、あっちの世界で元気にやってんのか」
「それが……サブは、寅吉さんの敵討ちに出かけたところ、返り討ちにあって殺されたって話です」
「サブが殺されただと?」
「ええ、でも異世界で、同郷の寅吉さんに会えて良かったです。へへへ」
俺は『なにがッ、良かっただ!』と、目の前に座っていたタクミの胸ぐらを掴んだ。
遊び人風情がヘラヘラした顔で、てめえの友人、俺の舎弟が殺されたと言ったからだ。
「ち、違いますよっ、俺たちを殺したのが同一人物なら……きっとサブだって死んじゃいません……俺たちみたいに、この世界の何処かに転生してますよ」
「おお、そういう意味か? いきなり掴みかかって悪かったな」
「げほ、げほ……い、いいえ。俺も真面目な話の最中に、にやけてすみませんでした。寅吉さんが、サブのことを目にかけていると知っていたのに、本当すみません」
タクミの考えは、こういうことだ。
俺たちは同じ鉄砲玉にタマ取られたが、あっちの世界で死んだ俺たちは、異世界の何処かで生き返った。
つまり俺を撃ち殺した女は、何らかの理由で俺やタクミ、それにサブを異世界に転生している。
女の目的は皆目検討がつかねえが、まずは異世界に転生させられただろう身内を招集すれば、女の目的もわかるんじゃねえのか。
ってことだった。
「タクミ、てめえ学があるな。遊び人を名乗るわりに、ずいぶんとインテリアじゃねえか」
「いやいや、インテリじゃありません。俺は、サブと同じ高校中退です」
「俺は無理だったんだがよ、てめえみたいなインテリアさんは、魔法も使えるのかい?」
「え……ええと、高校中退の俺に魔法なんて、使えるわけないじゃないですか。魔法には知力が影響してて、こっちの世界でも使える人間は限られているらしいです」
「てめえみたいなインテリアなら、魔法を覚えるのも楽勝だろう。この村には魔法を教えてくれる寺子屋があるから、適当に回復魔法とか覚えてこいや」
「いやいや、だから俺は高校中退で――」
「高校中退、高校中退と、さっきから学があるのをひけらかしやがって……俺は小学校もろくに出てねえんだよ」
「え?」
俺はタクミの胸ぐら掴んで引き寄せると、高校中退を鼻にかけているインテリアを睨みつけた。
「つべこべ言わずに、今すぐ魔法覚えてこいや。毒消しと回復は必須だぜ」
「な、なぜです?」
「これからサブを探しに旅に出るとしてもよ、毒持ちやら強えモンスターと戦うことになるんだぜ。今までは気合いで乗り切ってきたが、長え旅なら魔法使いと旅した方が楽できるだろう」
「お、俺も一緒に旅立つんですか?」
「当たり前だろう? タクミは、異世界で孤独にしてるダチ公に会いたくねえのか」
「あ、会いたいです」
タクミがサブと会いたくねえと抜かしたら、俺が永遠におねんねさせるところだった。
遊び人のタクミは『魔法覚えてきます!』と、宿屋を飛び出そうとするので呼び止めた。
「俺が死んでから、サブの他には誰も殺されてねえのか」
「小松組のお抱え医師、もぐりのシマ髭先生が殺されたと、サブから聞きました……他にもいるかもしれません」
「なぜ、そう考えた?」
「俺を撃った女が『あと二人、踊り子と商人だけ』と言ったのが聞こえました」
「うむ。俺、サブ、シマ髭、てめえの他にも、あと二人殺される奴がいるかもしれねえんだな」
「はい。ヒントは、踊り子と商人です……寅吉さんには、心当たりがありますか?」
俺は記憶を遡る。
シマ髭もサブも俺の身内だとしたら、踊り子と商人も俺に親しい人間かもしれねえ。
「踊り子は二丁目のモリリン、商人は小松組で武器密輸やクスリをさばいていた鰐島が怪しいな」
「そうですね……でも寅吉さんの身内じゃない俺も殺されてますから、無関係の連中かもしれませんけど」
「何言ってんだ? てめえは俺の兄弟分の友人で、俺の身内じゃねえか」
俺は手を煽ると、さっさと魔法を覚えてこいとタクミを追い出した。
遊び人が魔法を覚えたら、俺が村を出ていく。
そう噂が広まると、村長たちが血眼でタクミに魔法を教えたらしく、三日もしないで遊び人に野郎は回復呪文と毒消しの呪文を覚えてきやがった。
やればできるじゃねえか。
さすが高校中退のインテリアだ。




