6話 食料と水の確保。
まぁ系統別で別れても、そこまで意味はない。
基本はその職業の固有スキルを自分で見つけるしかない為、何と無く別れたにすぎないが。
「じゃぁ、分からなかったらみんなで相談しようね!」
「はーい!」
「おーっす!」
僕が集まるとみんなを見渡して久礼野さんが宣言する。
それぞれの生徒達が久礼野さんの合図で、自分のステータスプレートを出して頭を捻り出した。
土御門さんもプレートを出して何やら唸っている。
「じゃぁ僕達もやろうか、阿澄」
「そうですね、兄さん。はじめに何しましょうか?」
阿澄が見上げるように尋ねてくるが、正直何から始めていいかわからない。
阿澄と僕はほとんど同じ系統なので一緒に考えてもいいだろう。
それに、うちの家系の力のこともある。
出来れば筆や正装は使いたくないが、どうせ明かすなら早い方がいい気がする。
「よし、取り敢えず、式神を作る練習をしよう。やり方はわかるか?」
「一応は分かりますけど、使って大丈夫なんですか?」
「ここはスキルっていう不思議な力があるからね、それでごまかせるよ」
すこし声を潜めて心配そうに聞いて来たが、問題はない。
「じゃぁ、僕が最初に見本を見せるから、真似てみてね」
「分かりました」
そう言って一歩下がる阿澄を確かめると、ぼくは懐から筆を出して先ほどと同じように筆を空中に振るう。
先ほどよりも早くネズミを書き上げると息を吹きかけて式神を完成させた。
チュッチュウ
ん? さっきと同じように作ったのにネズミの毛並みもいいし、何故かすこし知性的に見える。
何でだろうか。
僕が手を地面に下げるとゆっくりと乗った。
「こうだ、出来そう?」
「わかりました」
僕が見ていた阿澄に確かめるように聞くと、一回頷いて同じように筆を取り出す。
僕と同じように空中に筆を振ると、スラスラと動物を書いて行く。
そして同じようにフゥッと息を吐くと、綺麗な金色の毛並みを持ったネコが生まれた。
にゃー
「うまいな。じゃぁ取り敢えずこれでレベル上げできるからいっぱい作っていこう。で、作ったやつは偵察目的で森に出そう」
「わかりました。ほら、ネコさん偵察に行って来てください」
猫を一撫でした阿澄は、背を押すようにして猫を見送った。
それから10分後、僕らはひたすら式神を作り続けた。
絵を描いては息を吹き込み、命を生み出すように地に落とす。
途中で久礼野さん達が何かガヤガヤとしていたが、途中から式神が作るのに夢中になってあまり周りの様子を伺えなかった。
ネズミに飽きた僕は、次に作ったのはウサギだ。
まぁ、描くのが簡単そうって言うのもあるけど、小さいから少ないエネルギーで産み出せるからね。
「可愛いですね、兄さんの描いたウサギ」
無表情な顔には変わりないが、いつも以上にすこし目を広げて頬を蒸気させている。
「阿澄は何を作ってるんだ?」
「んー、今は干支を作ってます」
「え、干支って…。まぁいいけど」
すこし楽しそうに小さな牛を描いている。
どれも金色だから違いがわからないけど、牛の場合は皮膚が金色になるんだなぁ。
僕は若干頬を引きつらせつつ一旦筆を置くと、懐からプレートを取り出して確認する。
名前 アマト キヨミヤ
性別 男
種族 ヒューマン
職業 神主 Lv11
魔法 神魔法 Lv.1
固有スキル 祝詞Lv.1 式神Lv.3
エクストラスキル 言語理解 神威耐性 御護り 神血制御
「やっぱりレベル上がるの早いなぁ。あ、阿澄のも見してくれ」
「プレートですか? はいどうぞ」
筆を片手に龍の絵に挑戦してた阿澄からプレートを受け取って、淡く光っている字を確認する。
名前 アスミ キヨミヤ
性別 女
種族 ヒューマン
職業 巫女 Lv.8
魔法 神魔法Lv.1
固有スキル 神楽Lv.1 式神Lv.2
エクストラスキル 言語理解 神威軽減 御守り 神血抑制
思った通りスキルが増えており、多分だがスキルは行動により増えるんだろう。
僕は確認したプレートを阿澄に返すと、再び筆をとって式神を書き出した。
「天燈君、随分楽しそうだね。ちょっと意外かな」
「え、そうかな?」
後ろから久礼野さんに話しかけられて一瞬ピクンとしたが、平然を装って後ろへ振り向く。
