第二十話 ついに集いし勇者の仲間
素鴨の街で出会ったサンザは、寅吉が探していた転生者の知り合いで、無免許医のシマ髭が歌舞伎街で開業していること、商人の鰐島が俺らを探して池梟まで来ていると教えてくれた。
サブ以外と面識のない俺は、追いかけている銃士、踊り子、商人のうち、銃士が親友だと知って胸を撫で下ろす。
「しかし寅吉さんがシマ髭先生の探していた勇者なんて、世間は広いようで狭いですね」
サンザはトランプのカードを切りながら、商人の鰐島と待ち合わせした冒険者の酒場『パアナ』のボックス席で呟いた。
俺、寅吉、サンザ、ババンボの四人は、待ち人が来るまでの間、ポーカーで時間を潰している。
あれから素鴨の冒険者ババンボは、旧友サンザの顔を立てる形で組織の旗揚げを検討しているらしい。
俺には詳しい事情がわからないけど、騎士団の駐屯や新参者が街を仕切れば、裏カジノや娼婦館の経営にも影響すると、形式だけでもギルド空白地を回避したいと、商工会のメンバーは考えたようだ。
「ババンボは、組を立ち上げても良かったのかい。組を立ち上げるってことは、てめえの魔王討伐の夢を諦めるってことなんだぜ」
寅吉はカード二枚ドローしながら、隣のババンボに話しかけた。
彼は『ええ、その前にやることを思い出しました』と、カードを三枚ドローする。
「俺とサンザの生まれ育ったのは、モンスターに壊滅させられた王塚なんでさ。サンザには素鴨でギルドマスターになって、いつか王塚を再建しようと説得されましてね」
サンザはノードローで俺に目配せする。
序盤で手札を伏せるなんざ、大きな役が揃ったのか、それともブラフなのか。
魔法使いは感情が顔に出るタイプなので、俺はストレート以上とみたね。
「僕もババンボが作る組織に転席すると、ロメロのヤオウ様に許可をもらいました。これでもロメロでは、ギルマスの右腕として運営に携わっていたので、人集めや事務仕事なら手伝えると思います。組織の立上げには、最低でも十人の構成員が必要なんです」
「ロメロの若頭だったなら、てめえが本家筋の盃もらったら良いだろう。なんで渡世のババンボにケツ持ちさせてんだ?」
「ロメロの活動は回復薬や武器の流通など冒険者の支援なので、素鴨のような武闘派が集まる街は、ババンボのように荒事が得意な奴じゃないと務まりません」
「ロメロの仕事は、クスリと武器なのか……そいつはヤクザだね」
寅吉とサンザの会話が食い違っている気がするが、わざわざツッコむほどじゃないな。
さて俺の手札はジャックのスリーカード、ここは一枚ドローでフルハウスを狙いたい。
寅吉はスリーカード、ババンボの手札は読めねえが、浮かねえ顔してるのでストレート狙いのブタと見たね。
よっしゃッ、ジャックとクィーンのフルハウス完成だ。
「でもタクミさんは凄いですね」
「え、何がです?」
やべ、フルハウスが完成して表情に出たか。
サンザが、俺に鎌をかけてやがる。
勝てる勝負だし、ここで降ろさせねえぜ。
「いやいやいやっ、札回りが悪くて最悪ですよ! 今さら降りるのもあれなんで、勝負を続けましょう。オープン」
「ポーカーの話じゃなくて、たった三日の修行で回復魔法や火属性の攻撃魔法を覚えたことですよ。それに僕が術式を解説したら、手持ちの魔導書も全部覚えたじゃないですか」
「あ、魔法ね……俺は物理と数学が得意でした。魔導書の術式は物理法則と数式で理解できるので、わりと簡単でしたね」
「簡単ですか?」
「物理や数学の知識は、魔導書を解析する魔法使いくらいしか必要ないし、この世界では四則演算までしか習わないみたいですね」
サンザのような魔法使いは、それと認識せず物理法則、解析幾何や抽象代数など高等数学を使用しているらしい。
俺には魔導書解析の素地が備わっていたから、たった三日で魔法使いになり、ここまでオークから奪った魔導書の魔法も、彼の手解きで使えるようになった。
「やっぱりタクミは、インテリアじゃねえか」
寅吉はノードローでレイズして、ババンボは一枚ドローでレイズしたが、こいつは完全にブラフだ。
「それにタクミさんは、術式の詠唱時間も早いですよね。あ、コールです」
「魔法の行使には、発動距離や効果範囲を計算するじゃないですか。俺はガキの頃、フラッシュ暗算の大会で優勝したんですよ」
ババンボが、サンザのコールに額から脂汗を流している。
しかし魔法使いは俺との会話でゲームから気を逸しているが、ストレート以上は確定だな。
強気な態度を見れば、フルハウス以上の可能性もある。
ジャックとクィーンのフルハウスで弱気にフォールドする気はねえけど、ここで上乗せして寅吉が乗ってきたら厄介だ。
まあババンボはドロップ確定だし、俺の敵はサンザってことかね。
「コールです」
どうする寅吉、レイズか、それともドロップするか。
「リレイズ」
なんだとッ、この局面でチップを上乗せしてきやがった!
