5話 式神作成。
そうして一人一人発表して行き、僕の番になった。
みんな視線が僕に集中するように集まり、普段人と話さないせいか余計に緊張してしまう。
「じゃぁ、次は僕だね。僕は神主、多分お祓いとか後祝詞を唱えたり、補助系の役割だと思う」
自己紹介が始まってから考えていた内容を一字一句間違えないように言い切る。
こう言う時ってどこに視線を向けていいかわからなかったので、取り敢えず焚き火を見て口を開いた。
「そ、そうだよね〜。清宮くんは家が神社だからそうなるよね」
「神主かぁ、袴姿も見て見たくない?」
「私こっそり行ったことあって見たけど、よかったよ」
今までと同じように一言二言職業について話して終わりかと思ったが、何人かの生徒たちが僕の話を始めた。
正直恥ずかしい。
それ以上にほとんど話したこともないのに、なぜ僕が神社の子って知ってるんだろうか。
そう疑問に思って視線を向けるも、その女の子は慌てて視線を逸らした。
あれ、好意的な反応だと思ったのにすぐ視線をそらされたんだけど。
「見たいのも分かるけど、ほら静かにね。清宮くんも困ってるよ?」
「だ、大丈夫だよ。それより次に行こう」
僕が自分の話題が始まってしまいどうしたらいいか戸惑っていると、久礼野さんが止めに入って着てくれた。
彼女の一言で生徒たちも静かになって僕の隣に座っている阿澄の番になる。
阿澄は集まった視線など気にすることなくスッと立ち上がり、口を開いた。
「私は巫女で、神楽とか踊れるので恐らく兄さんと同じく支援系になります」
はっきりと発した言葉が自然と響く。
自信のある人の声は自然と通るし、綺麗な声をしていることが多い。
実際阿澄も声だけでなく、見た目も綺麗な方だから人気があるんじゃないだろうか。
現に男女問わずボーっと阿澄を眺めている人がいる。
自己紹介を終えた阿澄はスッとしゃがんで僕の隣に腰を下ろした。
そして先ほどと同じように次々発表していく。
土御門さんは実家の家業もあって、予想通り職業は陰陽師だった。
ここに幽霊や、そう行った妖の類がいるかは分からないが、他の生徒、男子が特に凄いってはやし立てた。
多分、気に入られたいとかそういった理由だろう。
先生の場合は普通に職業が教師だった。
多分、人に教えることに何かが補正されると思う。
まぁこのステータスプレートって、書いてあることを詳しく知るような詳細など一切ないため、それぞれが手探りで知っていく必要になる。
僕は文字の部分がわずかに光っているステータスプレートを眺めながら自己紹介を聞いた。
ある程度それぞれの力を把握した僕らは、流石にこれ以上動くのはこの疲れた体には酷なので休む事にした。
地べたで寝るのはきついがそれでも文句を言っていられる状況ではなかったので、女子男子ともそれぞれ着ていた上着を地面に敷いて横になる。
配置としては焚き火を挟んで男子グループ、女子グループといった形だ。
僕もみんなと同じように横になる。
「…星空だ」
横になった僕の視線の先には、真っ暗な空に点々と輝く星が散りばめられていた。
一つ一つが自己主張する事なく、それぞれが光る事によって一つの空を作り上げている。
地球にいたことはこんな綺麗な星空は見る機会なんて無かった気がする。
不幸中の幸いとも言えるのか、こんな素晴らしい星を観れたのは良かったとちょっと思った。
◇◆◇◆◇◆◇◆
陽の光の眩しさに目を覚ますと、すでに焚き火は消えていた。
「しまった、もしかして見張ってなかったら危なかった感じじゃないか」
一瞬これが寝ている生徒たちに燃え移る事が思い浮かんだが、今更いっていられない。
昨日はそこまで気が回らなかったし、次から気をつければいいだろう。
僕が地べたで寝た事により固まった体を解しながら立ち上がると、他の生徒たちはまだ寝ていた。
僕は習慣のためか早く起きたけど、多分まだ時間にして5時頃だろうし、それに昨日は色々あって疲れたはずだから寝てる生徒が大半だろう。
僕は足音で起こさないように広場から離れると、森の淵まで歩いて行き、近くの岩に腰を下ろす。
森側を向いて誰かが起きても観られないように位置どる。
「よし、破損は特にない」
そして今まで懐にしまっていた筆を取り出して、軽く振るう。
真っ黒な持ち手に、純白と表現しても過言ではないほど艶のある綺麗な白い筆先。
そして黒い持ち手には所々に金色で羽の模様が書いてある。
正直言って持っているだけで目立つためあまり使いたくはないが、この状況のため仕方がない。
僕は、やり方だけは知っているこの筆の使い方を記憶にトレースする様に振るいだす。
空中をなぞるように動かすと、筆先から金色の線が生まれてくる。
まるで空に絵を描いているようだ。
そして1分ほどして完成した絵は、写真と見間違うほど精巧に書かれたネズミだった。
僕は描き終えると、筆を一旦ポケットにしまって息を整える。
そして目の前に浮かぶ金色のネズミに向かって勢いよく息を吹きかけると、まるで空間から押しのけられたように立体的になっていき、ポトっと地面に落下する。
『チュ、ッチュウ』
