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もし、私を"毒林檎"以外で殺せたなら  作者: 弥咏 優(みえい ゆう)
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#01 初めの壱歩は

 


 とある国にて。


 雪のように真っ白な肌と血のように鮮やかな赤色で染まった頬、艶のある黒髪を持って産まれた"白雪"というお姫様がおりました。

 それはもう、生まれながらのべっぴんさんであると絶賛され、隣国にまで噂が広まるほど大きなニュースとなりました。


 そんな祝福ムードの中、王女様がお亡くなりになられました。

 王様は酷く悲しみましたが、まだ幼い娘のことを考えて、新しい后を迎えることにしました。

 新しい后もまた、とても美しいお方でおられましたので、城中は毎日白雪姫と王妃、二人の話で持ちきりでした。


 その頃からだったでしょうか。

 白雪姫と王妃が互いに距離を置いていらっしゃったのは。

 周りは皆、最初はよそよそしく見えるのは義理の母に戸惑っておられるからだと思っておりました。ですが次第に、何かがおかしいと噂されるまでになりました。

 しかし、誰も二人のどちらかにこの話を持ち出そうとはしませんでした。


 そんな中、年月は過ぎ去ってゆき、白雪姫が七つの歳を迎えました。その際、彼女は王様へ、次のような事を申し上げました。

「……お父様。お父様、私はもう時期、この城から追い出されてしまいます。

 ですが、くれぐれもお悲しみになるようなことはありませんよう、私のことはすっかり綺麗にお忘れになって、お義母様とお幸せにお暮らし下さいませ」

「白雪、君はおかしな事をいう。どうして白雪がこの城から追い出されることがあるのだろうか。仮にあったとしても、私が君を忘れ、后と幸せになれようか。

 それに今は亡き、君の母はそれを望んではいないだろう」

 王様は新しい母とうまくいっていないからこのような事を言うのだろうかと最初は考えました。あれから数年経ってもなお、白雪姫と王妃の仲はあまり良いとは言えない状況だったからです。

 ですが、時間を置いてから王様は一つの噂話を思い出しました。

 それは王様が新しい后を迎えてから、白雪姫が奇妙な発言をしているというものでした。そして、その発言はまるで予知したかのようによく当たると言われているのです。

「まさか、本当に、本当に白雪は何処かへ行ってしまうのか……?」

 例え、噂通りだったとしても。

 先ほど娘が言ったことが本当だったとしても。

 ありえないと言わんばかりの顔で王さまが呟いた言葉に、白雪姫は何も答えずに微笑むだけです。

「お父様、お身体にはお気をつけなさってくださいね。それでは……さようなら」


 これが白雪姫から王様への最期の言葉でした。



 ***



「鏡よ、鏡、世界で一番美しいのは……白雪姫、かしら」

『……ご名答。だが、今日はどうしたんだい? その尋ね方は傲慢な貴女らしくない。その分かりきった表情だって……まるで未来を知っているかのようだ』

 王妃はただ一言、そうね、と呟くとそれきり口を閉じてしまいました。何か考え事をしているようです。

 鏡はそんな王妃の様子をみて、面白くないなぁ、と呟きます。

『本来なら貴女は怒って白雪姫を殺すんじゃないかと思ったんだけど……』

「えぇ、そうね。私は白雪姫を殺すわ」

『へ?』

「だから、私は白雪姫を必ず殺してみせると言っているの」

『……ははっ、なんだ。そうか。貴女は一番綺麗である為に、白雪姫を殺害するのか』

 それでこそ貴女だ、と鏡が嬉しそうに言いますと、王妃はため息をついて貴方は何も知らないから、と小声で呟きました。

『何か言ったかい?』

「別に、ただ狩人に白雪姫を殺害するように依頼しておかなければ、と思っただけよ」

 王妃はこういうと鏡の元を去っていきました。鏡はそんな彼女の姿を見送ると、少し悲しげな声でこう言いました。


『確かに世界で一番美しいのは白雪姫かもしれない。けれど、王妃、王女様、これだけは覚えておいてほしい。僕の中で最も美しいと思う人間はただ一人、貴女様だけだということを』



 ***



「ああ、どうしたらいいんだ」


 今日も王子様は頭を悩ませておりました。それはもちろん、白雪姫についてです。


「白雪姫は生きたまま、僕の嫁となってしまう。喉に詰まった林檎を吐き出させなければ生き返る事もないだろうと思ったが……あの白雪姫は林檎嫌いらしい。これではどうしようもないではないか」

「坊ちゃん、少しお休みになってはいかがでしょうか? ……いえ、今の貴方に休暇は不要でしたね。坊ちゃんは白雪という娘を見てから、このように変態……おかしな事を言うようになってしまった」

 彼の家来は呆れた声でそういうと、王子様を無理矢理ベッドから引きずり落とし、部屋の外へと追い出しました。

死体愛好者(ネクロフィリア)という噂は聞いておりましたが、ここまで重症だとは正直思っておりませんでした。これはどうしようもないクズ……王子様ですね。

 それはともかく、お仕事だけはなさってください」

「仕事ならいつもしているではないか。それに僕は至って正常、いや、そうだ。そうか。あの方と手を組んで白雪姫を……」

 王子様は何かブツブツと呪文のようにも聞こえる言葉を呟きながら、仕事場へと向かって行きます。その後を家来は黙ってついて行きます。

 どうやら隣国の王子様は白雪を一目見た時期から"病"に侵されてしまったと城中の者から哀れむような目で見られ、最終的には気味の悪い者と認識されてしまったのです。

 ただ、王子様はそれを何とも思いませんでした。

 なんせ、彼の心は白雪姫にがっちりと掴まれており、周りが見えていないのですから。


「待っていてくれ、白雪姫。今度こそ必ず、貴女を綺麗な姿のまま、この城へ迎え入れましょう」

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