第六話 手榴弾? あるに決まってんだろう
異世界だからって俺の仕事は変わらねえ。
ブツを欲しがる奴がいれば、ブツを買い付けて売りさばく。
客が欲しがるブツを入手できない商人は、俺に言わせれば三流だね。
異世界の商人はシャバ憎ばかりで、俺が携帯電話を売ってくれと言っても『そんなもの用意できない』なんて、泣き言ばかりで仕事する気がありゃしねえんだ。
異世界で携帯電話、こんな古くせえ街並みを見りゃあるわけねえだろうよ。
でもよ、無ければ作りゃ良いんだよ。
客が携帯電話欲しいって言ってんだからさ、無けりゃ一から作れば良いじゃねえか。
それが手広い商いで儲けてきた鰐島さんの仕事の流儀ってやつだ。
「もしもしトルちゃん? そうそう、この前頼んでた『I』の付く方のパットとスマホなんけどさ、あれの受注は受けちゃって良いのかな? うん、うん……あ、そう。そしたらさ、そこら辺りのカマボコの板に『Iなんちゃら』って書いて、適当にリンゴのマーク描いてさ……そうそう、わかりゃしないから大丈夫だって。中つ国の大連? へえ異世界にも大連あるの? 知らなかったなあ。うん、あ、また後でかけ直すわ。それじゃ、大連の手配よろしく」
俺は二つ折りの携帯を音を立てて閉じると、目の前に座っている小松組のサブに冷コーを注文してやった。
客の少ない喫茶店、人通りの少ない通りが見渡せる窓際の席、ヤクザとの取引は慎重過ぎて過ぎることがねえ。
サブは小松組の若頭補佐だった富田寅吉の舎弟で、あっちの世界では組の使いパシリをしていた三下だ。
「鰐島さん、その携帯電話マジで誰かと繋がっているんですか?」
「あ、携帯? なになにサブちゃんも、携帯電話が欲しくなっちゃったわけ? そりゃ携帯ないと不便だもんねえ、携帯、異世界に一台しかないレアモノなんだけどさ。サブちゃんが欲しければ、特別に500万Gで譲っちゃうよ」
「いや、世界に一台しかない携帯なんて要らねえっす」
「あらま、携帯持ってたら女の子にモテモテなのにねえ」
「マジで要らねえっす……そんな偽物より、お願いしてたトカレフの弾どうなってます? おいらは剣やら魔法やら使えないんですから、トカレフだけが命綱なんですよ」
「はい、トカレフの弾ね。このとおり、鍛冶屋に頼んで作ってもらいましたよ」
サブのやつ、俺がテーブルに鉄砲弾置いたら『すげえぜ鰐島さん!』と、勝手に持っていこうとするから、その手を押さえつけた。
キョトンとしているが、出すモノ出さないと、こっちも慈善事業してるわけじゃないからね。
「あ、ああ、金ですね。手持ちは少ないんですが、十発1千Gで良いですか?」
「だめだよお、サブちゃあん、はあい、ばぶう、ちゃあん。おじさん、赤ちゃんになっちゃうよお。おじさん、子供の使いじゃあないんだからねえ」
「え……ああ、安すぎですか? 異世界に来てから日が浅くて、どうも相場がわからないんですよね。おいくら?」
「ま、オマケして一発1万Gかな」
「ボッタクリじゃないですか!?」
「サブちゃんさ、せっかく異世界で銃士なんかやってんだからね。そこら辺のモンスターでも、ちょちょっと狩って稼げばいいじゃねえのよ」
「鰐島さん、おいらが倒そせうなスライムの相場は一匹100Gですよ。弾一発買うのに、百匹倒さなきゃならんじゃないですか」
俺は肩をすくめると、なめたこと抜かしたサブに言ってやったのよ。
オークなら一匹3万Gだろう。
ってね。
そしたらサブはその気になったらしくて、神妙な顔で後払いで十発ほど手にして喫茶店を出ていった。
「ヤクザって人種は、ちょろいねえ。鍛冶屋に頼めば、一発5Gだって言うのにさ」
俺は携帯電話を耳に当てると、商売仲間のトルを呼び出した。
「ああ、トルちゃん? さっきはごめんね、急ぎの客をまたせててさあ。で、『I』のつくパットとスマホなんだけど……あ、そう? 大連で作れるって? いやあ、今どきは通話しかできねえ、携帯なんかよりスマホでしょう」
『鰐島さんの考案した魔法の使えない客と、遠距離で通話できる魔法道具は便利なんですがね』
「今の客に『売ってやる』と言っても、ぜんぜん欲しがらねえんだわ。やっぱ時代はスマホなんだろうねえ」
俺は異世界の商人、客の注文さえあれば何でも入手して売りさばく男だぜ。




