表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
他界窓口  作者: 正守証
5/7

「南無阿弥陀仏」

 老人と会話をしたあの日から、二日が経った、その日の放課後、教室に残ったぼくを、森田が殺そうとした。

 教室に残って本を読んでいたぼくだったが、森田と二人きりになったところで、突如として筆箱に入っていたカッターを取り出し、ぼくに一突き、腰に刃が突き刺さり、血が溢れた。

「お前を殺せばさ、有名になれるんだよ。なあ、頼むよ。友達じゃないか、おれのために死んでくれよ」

「痛い、やめてくれ、痛いんだ、本当に痛いんだ、酷く痛むんだ、やめてくれよ、森田、友達だろう」

「う、うるさい。その口元をカッターで抉り、二度と喋れなくしてやるぞ」

「どうしてだよ、犯罪者として有名になったところで、そんなもの、誇れるわけがないだろう」

「まさか。そんな馬鹿な真似、絶対にしない。気づいていなかったのか、自分の罪に。恵太くんよぅ、お前を殺せばおれは、英雄になれるんだ」

 話が通じない。彼は、いわゆるサイコパスだったのだ。そう考えないと、とても頭の整理ができなかった。

 職員室だ。職員室に逃げよう。教員に助けてもらおう。このまま森田と同じ部屋にいて、なおかつ生き残るなんて、そんなもの、土台無理な話なんだ。

「お、っらあ!」

 手元に置いてあった鞄を手に取り、それを勢い良く森田にぶつける。ダメージ、なんてものは当然与えられないが、しかし、視界を塞ぐくらいならば出来るはずだ。

 走れ。走れ。頑張れ、ぼく。ぼくは強い。ぼくは速い。彼は弱い。彼は遅い。追いつかれるわけには、いかない。

「待ちやがれ、クソッタレッ!」

 手を伸ばした彼は、地面に倒れた。恐らく手を伸ばしすぎて、足腰が負担に耐えられなかったのだろう。良いぞ。好機だ。逃げろ。逃げろ。

 階段で急カーブ。階段は三段飛ばしで、跳ぶ。職員室のある、二階に辿り着いたならば、すぐに左折。このまま職員室へ。

「頑張れ、ぼく、頑張れ、ぼく、頑張れ、ぼくっ」

 目前に職員室。扉を、開け──

「──‥‥‥誰も、いない」

 恐ろしいほどの殺風景が、ぼくの視界には広がっていた。無数に置いてあるプリントとは裏腹に、肝心の人間が、一人もいない。

 マズイ。マズイ。マズイ。捕まる。捕まってしまう。殺されてしまう。森田の足音が、聞こえた。

「っ、どうしたよ、恵太くんよう。頼みの綱だった職員室に、誰もいなくて驚いたのかよ。そうさ、そういうことなのさ。職員ですら、お前の死を望んでいるんだ。先生方はよう、お前の入学、拒んだらしいぜ。でもそれだと、人権問題が関わってくるからな。だから、嫌々ながらも、お前を入学させた。でもなあ、本当は死んでほしかったんだ。だからこっそりと、おれが今回の計画を伝えた。喜んで賛同してくれたよ。どうだい、恵太くんよう。悔しいかい、恐ろしいかい、走馬灯でも見えているのかい」

「い、や、だ」

「何だよ、もう認めちまえよ、自分さえいなければ、皆が幸せになれるんだぜ。ならいっそのこと、世界のために死んでみようとは思わないかい」

「死にたく、ない」

「そうかい。けど、残念だった。南無阿弥陀仏だ、さようなら」

 森田が駆けてくる。ぼくの許に。ぼくの目前に来て、そしてカッターナイフを、ぼくの腹部に向かって。

「う、が、あ、ああ、あ、あぁ‥‥‥」

 血が溢れる。どこかの血管が途切れたのだろう、ある一瞬を境に大量の血が噴き出た。

 嘔吐が止まらないときのように、口を大きく開き、閉じない口から声が漏れる。そして、徐々に無くなる意識に抵抗など出来ずに、とある瞬間に辿り着いたとき、ぷつりと、視界が真っ暗になった。

 ラーメンの玉子を、海苔で包んで食べるとすごく美味しいので、ぜひ試してみてください。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