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8話 初お肉、イノシシ。

「兄さん、私も休んでいいですか」

「いいよ、隣においで」

僕が木を背に休んでいると、疲れた様子の阿澄が寄って来て隣に座った。

僕の方に頭を乗せるようにして休んでいる。


どうやらエネルギー切れかな。

式神作るのにも力入るし。


ここからはクラスメイトが一望できる。

木を切っている生徒もいれば、何か唸っている生徒もいる。

他にもジャンプしてる人もいれば、逆立ちをしてる人もいる。


きっとスキルの検証だろう。


先生は僕の10メートル横の木で同じように休んでいて、土御門さんはまだ身体をクネクネしてた。


まだやってるのか。


こうして休憩しながらクラスメイトを眺めて時間を潰した。




3日目の夕方前に、森に行っていた探索組が帰って来た。

一匹のイノシシを抱えて。


「おー! イノシシじゃん! どうしたんだ?」

「…ついに肉か」

「牙が極太やん」

森から引くずるようにしてイノシシを引っ張ってきた室木たちは、途端にクラスメイト達に囲まれる。

僕も何事かと様子を伺うようにして近づくと、苦笑いしている室木がいた。

あのイノシシを仕留めたんだ。

凄いな。


「野生動物なら狩れるかなって思ってね」

「うむ、意外と大変だったが綺麗に仕留めて来た」

「剛ノ内が殴って気絶させたからね、外傷は少ないよ」

「ふはは! 中々硬かったぞ!」

剛ノ内が室木に答えるようにボディビルのようなポージングをとる。


「よくやった、剛ノ内。先生が褒めてやろう」

傍で見ていた表堂先生が嬉しそうに剛ノ内の筋肉を叩く。

バシッと丸太を叩いたような音が響く。


「肉かぁ、でも調味料はどうするんだろ」

「やっぱり丸焼きじゃないですか?」

「丸焼きだと味ないよね」

「肉汁が美味しくなかったら致命傷ですね」

少し遠目でイノシシを眺めてボソッと呟くと、隣にいた阿澄が答える。

阿澄は特段にお肉が食べたいって訳じゃないからそこまで関心はなさそう。

まぁ、元々少食だからか。


「調理師さんがおるから、調味料もどうにかなりそうやけどね」

「調味料なら薬師の人が作りそうだけど」

「そうやねぇ」

土御門さんは室木を中心とした輪から抜けてこちらへと歩いて来て隣に来た。

髪を手で押さえつつ此方を向いて話しかけて来た為答えると、そこまで興味がなさそうに相槌を打った。


それから1時間後昨日と同じように僕らは夕食のために焚き火を中心として円になっている。

誰もが昨日では見せなかった表情を浮かべてそわそわしている。

特に先生なんて木ででてきたナイフとフォークを片手に待っていた。

いつの間にナイフとフォークなんて手に入れたんだ。



「おっす、待たせたなぁ! 俺特製猪肉の丸焼きだ!」

「おぉー! うまそぉ!」

「うわ、めっちゃいい匂い」

急にいい匂いがムワッと辺りを満たした。

三橋くんが大きな木に刺さった肉を他の男子生徒と運んできたと同時に、クラスメイトが声を上げる。

美味しそうだ。


綺麗に皮の剥かれた猪はこんがりと小麦色に焼きあがっており、持ってくる拍子に揺れるたびにピタピタと肉汁を地面に垂らす。

まだ焼き立ての為に白い煙が上がっており、風に飛ばされて匂いとともに僕達の元へ来る。


「じゃぁ一人一人切っていくから、葉っぱ持って並んでくれや」

鋭く尖った石のナイフを片手に三橋くんが声を上げた。

近くにいた男子生徒2人に両はしを持たせて石のナイフでイノシシに切れ目を入れていく。


我先にと並んでいくクラスメイトに続くように僕も後に続く。


「美味しそうですね。それにこの香ばしい匂い、調味料が使われています」

「そうだな、一体どうやったんだ。多分塩も胡椒も手に入らないと思ったのに」

僕と阿澄が葉っぱを片手に並んでいると、後ろから声が掛かる。


「それは森の探索で見つけたらしいよ?」

「あぁ、久礼野さんか。調味料を見つけたってこと?」

「そう。調味料って言っても、草とか木の実で調味料になりそうなのを工夫したって言ってたわ」

随分と久礼野さんは詳しいが、確か久礼野さんは探索班じゃなかったはず。


「久礼野さん詳しいね」

「ん? あぁ、さっき室木君から聞いたのよ」

一瞬キョトンと首をかしげるが、すぐに言葉の意味を理解したのか僕が聞きたかった答えが返ってきた。


