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第零話 とある魔法使いの証言

 異世界エチカ、ギルド『ロメロ』所属の魔法使いサンザは、日本から転生してきた勇者一行を捜査する警視庁組織犯罪対策部の駒形警部に、転生してからの勇者の行動について事情聴取を受けることになった。

 駒形という男は、勇者クレイジータイガーが日本で『ヤクザ』と呼ばれる反社会組織の構成員で、勇者とともに魔王討伐のために旅立った連中も、無免許医や武器密売人などカタギではないと言った。

 日本からの転生者を勇者と称賛していたエチカの国王だったが、彼らを追いかけて日本からきた警視庁の警部の話を聞いて、勇者と親しかったサンザに捜査協力を要請したのである。


「はじめまして、警視庁の駒形警部です」


 サンザに警察手帳を見せた駒形は向かい合わせに座ると、勇者クレイジータイガーが反社会組織で『若頭補佐』という役職にあり、複数の恐喝事件の容疑者だと説明した。

 それを聞いた若い魔法使いは、警部の説明に納得した様子で頷いている。

 彼の知る限り勇者の特徴が、日本からきた男の説明と一致するものだったからだ。


「駒形さんの言うとおり、勇者一行は異世界でもカタギとは言い難い人種の人間でしたね。まず彼らとの出会いは、うちのギルドマスターが魔法やエチカの医療では手の施しようがない腹痛に襲われて、僕が腕の良い回復術師(ヒーラー)を探したことに端を発します」

「ヒーラー? ああ、この世界の回復魔法を使う術者のことですね」

「ええ……しかし探し出したのは回復術師ではなく、患者を開腹して病を治す外科医だったのです」

「そいつは、この男ですかな?」


 駒形はテーブルに、新宿歌舞伎町で整骨院と偽り違法診療を行っていた無免許医の写真を置いた。

 サンザは写実的な似顔絵を見て驚いたが、そこに描かれた男こそ彼の話した外科医だったのである。


「ええ、確かに僕の出会った医者です。未知の治療でギルドマスターの病を完治した彼に、医療技術を伝授してもらおうと、診療所を再び訪れた僕は、そこで二人目の商人を名乗る男と出会いました。彼もまた、僕の知らない未知の魔法道具『携帯電話』を手にしていた」

「携帯電話? それは俺も持っているが、異世界では圏外で使い物にならんですぞ」

「どんな原理かわかりませんが、携帯電話は魔力を利用した遠距離通信だと思います。彼は、それをエチカの商人に作らせたらしい」

「なるほど、魔法ですか」


 中折れ帽を脱いで髪を掻きあげた駒形は、勇者、回復術師、銃士、遊び人、踊り子、商人の写真を全て並べる。

 サンザは『この男が勇者です』と、警部の並べた写真から小松組の若頭補佐を指差した。


「駒形さん、そちらの世界の事情は知りませんが、彼らは魔王から世界を取り戻すために戦っています。とくに勇者クレイジータイガーは誤解される言動も多いのですが、けっして弱者を足蹴にする男ではありませんでした」

「いいや、それは違いますぞ」

「違う?」

「こいつらは、ヤクザ、もぐりの医者、銃刀法違反、キャバ嬢のスカウトマン、ヤクザの情婦、武器密売人……世界を救う勇者一行ではありません。自分はあなたの口から、連中が異世界エチカを滅ぼしにきた魔王だと聞かされた方が腑に落ちる」

「僕も初めは、彼らが勇者一行だなんて信じられませんでした。うちのギルドは、国に認可された真っ当なギルドですからね。あんな粗暴な冒険者は、見たことありませんでした。でも警部さん、勇者は弱者の味方なんですよ」


 駒形はテーブルを叩いて『ヤクザは弱者を食い物にしているッ、あんたは騙されているんだ!』と、肩で息をしながらサンザを怒鳴りつけた。

 警部だって知っている。

 異世界エチカに転生した極道は『平成最後の任侠ヤクザ』と呼ばれており、恐喝容疑も同業のヤクザ同士の抗争であり、カタギに手を出さないことを信条にしていた。

 だから警部も周辺の聞き込みで、勇者の蛮行に耳を疑っている。


「あいつが宿屋の女主人を手籠めしたり、モンスター討伐を依頼した村長に法外な報酬を要求したり、こちらで犯罪行為に手を染めている証拠はあるんだ」


 駒形は転生した勇者クレイジータイガーが、行く先々で犯罪行為に及んでいると聞いていた。

 警視庁の警部は、異世界で女をレイプして、善良な村長を恐喝した勇者、魔王討伐を免罪符に見過ごすことができない。

 外道に堕ちた勇者が異世界で犯罪行為を繰り返す前に、日本に連れ帰り罪を償わさせる必要がある。


「騙されているのは、駒形さんの方なんですよ」

「なんだと?」

「あなたは事の顛末を知らずに、見えている事象だけで彼を悪者だと決めつけている」


 サンザは椅子に深く座り直すと、テーブルに身を乗り出している駒形を見上げた。


「僕も最近まで勇者の悪い噂を信じていたんですが、彼の振舞いには理由があったのです」

「どんな理由があろうと犯罪は犯罪で、罪を犯せば逮捕して罰を与える」

「いいえ、理由を知れば犯罪でもない。僕は、人情話に類するものと捉えますね」


 目を閉じたサンザは、しばらく考えてから『ここだけの話にして下さい』と前置きした。


「魔法使いは、魔導書に書かれた難解術式を読み解いて真理を得る。あの人の振舞いは世間の理屈で読み解けない、難解な魔導書みたいなものです。それを駒形さんに解説するのは、野暮が過ぎると思うのですが」


 サンザは勇者クレイジータイガーが、なぜ宿屋の女主人に乱暴を働いたのか、その理由を話始めたのである。

 そこには、任侠道を極めた男の真実があった。

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