綺麗な茶色の髪が風に揺れるのを手で抑えつつ、僕をじっと見つめてくる。
そこまで気恥ずかしさはないけど、これだけ可愛い子に見つめられると少しドキドキする。
「だって、クラスじゃあまり話さなそうだったからね。人付き合いが苦手かと思ってたよ」
「そんなことないよ」
わかっていて聞いたのか、すこし微笑みながら式神の近くに寄ってしゃがむ。
そのまま今出来たばかりの金色のネズミを指でつついて、物珍しそうにしていた。
◇◆◇◆◇◆◇◆
太陽も真上にまで登って来ており、既にお昼間近だ。
午前中に決めた予定通り、それぞれが職業の系統別に別れていた生徒達は焚き火を囲むようにして腰を下ろしている。
「腹減った…」
「それより喉乾いた。死ぬかも」
「雨ふらねぇかなぁ」
正直、僕もきつい。先程から喉の水分は殆ど無くなっており、唾を飲み込もうにも意味を成さない。
「じゃぁ予定通り森の探索に向かうんだけど、チームは取り敢えず戦闘系の職業の僕達が向かうってことでいいかな?」
「いいんじゃないか?」
「どうせ私達が行っても意味ないしね」
室木が確かめるように生徒達の顔を見ると、疲れた様子で賛成する。
「あぁ、いや一応私も付いて行こう。何かあるといけないからな」
そこで先程まで黙っていた表堂先生が手を挙げる。
ここで手を挙げると思っていなく、周りもすこし驚いた反応を示す。
先生の元からのめんどくさがりと言う性格に反し、それに危ないことに率先して付いて行こうと言うのが意外である。
「…いや、一応私も教師の端くれだからな? 流石に未知の森に生徒だけ行かせたりしないさ」
表堂先生は心外だと言わんばかりに肩を上げて主張する。
「分かりました。では僕と剛ノ内、斎藤君に松本、梶井と後は先生の6人で行きます」
確か玖鞠さんも戦闘系だったけど、流石にいきなり女の子には探索させないらしい。
室木は救世主、剛ノ内は戦師、斎藤は狩人に松本が格闘師、そして梶井が剣師と戦闘系が勢揃いだ。
職業から見るに松本はボクシングや空手などの格闘技、梶井が剣道でもやってたんだろうか。
まぁそれ相応に2人とも鍛えられてるし大丈夫だろう。
でも、斎藤は狩人って言うけどすこしぽっちゃり気味だし大丈夫だろうか。
それより僕は言わなければならないことがある。
「ちょっといいか?」
「ん? どうしたんだい、清宮」
僕がすっと手を挙げると室木が反応して、周りの視線が集まる。
「いや、僕が神主って言うのは知ってると思うけど、スキルで式神を作れて意思の疎通ができるんだ。今は幾らか森に探索に行ってもらってて、それでわかったことがいくつかあるから、聞いてほしい」
僕は珍しく長々と話したが、思った以上につっかえることなく口から出た。
「すげー、もうスキル使いこなせてんのかよ」
「わたし近くにいたら見たよ。金色のネズミとかネコだった」
「確か阿澄ちゃんも出来てたね」
僕の話を聞いたクラスメイトはすこし隣同士で話し始める。
「じゃぁ教えてもらってもいいかい?」
「まず、意外と近くに木の実とかキノコ、まぁ食べられるか分からないけど食糧はあった。それにすこし遠いけど川もあったから食糧はなんとかなると思う」
あの後偶然にも見つけた川の情報も交えて言葉にする。
そのセリフを聞いたみんなは大きく安堵し、すこし嬉しそうな表情をしている。
僕もこの情報は嬉しい。
それに川もあるからもしかしたら汗も流せるかもしれないし。
でも僕はすっと一旦息を止めて、残りの情報を追加した。
「…でも、動物もいた。おっきな猪みたいなものに凶暴なウサギ。それに多分ゲームとかに出てくるゴブリンみたいなやつ」
「…それは本当かい?」
室木が息を飲むと、確かめるように聞いてきた。
先程まで嬉しそうだったクラスメイトも、特に女子がすっと顔色を変える。
男子は覚悟をしていたのか、この状況を楽しんでいるのか、あまり表情の変化はない。
でも一部、斎藤達のグループはすこし嬉しそうな表情をしている。
「確かだよ。僕の式神がいくつかやられた」
「…そうか。そのモンスター達はどこらへんにいるかわかる?」
「一応見つけた奴らには式神を付けてるから場所はわかる」
今日の午前中に大量に作った式神をモンスターを見つけ次第後を追わせている。