俺のフルハウスを超えるペアなのか。
落ち着け、落ち着け、落ち着け、寅吉の勝負度胸は半端じゃねえんだよ。
こいつは、ノーペアでもポーカーフェイスで勝負してくる男だ。
「俺はドロップでさ」
「では僕も」
ババンボとサンザは顔を見合わせると、カードを伏せて肩をすくめた。
なんだ二人とも、急に弱気になりやがって。
寅吉の押しの強さに臆したのか。
「なあタクミよお、俺がゲームに勝ったら兄弟盃を交わしてもらえねえか」
「そいつは、俺もサブのように寅吉さんの子分になれってことですか? じゃあ俺が勝ったら、何をくれるんですかね」
「そんときは、対等の兄弟盃を交わしてやるよ」
「どっちに転んでも義兄弟じゃないですか……俺も遊び人と呼ばれた男、受ける必要がない勝負でも引き下がるつもりはありません」
「だろうな」
俺は条件を飲んだ上で、手持ちのチップをオールインした。
べつに熱くなったわけじゃない。
勝負を挑まれた俺は、寅吉と対等張れるチャンスに賭けてみたくなった。
彼とは短い付き合いだが、男惚れしたってやつだ。
それに負けてサブと同格の舎弟になったところで、世界を救っちまおうなんて、すげえ男の下で働くだけだ。
「タクミ、お前の勝ちだ」
「え、寅吉さん……ブタじゃないですか? 俺が条件を蹴飛ばしても、ワンペア以上で勝ちですよ」
「俺はサンザやババンボの話を聞いて、てめえがすげえ魔法使いになるって確信したぜ。今までサブのダチだってだけで、偉そうなこと言ってきたけどよお。今日からは同格の義兄弟だから、遠慮なく付き合ってくれ」
寅吉は、わざと負けたのか。
「あらま、俺らが必死こいて探していたのに、寅ちゃんはポーカーなんかしているよ」
「おうッ、鰐島じゃねえか!」
冒険者の酒場『パアナ』のボックス席、そこに現れた猫背の大男は寅吉と抱擁して再会を喜んでいる。
二人の背後には、スカジャンのポケットに手を突っ込んだサブ、それに迷彩柄のパンツにチューブトップの綺麗な女性が立っていた。
寅吉と抱き合っているのが商人の鰐島、綺麗な女性は踊り子のモモリンなのだろう。
照れくさそうにしている親友を見て、ここまでの緊張感が解けて気が抜けた。
「寅ちゃん、おじさんは早速だけど歌舞伎街に戻ってさ、今後のことを打ち合わせしてえんだよね。あの街にはシマ髭の診療所もあるし、当面の住処にもってこいだかんね」
「鰐島、そのことなんだが、素鴨の街でやり残したことがあるんだ。シマ髭を待たせることになるけど、まあ、てめえらが参集してくれたから、すぐに片が付くと思うぜ」
寅吉は鰐島の肩を叩くと、ボックス席から事態を見守っていたサンザとババンボを手招きした。
素鴨でやり残したこととは、いったい何だろう。
「サンザ、それにババンボさんよお。俺が、てめえらの組織立上げの見届け人にならせてもらう」
「勇者クレイジータイガーの後ろ盾は、僕らにとって心強いし有難いです。でも実績のない僕らでは、ギルメンが集まるまで何日かかるかわかりませんよ?」
「ああ、だからよ。その実績ちゅうもんを、ここに集まった面子で作ろうじゃねえか。迷宮の化物討伐とか、そんなチンケな実績じゃねえぜ。子子孫孫語り継がれる伝説級の実績ってやつだ」
サンザが『どんな実績ですか?』と聞き返す。
「てめえらの故郷、王塚を化物どもから取り返すんだよ。俺たちだけでな」
俺たちだけで、魔王軍のモンスターに奪われた王塚を取り返すだと……何を言ってるのか、ちょっと意味がわからないんだけど。
本日、第零章プロローグを冒頭に追加したので、よろしければ読んでくださいm(_ _)m




