第十七話 渡世と色と老人街、混沌の素鴨
オークとゴブリンの混成パーティーを倒した俺とタクミは、都心に向かって進路を変更したが、到着した村は素鴨の一つ先にある駒米の村だった。
駒米は小さな村だったが、隣接する畑端と西月暮里の三村を街道で結んで、都市部への化物の侵入を防いでいた。
「寅吉さん、このまま先に進んでも構わないと思うけど、素鴨に引き返してサブたちを探しますか」
「いや、また村の外で迷ったら面倒だ。化物は怖かないが、飯が食えねえのは問題だからな」
「道に迷う心配はないと思いますよ」
タクミは駒米の南側通用門から、すぐ目と鼻の先にある素鴨の街を指さした。
なんでも素鴨と駒米の距離は、最後の砦と呼ばれる村と街の中で、最も近くに配置されているらしい。
その理由を聞いた俺は、素鴨って街に俄然興味が湧いた。
「素鴨は忌避地で老人街なんて呼ぼれてますが、違法賭博や風俗店も多いんですよ。駒米が防魔対策で協力を呼びかけても、地元の連中が反対しているんです」
「異世界にも、ヤクザがおるんか?」
「違法賭博や風俗の店主たちが、化物退治に雇った愚連隊でしょうね……でも非合法な依頼を受ける組織もあるから、ヤクザがいないわけでもないのかな」
「素鴨には、その組織があるのか?」
「隣の池梟に半年暮らしてましたが、そんな話は聞いてませんね。あるとすれば騎士団が目の届かない最後の砦より外側、魔王軍の支配地にある組織じゃないですかね」
「そいつは、面白れことを聞いたぜ。つまり魔王のタマ取るために旅に出れば、異世界のヤクザ連中と出会えるってことだ」
俺みたいな一介の極道が世界を支配する大物を倒せると、なんでキャバクラに現れた少女が考えたのか。
切った張ったが渡世の義理なら、俺みたいな半端者に世界を託した少女に恨みはねえ。
無法者の俺を雁字搦めに縛られた世界から、匕首一本で成り上がれる異世界に転生してくれたこと、今となっては感謝してくれえだ。
しかし五人の身内を参集しても、世界中の化物と戦って、そいつら束ねている魔王のタマ取る手段が思いつかなかった。
ついさっきまでな。
「タクミ、俺は魔王組と戦争する方法を見つけたぜ」
「え、魔王組と戦争ですか」
「てめえの言いたいことはわかるぜ。俺たちを拉致った少女の願いなんざ、無視して生きりゃ良いじゃねえと言いてえんだろう?」
「いいえ、引っかかったのは『魔王組』なんですが……まあ俺に銃を向けた女の願いは聞く必要ないですね」
「殺すつもりで撃ったんじゃねえんなら、こまけえことは水に流してやんなよ。あの女も故郷のために、殺ったことじゃねえか」
タクミは『そんなことより』と、魔王と戦う算段があると言った俺を急かす。
まったくインテリアのくせに、学のない俺が思いついた作戦がわからねえとは情けないぜ。
「俺たちは、全国に散らばるギルドを訪ね歩いて、ギルマスに魔王組との抗争を呼びかけるんだよ。一本独鈷の勇者組だけじゃ勝ち目はねえが、全国の親分衆が賛同してくれたら魔王組にも勝てるんじゃねえか?」
「ギルド=ヤクザの図式なのが、俺には理解できないけど、確かに六人が集まっても、孤軍奮闘では魔王軍とやり合うのは難しいですね」
「お嬢ちゃんも、それが狙いで俺たちを転生したに違いねえ」
「ええ……そうかもしれませんね」
タクミは『んなわけねえよ』と、小声で吐き捨てていた。
学のない俺に転生した理由を言い当てられて、インテリア様が拗ねてやがる。
「寅吉さん、それで素鴨には引き返しますか」
「ああ。渡世と色の街なら良い店もあるだろうし、行ってみようじゃねえか」
「はい」
俺たちが池梟の村を出てから四日目、目的地だった素鴨に到着した。
素鴨の通用門には、明らかにカタギじゃない目つきの門番が立っており、俺の白い装備を物珍しそうに眺めている。
門番が街に持ち込む武器を見せろと言うから、匕首をテーブルに置いた。
「なんだあ、この派手な白い装備はよ。それに帯刀してるのは、ちんまい短剣だけか」
「ああ、それだけだ」
「どうせ素鴨には、博打か女を買いにきたんだろう?」
「いや、旅の途中で逸れちまった仲間を探している。ええと……タクミ、サブたちなんて言ったかな」
タクミは『はいはい、ちょっとごめんなさいね』と、険悪な気配を漂わせた俺と門番に割って入る。
「門番の旦那、ここらで医者、銃士、踊り子、商人がつるんでなかったかい?」
タクミが門番の前に手を翳すと、まるで魔法にかかったみたいに不機嫌だった門番がニヤリとした。
「冒険者パーティーなら、ずいぶんと異色な組み合わせだな……でも探しているのが冒険者なら、酒場『パアナ』で聞くと良いだろう」
「そこは、依頼が受けられる冒険者の酒場ってやつ?」
「そうだ」
タクミは『あざっす!』と手をあげると、そそくさと俺のドスをテーブルから取って街中に進んだ。
「あの門番、てめえに変わってから愛想良くなったが、もしかして魔法を使ったのか?」
「某スター・ウォーズのマスターじゃないですけど、まあ魔法ちゃ魔法を使いましたよ」
タクミが指の間に金貨を挟んで、俺の前に手を翳した。
こいつは揉め事を避けるために、門番に魔法を使ったわけか。
「素鴨は村と違って街なので、人探しには骨が折れそうですね」
「タクミ、まずは美味い酒を飲もうぜ」
「はい!」
素鴨の街は、色とりどりの提灯が並ぶ夜の街だった。
ネオンが輝く日本の繁華街を思い出して、少しだけ里心がついちまった。