流石にここから距離があると言っても広場に近づかれたは大変だからね。
「…清宮、一緒に来てくれるか? 流石にいきなりの遭遇戦は避けたい」
「…わかった」
予想はしていたので僕は迷うことなく答える。
傍から腕をツンツンとされて横を向くと、すこし心配そうな表情をしている阿澄がいたが、僕は心配させないように優しく頭を撫でて落ち着かせた。
「じゃぁ10分後に森の探索入る。他の人達はそれぞれスキルや力の把握に時間を使ってくれ」
室木がそう締めると、クラスメイト達はだるそうに立ち上がってそれぞれいた場所まで歩いていった。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「じゃあ行くか」
「ふむ、まずは水源と食料の確保だな」
室木の合図で歩き出し、剛ノ内が下を見渡しながらゆっくりと歩く。
先頭に室木と格闘師の松本と狩人の斎藤、間に僕と表堂先生、そして最後尾に剛ノ内と剣師の梶井が位置について歩いている。
森の中は広場よりもすこし暗く、そして圧倒的に歩きにくい。
僕達が今履いている靴が学校内用の軽いシューズというのもあり、森の中を歩くのは適していない。
先生に関しては完全にスポーツシューズで有るから歩きやすそうだが、女性にいきなりの森歩きはキツイ気がする。
「そこを右にいこう」
「わかった。右だね」
僕がすこし歩くたびに行き先を指示してルートを変える。
「それにしても食べられそうな木の実で良かった。よくやったぞ、清宮」
「いえ、それほどの事じゃないですよ」
隣で歩く先生が先程から道の途中で発見した果物などをジャージの上着を籠にして抱えている。
ジャージの下に来ていた英語の文字が入った半袖一枚の状況だ。
女性の薄着は目に毒である以上に、森の中で薄着は少し安全面でも心配だ。
それにしても食べられそうでよかった。
まぁまだ確実に安全とは言えないけど色的に食べられる気がするし、小さな虫が食べてたから毒はないと思う。
確か薬師の職業の人とか調理師の人がいたし、その人達なら食べられるか分かるスキルがあるはずだ。
もし食べれなくても僕の祝詞で浄化出来ればやればいいか。
祝詞はまだ試してないけど、多分神聖なものだから浄化系なきがするし。
あ、この先に猪みたいなのがいる。
「室木、この先に猪がいるから避けようと思うんだけど、どうする?」
「…まだだよね。じゃぁ、避けよう」
歩きながら前にいる室木に尋ねると一瞬ためらった雰囲気が感じ取れた。
多分、生き物を狩るのに抵抗があるんだろう。
僕だってそうだ。
一高校生がいきなり食べる為とはいえ生き物を殺す決断を出来るわけがない。
それに武器だって満足にないんだ、ならまだ手を出す必要もない。
僕はその後別ルートを指示して川へとたどり着いた。
「ついた!」
水の音を感じ取った僕らは早足で歩く。
森の木を手で避けながら進むと、先には幅が3メートルほどの川があった。
川の脇は砂利で出来ており、森から抜けた途端に足で地面を踏む感覚が変わる。
「川も綺麗だし、…魚がいる!」
僕は近寄って水質を確認すると、流れているためか透明で、変な匂いもしない。
それに、青い鱗を持った小さな魚が数匹泳いでいるのを確認した。
「清宮、飲めそうか?」
「ん、多分飲めると思うけど、一度確かめた方がいいかな」
後ろから剛ノ内が川と僕の顔を覗き込むようにして見つめて来た。
一瞬顔が怖いせいもあってびっくりしたが、すぐに返答する。
「じゃぁ、俺が一旦飲んでみよう。ダメなら腹を壊すくらいで済むだろう」
「…豪胆だね」
川辺にしゃがみ込んだ剛ノ内が魚がいるのを確認すると、川の水を手ですくって口に含む。
転がすように口の中を動かしてそのあとすぐに吐き出した。
多分すこしだけ飲み込んで体調の変化を見るんだろう。
万が一体に悪いものでも腹を下すだけですみそうだし、治癒師の久礼野さんもいるんだ。
だから大丈夫と判断したんだろう。
もともと僕がカバンに入れていたペットボトルに川の水を入れて確保した。
帰ったら一応調べてもらおう。
読んでいただき有難うございます。
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また次話をお楽しみください。