そういう事か。

確かに転移前から室木と久礼野さんは仲が良かったし納得だ。


思わず友達に聞くっていう選択肢がなかった僕は聞いてしまったが、久礼野さんは人気だから黙ってても人が集まる。

特に男達が聞いてもいない事をスラスラと話すからいろいろな事を知っていそうだな。


それから直ぐに僕達の番になったので前に進むと、三橋君が綺麗に僕の葉っぱの上に肉を剃り落とす。

まだ冷めていないから、とても美味しそうだ。

思わず唾液を飲み込んでしまう。


「はい、阿澄ちゃんに久礼野さん! 一杯乗せとくね!」

「下の名前で呼ばないでください」

「ありがとね、三橋君」

列から外れて阿澄を待っていると、明らかに僕が受けた対応とは違う姿を見てしまい、いっそ清々しく思える。


「おい、三橋ばっかり話しかけるとかずりぃぞ!」

「そうだぞ! 俺たちも持ってるんだから抜け駆けすんなよ」

「あぁ? お前らはそこがお似合いだわ」

阿澄はその醜い男の争いを嫌そうに眺めながら、さっさと載せるように葉を上げて催促している。


「冷たいなぁ、阿澄ちゃんは。はい、お肉。お代わり欲しくなったら俺んとこに来てねー!」

「お代わりは要りませんので」

全然答えた様子もない三橋は僕の2倍の大きさはあるお肉を切り落とすが、阿澄が受け取ったらさっさと捨て台詞を残してこっちへ歩いて来た。

妹にイヤラシイ目を向けられるのは大変不快だが、ここで突っかかってもいいことはない。

せめて不快をあらわにしている妹の機嫌を戻そうと、積極的に妹と話す事にした。



夕食も終えた僕はいつもと同様に眠りにつこうとしたとき久礼野さんから声が掛かる。


「ねぇ、清宮君。さっきやってくれた肌が綺麗になるやつ、やってくれないかな?」

控えめにお願いして来た久礼野さんは、まるでお風呂上がりのように肌が瑞々しく、艶やかな茶色の髪は水気を含んで一段と暗い色をしていた。


あれ、もしかして水浴びでもしたのかな?


潤んだ瞳で見上げる端麗な顔にドキドキが強くなる。


やばい、かわいい。


「べ、別にいいよ。じゃぁ今やっちゃうね」

「ありがとう、じゃぁみんなも呼んでくるね!」

「ん? みんな?」

僕の疑問に答える前に、久礼野さんはパッと後ろを振り向いて小走りで行ってしまった。


そう言えば僕もシャワー浴びたいなぁ。

多分女子は日中に作ってた仮説シャワー室を使ったんだろうな。


中心に焚き火のスペース、そして焚き火を挟んだ両側に一人一人の木と葉っぱでできた家が数十個。

そして男子グループと女子グループに挟まれる焚き火の脇にシャワー室がある。

僕はここから見える凸凹の岩で囲まれたシャワー室を眺める。


随分と魔法を使いこなせてるんだなぁ。

確か女子の1人で土魔法が使えた子が日中にせっせと土を重ねて壁を作っていた。

流石にいきなり地面から直接壁のようにして生み出すのは無理だった為、レンガブロックのように土を長方形にして組み立てていた。


そこには十数人の、多分クラスの女子全員がシャワー後の艶かしさを含んだ眼差しでこちらを伺っていた。


そして男子生徒は覗きはしなかったようだが、必要以上に近寄って周りを徘徊している。


阿澄に土御門さんも居るし、ってか先生の格好ヤバくないかな?

あまり拭かずにTシャツを着たのか、Tシャツは若干水で透けている。

流石にブラジャーはしている為大事なところは見えないけど女性としてズボラだ。

てか、ブラジャーのヒモとか形がTシャツの上からわかるんだけど、気にしないのか。

僕も男だからそんな格好で近寄られると困る。


それよりも、阿澄もいるんだが近くによるな性欲男どもが。

くそ、ここでガツンと言ってやりたいが、度胸がない今の自分が恨めしい。


そして女子十数人を笑顔で引き連れて久礼野さんが戻ってくる。

同時にそれと同じくらいの男子の突き刺さる視線が飛んでくるので鬱陶しい。


どうやらこの人数を相手しなきゃいけないらしい。

みんなが魅惑的な瞳でこちらを見てくる。

状況が状況なだけにあまり喜べないのは少し歯がゆい。

それに阿澄の前で鼻を伸ばすわけにはいかないし。


「じゃぁお願いね? 清宮君」

可愛らしく首をかしげる久礼野さんと、少し誇らしげな阿澄の表情に僕の選択肢は一者択一となった。



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