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異世界任侠伝、魔王がなんぼのもんじゃい!   作者: にゃんこめん
第一章 勇者と五人の仲間がやってくる
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第二話 どんな病も治す神の手、開腹術師

 回復術師(ヒーラー)は退魔や回復魔法に長けており、呪詛や毒による体調不良や消耗した体力の回復、軽傷ならば傷口を塞いで治療することができる。

 しかし欠損してしまった手足などの部位の再生や、外科手術を要する病気の治療は、魔法で治すことができない。

 したがってこの世界には、回復術師とは別に医者や薬剤師がいるのだが、その数も技術も圧倒的に足りていないのが現状だった。


歌舞伎街(かぶきちょう)には、どんな怪我や病気も治してしまう回復術師(ヒーラー)がいると聞きました。その回復術師ならば、必ずやヤオウ様の腹痛を癒やしてくれるでしょう」

「そうか……サンザよ、金に糸目はつけないから、その回復術師を連れてきてくれないか?」

「ええ、今から出発すれば、明朝にはお連れできましょう。ですから、それまで酒を控えて安静にしていてください」

「わかっておる……しかし最近は痛覚遮断魔法(ペインクリア)も効かなくてな、酒で紛らわすしかないんだ」


 僕の名前はサンザ、所属する組織(ギルド)のギルマスであるヤオウ様の原因不明の腹痛を治すために、やっと探し当てたのが歌舞伎街界隈にいる回復術師だった。

 噂の回復術師は半年前、ふらりと歌舞伎街界隈に現れて、宿無し(ホームレス)の病人たちに回復術(ヒール)を施して完治させているというのだ。

 彼は宿無しの治療には、金銭を要求しないらしい。

 守銭奴の術者が多い中、なんと慈悲深い術者なのだろう。


「怪我も病気も治せる回復術師(ヒーラー)だって? そいつは医者じゃないのか」

「どんな病も無料で治してくれる回復術師が、歌舞伎街にいると聞いて来たのだが、誰に聞いても、そんな神療所を知らないというんだ」

「そいつが僧侶(プリースト)なら、教会を訪ねた方が良いだろう」

「それが教会の僧侶ではないらしい」


 僕は歌舞伎街の繁華街で、噂の術師を探しているのだが、誰に聞いても『知らない』と答える。

 そもそも正規の術者が、報酬を受取らずに治療するなんて違法行為を宿無しに施すだろうか。

 教会の僧侶でさえ、王国で決めた報酬を受取る。

 受け取らなければ禁制を犯す『もぐり』である。

 

「そいつは、きっと()()()()()のシマ髭先生のことだな」


 僕はダメ元で、繁華街の裏路地に寝転ぶ宿無しに声をかけた。

 宿無しの爺さんは『俺も病気を治してもらった』と言うのだから、そのシマ髭という男が噂の回復術師なのだろう。

 しかし僕の探しているのは魔法使いの術師で、薬草や医薬品を扱う()()()ではなかった。


「僕が探しているのは()()()()なんだけど、シマ髭先生とやらは薬剤師なのかい?」

「シマ髭先生は、あんたの言うとおりヤクザ医師で()()()()だよ」

「爺さん、謝礼を弾むから先生のところに案内してくれないか?」


 僕から金子(きんす)を受取った爺さんは、顎をしゃくって目配せする。

 彼の後ろをついていくと、繁華街の外れにある簡易宿所の並ぶドヤ街につれてこられた。

 格子窓から売女が手招きしていれば、飲んだくれた宿無しが道端に寝転がっている。

 よもや金を握らせた僕から、さらに金を巻き上げるつもりなのか。


「シマ髭先生、お客さんを連れてきたよ!」

「おい、ここは廃墟じゃないのか?」


 爺さんは廃墟のような建物の奥に進むと、広い空間に白いカーテンで仕切られた小部屋を指差した。


「爺さんか……悪いが急患でね。いま手が離せないから、お客さんには日を改めるように言ってくれ」

「いいや、僕の方も明日をも知れない急患でね。悪いが、ここで待たせてもらうよ」

「お前さん、冷気魔法は唱えられるか?」

組織(ギルド)では、名の通った魔法使いだよ」

「では中に入って、急ぎの用事なら手術を手伝ってくれないか」


 眩しいほど灯りを炊いた白い小部屋には、ベッドに寝かされた病人と、その傍らで術を施す術師が立っている。

 覆面(マスク)で口元を隠したシマ髭は、手にした小刀で病人の腹を斬り裂いて、さらにピンク色の臓物を細切れにしていた。


「な、な、何をしているんですか!」

「何って、病気を治しているんじゃないか。こいつは肝臓の悪性腫瘍なんだが、太い血管に癒着して剥離が難しい」

「これが治療だって……まさか、あんたは回復術じゃなくて開腹術で治療する医者なのか?」

「そのとおりだ」


 僕が開腹された病人を覗き込むと、口は逆さにした漏斗(じょうご)に覆われており、漏斗に繋がる管の先には眠り草が入った便がある。

 ベッドに横たわり腹を切り裂かれた病人は、まだ死んではいない様子だ。


「信じられない」

「そうだろうな。この世界では魔法による治療が発展しているために、医療技術が疎かになっている。この世界には、外科医なんていない」

「シマ髭先生は、いったい何処から――」

「俺のいた世界では、病は人間の体内に巣くった化物(モンスター)で、俺は腹を斬り裂いて化物を退治する冒険者なのだ」


 なんて人だ。

 覆面から覗く目は鋭く、白髪混じりの髭は流れる汗で濡れている。

 シマ髭という医者は、こんな酔狂な治療を大真面目に取り組んでいた。

 こいつは只者じゃない。


「お前さんは、患部のみ冷気魔法で凍らせることが出来るかね?」

「え……何処ですか?」

「この変色している部位だ。悪性腫瘍だけ冷気で壊死出来れば、この病人は助かる」

「わかりました……その代わりシマ髭先生、僕の依頼も受けてもらいますよ」

「よかろう」


 病人の腹を斬り裂いて病根を殺す、こんな治療は前代未聞だ。

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