金色の毛を持った10センチほどのネズミが生まれる。
そう、式神だ。
今更だがこの筆を説明しよう。
僕たち清宮系には神の血が僅かに混じっているからか、不思議と神力、つまりは神の力を使える。
まぁ使えるといっても、神本来のミリ単位以下の力だが。
それでも人間が使うには強力であるため、なんの媒体もなく使うには無理がある。
それで使うのがこの筆だ。
この筆に力を込めて間接的に使う事によって僕達が安定して神力の一部を使う事ができるのだ。
それで今回したのは、式神の作成。
式神は会話は出来ないが、何を思っているかは脳内に直接の意思が飛ばされてくる事でわかる。
今回はそれを利用してこの島の探索をするつもりだ。
僕は同じような動作を残り9回行うと、十匹になったネズミたちに探索してくるように命じた。
チュッチュと一鳴きすると、バラバラに森の中へ入っていった。
「これで取り敢えずは何があるかわかるかな」
僕は初めて使った力に少し疲労を覚えて、先ほど腰掛けていた岩に深く体重をかける。
「ん? 光ってる」
疲れた息を吐くように視線を下げると、筆をしまったポケット側と逆のポケット、ステータスプレートをしまってる方が淡く光を放っている。
何だろうか。
「…これは、ステータスが成長した?」
取り出したプレートに書かれたものは、昨日とは違ったものになっていた。
名前 アマト キヨミヤ
性別 男
種族 ヒューマン
職業 神主 Lv6
魔法 神魔法 Lv.1
固有スキル 祝詞Lv.1 式神Lv.1
エクストラスキル 言語理解 神威耐性 御護り 神血制御
「…増えてる」
固有スキルに式神という項目が増え、神父のレベルが6になっている。
もしかして先ほど力を使ったせいでそれがレベルを上げたのか?
式神を作ったから、スキルとして現れたんだろう。
それでも、たった十匹作っただけでレベルが6まで上がるなんて。
最初だから上がりやすいとか?
「それに、体が軽く感じる」
先ほどまであった疲労が、嘘のように消えて体が楽に感じる。
試しに立ち上がって見ると、普段以上に動ける気がしてならない。
清宮系は一般の人と比べると身体能力が驚異的なほど高い傾向があるが、レベルが上がれば身体能力も上がるなんて。
この世界の在り方に少し恐怖すら覚えてくる。
これじゃあ、簡単に人はボルト以上に早くなるんだろうな。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「よし、じゃぁ午前中はそれぞれが能力の把握に時間を使おう。それで午後からは森に入って食料と水を探そう」
あれから2時間くらいすると生徒全員が起きたので、昨日と同様に円になって今後の予定を決めている。
まだ眠いのか欠伸をするもの、女子同士で寝癖を直しあっているもの、崩れた化粧に意気消沈しているものなど様々だ。
それでも、明らかにみんな元気が無く、お腹を抑えている。
それはそうだろう、昨日から水も食べ物も食べていないのだから。
せめて水だけでも確保したいが、僕に送られてくる意思の中にまだ水場の発見は来ていない。
だけどそれ以外ならわかった事がいくつかある。
まだ直で見ていなから判断できないが、野生の木の実やキノコが生えており、多分だがすぐに見つけられる距離にある。
あとわかったのは、朗報というより悲報に近い。
どうやらこの世界は僕達が予想している通り、危険な生物がいるらしい。
まぁ職業で戦闘系がバリバリあったから覚悟はしてたけど、大きいイノシシや凶暴なウサギ、それにゴブリンのような醜悪な顔をした生物がいるらしい。
つい先程式神の一匹の意思が突然途絶えたから、やられたんだろう。
生徒たちがそれぞれ互いに距離を置き、同じ職業、また似ている職業のもの同士が集まって話し合いを始めた。
鍛治師は鍛治師同士、戦闘系は戦闘系同士など分かれている。
僕は支援系になるだろうけど、どうすればいいか、妹と一緒にすこし座ったままでいると声が掛かる。
「清宮君、って、妹さんもいるし天燈君って呼ぶね」
そちらへ視線を向けると、久礼野さんがすこし前かがみで話しかけて来た。
髪を抑えつつ体を倒しているせいか、すこし胸が強調されている。
そんな事より僕は今、久礼野さんから下の名前で呼ばれてしまった。
何だろう、女の子に下の名前で呼ばれるとすこしムズムズする。
「ん? どうしたの?」
「どうされました?」
「えっとね、戦闘系じゃ無くて支援系の人たちは纏まって話そうかなって思うんだけど、どうかな?」
僕と阿澄が同時に聞くと、久礼野さんはチラッと自分の後ろに視線を向けて言葉を続けた。
視線の先には数名の男女がかたまっており、こちらに視線を向けていた。
先生と土御門さんの姿もある。
「そうだね、じゃぁ僕達もそっちに行くね。いいよね、阿澄」
「私は兄さんについて行くのでそれでもいいですよ」
僕達が提案を受け入れて立ち上がると、久礼野さんは嬉しそうに微笑むと先を歩き出した。
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